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第2話 米国非特恵原産地規則を日米貿易協定に適用する不思議

前 編

(2020年1月17日、第38話として公開。2021年12月15日、note に再掲。)

 我が国から米国に輸出するに際して、日米貿易協定上の原産品として日米特恵税率の適用を受けた(例えば、MFN税率5%から日米特恵税率0%になる)場合において、当該産品が米国の非特恵原産地規則の適用により中国原産と判断されるならば、対中国追加関税が日米特恵税率に上乗せされて適用される(同一事例で、日米特恵税率0%から対中国制裁関税25%に上乗せされる)というダブル適用があり得るということでした。

 このような特異な事態が生じるには2つの条件が揃わなければならないことも述べました。すなわち、第1に、当該産品が①日米貿易協定上の米国の譲許品目であり、同時に、②米国通商法第301条の対中国追加関税の対象品目であって、かつ、除外品目に入っていないこと。第2に、我が国で生産された当該産品が、日米貿易協定の品目別原産地規則を満たした上で、米国の非特恵原産地規則を適用した結果、我が国で実質的変更が生じたと認められず、主要原材料の原産国である中国が当該産品の原産国と判定されることです。

 さて、今回のお話しは、我が国から産品を輸出する際に適用される日米貿易協定の米国規則に限定したものです。日米貿易協定原産地規則においては輸出と輸入とで非対称な原産地規則が適用されるので、我が国から米国に日米貿易協定を活用して特恵輸出する際には、英文の米国規則を理解し、産品が米国規則上の原産品であることを確認してから輸出しなければなりません。そこで注目すべきは、

パラグラフ18(c)の規定

です。

『18 (c) 個々の規則が関税分類変更基準を使用して定義され、かつ、HSの類、項又は号レベルで税目(tariff provisions)を除外すべく記載されている場合、当該原産地規則は、産品が原産資格を得るためには当該除外された税目に分類される材料が原産材料であるべきことを意味すると解釈される。当該材料は、米国の国内法に従って、米国或いは日本国の完全生産品である場合、又は第三国からの或いは第三国で生産された材料が米国或いは日本国において実質的変更が生じた場合に原産品とする。(筆者による仮訳)』

 第1文は、関税分類変更基準の適用上の原則を示したものなので、特段、目新しい内容が規定されている訳ではありません。米国規則における品目別規則としての関税分類変更基準は、当該規則が設定されている8桁の国定税番が属する類、項又は号への変更を求めるものです。関税分類変更基準は、どの程度の変更を求めるかによって類変更、項変更、号変更と緩やかになっていきますが、どのような変更を求めたにせよ、要件を満たさない場合があります。それは、品目別規則が設定されている8桁の国定税番が属する類、項又は号の産品と同じ産品(当該類・項・号に分類されるもの)を材料とした場合です。すなわち、関税分類上の変更がない(関税分類の変更を伴うだけの加工、作業が行われていない)場合です(カテゴリーA)。

 次に、当該産品の生産において、カテゴリーA以外の特定材料の使用を制限する政策的意図がある場合には、基本形の類・項・号の変更から、(i)特定材料が分類される類・項・号からの変更又は(ii)特定項・号に分類される材料の一部からの変更を除外する品目別規定を設定することがあります(カテゴリーB)。

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