「味の押し波、余韻の引き波」若波酒造(福岡県大川市鐘ケ江)
大正11年創業の若波酒造。
蔵の傍を流れる筑後川のように「若い波を起こせ」と銘々される。
「波」を表現する酒造り
味の押し波、余韻の引き波
銘柄にもあるように全て「波」に例えていきたい。社長、杜氏が船頭となり、蔵人と共に船で航海していく。
若波酒造は蔵全員の利酒レベルを引き上げることを目標にしている。
その理由は福岡に2名しか存在しない「清酒専門評価者」が2名ともこの蔵にいるからだ。
例えば酸味の軸の話をする時「酸味を増しましょう」といっても人によって舌のモノサシが異なるから、蔵全員の舌のモノサシを揃える必要がある、との考え。
このモノサシを揃えることで「酸味を5まで増しましょう」といった情報共有がチームでできる。
若波の3本の矢
若波を引っ張る3名を3本の矢と表現していた。
蔵内ギャラリー
造りの時期は毎日600キロを洗う。以前醸造試験場の先生から「普通酒まで全て限定吸水しているのは若波ぐらい」と言われたそう。
造りのテーマである「味の押し波、余韻の引き波」の引き波を表現するのは、この洗米部分が非常に重要と友香さんは考えている。
若波は8ヶ月間日本酒を仕込む、毎日洗米は行うので「誠実さが必要」である。酒造りはチームの信頼関係が必須で、人として基本ベースが誠実でなければならない。
「酒造りで唯一微生物が関与しないのが洗米」と語る友香さん。
その後は微生物がいかに快適に過ごすことができるか、を管理する酒造りでは一番最初の洗米を安定させることがポイントとなる。
吸水は0.1%単位まで目標を持ち、行うほどのこだわり。
若波酒造には冷蔵庫がA~Hまである。冷蔵庫が多い理由は、友香さんが子どもの頃まで製氷業も行っており、冷蔵に対する意識が当時から高かったとのこと。蔵の考えとして冷蔵庫に収まる量までは新規取引先は増やさないという。長らく新規取引先は増やしていないので、実は購入できるお店は限られている。
衛生度合いが酒質を制す
造りの時期は毎週末必ず甑倒しぐらい掃除を行っている。本当に大変だが、2週間に1度にしてしまうと自分にも甘えが出てしまうとのことで、厳しく清掃を設けている。
麹は10月から1ヶ月作り続け、冷凍貯蔵する。
そうすることで忙しい時期に麹作業を減らすことができるメリットがある。
若波テイスティング
■寿限無スパークリング
瓶内二時発酵のスパークリング。
香り爽やかで、麹の風味がどことなく感じられる。口当たりはドライで、シャープ、まろみや複雑さはありながら、酸味の爽やかさがある。
■ヴィンテージ
若波は若がついているので、熟成ではなく「長期貯蔵」という概念。
しっとりとした香り、ほのかにバナナ、葡萄を思わせる。アタックは滑らかで練れた質感、中間は柔らかくビター、とろりと滑らかに広がる。当時はアミノ酸少なめに設計していた、と庄司さん。
焼きなすなど「火の香り」がある料理に。
■純米酒
香り爽やかでバナナを思わせる。アタックは軽やかな旨味と酸の輪郭、中間は旨味あり、後口は爽やかな酸が引いていく、ビターなフィニッシュがある。安定の定番酒。
■純米吟醸
香りはバナナ、マスカット、など爽やかで綺麗な香り。
アタックは滑らかでつるりとした質感、軽やかさの中にビターなフィニッシュが味わいを引き締める。料理が欲しくなる味わい。
■タイプFY2
香りは柑橘を思わせる爽やかさ。アタックは爽やかな酸の輪郭がありフレッシュな印象から、中間は爽やかな酸味、後口の心地良い苦みと酸味のフィニッシュで軽やか。
FY2とは=福岡夢酵母の頭文字でFY、そのバージョンが1〜4まであり、唯一香りが低めなのが2、でFY2。
福岡はカボスなど柑橘が多いので、それに合わせても◎
丁寧な酒、安心の酒
「週にタンク2本しか仕込まない、そうすることによって1本ずつをとても丁寧に仕込むことができる」と友香さん。
造りが終わると「今年も丁寧に向き合えたなぁ」と思えることが大切だと今後も量産はしない方向で進んでいく。
全ては「掃除がいかに大切か」に尽きる酒造り。
国内で認められた唯一の公的資格・清酒専門評価者の資格を持つ、友香さん、庄司さんがいることで、製造技術だけでなく、きき酒能力も圧倒的に高い。
発売する時もこの2人の舌をクリアしたお酒だけがリリースされる。片方だけの判断では絶対に出さない。
徹底的な清掃と高いレベルのテイスティングをくぐり抜けた酒は「安心して飲めるお酒」に違いない。
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