夢のなかで何度も訪れている温泉の記憶
夢の中で行きつけの日帰り温泉が三つある。
そこは実在している場所ではなく、現実世界ではどこにあるかはよくわからない。家から近いのか、昔訪れたことがある場所なのか、日本のどこかにありそうな馴染みのある風景ではある。わたしは夢のなかで人が少ない温泉を探し求めていてる。今日はどこの温泉が人が少なそうかしらと。その行動は現実とまるっきり同じでおかしい。
何度も訪れているという感覚も実は不確かであり、最新の夢の中で捏造された感覚なのかもしれないと思うのだが、不思議なことに夢から醒めても細部の映像を思い出せる。
まず一つ目は山間の温泉街の奥にあるとても古い木造の公衆浴場である。温泉街のメインストリートが終わって、もうこの先はその土地の生活者のエリアなんじゃないかと思われるところを奥へ進むと右手に現れる。砂利道で奥は行き止まりである。初めて来たときはあれこんなところにあったっけ?と思った。外観は素朴で平たく古びた木の質感が渋い。木枠のガラス窓が風にがたがた揺れる。昔の公民館のような佇まいである。道の向かいは田んぼの畦があり、建物の手前に細長い砂利の駐車場がある。
ここのお湯は硫黄の香りが強い。お湯も建物の貫禄からもきっと古くから湯治場として存在しているのだろうという感じさせる。あまりの人の少なさに心細くなるのだが、時間帯によっては人が多いという。
二つ目は温泉街のなかにある旅館の日帰り入浴である。この温泉街が先ほどの温泉街と同じ場所なのかはよくわからない。なんとなく違う場所な気もする。なだらかな道の温泉街で土産物屋や旅館が並んでいる。そのなかに昔そこそこ繁盛していたであろう4階建て(たぶんコンクリ)くらいの旅館で日帰り入浴ができる。一階のロビーに入るとすぐ券売機があって入浴券が買える。券売機には「入浴券」と赤字で印刷されたA4の紙が貼り付けられている。そのラミネートは時間が経っているのかふにゃふにゃになっている。フロント前には行列を整理する赤いロープのスタンドみたいなやつが置かれていてシステマチックな受付に変更しましたみたいな顔したスタッフが働いている。でも、建物のメンテナスは未着工らしく、ところどころ色褪せ、なんとなくほこりっぽいやる気のない空気に包まれている。このちぐはぐな感じが妙に落ち着く。浴場へはエレベーターで上の階(たぶん最上階)まで上がる。脱衣所も温泉も狭くない(広くもない)のだが、意外と常連っぽい人が多くきていて少しせかせかした気持ちになる時がある。
三つ目は森林の中にある大きめの温泉施設である。建物に入るまでの小道には両サイドに小屋のような木の建物が点在している。興味がないのでそれがなにかはよくわからない。建物は変に垢抜けようとしていないダイナミックさがあり好感が持てる。たぶんキャンプ場も併設しているタイプである。ここはとにかく施設が充実している。大浴場が3つくらいに分かれているので空いていそうなところに入ればいい。それぞれが結構な広さなので、人が多くてもあまり気にならない。ある大浴場の脱衣所には広い畳のスペースがあって、そこはきれいで明るい。それなのに人は全然いないからとてもほっとしたことを覚えている。大きな施設なので初めは敬遠していたが、いってみると案外よかった。ただ、ここは結構山深いところにあって、道中深い谷を見下ろすことができる場所が現れるのだけれど、ずいぶん遠くへきた気分になった。
以上、すべては夢の中の話である。
おそらく現実には存在しない。
自ら作り上げた映像なのかもしれないが、だとしてもあまりにもよくできている。目覚めているときでさえ実在しない場所の映像を細かく思い描くなんてしたくてもできない。
映像の細部が強烈に記憶に残っているので文章に書き起こしてみようと思った。
みつけてくださってありがとうございます