バイアグラは美しい物語を綴れるか

つい先日、大学時代の先輩からバイアグラをもらった。錠剤タイプではなく、舌の上に乗せるシートタイプのものである。他にどんなタイプのものがあるのかは知らない。少なくとも僕が飲んだことがあるのは、錠剤タイプのバイアグラだけだ。

以前、僕は一粒だけバイアグラを飲んだことがある。もう少しで5年前になるが、それも同じ彼に貰ったものだ。「ちゃんとした医者からちゃんとした手段で処方されたあの錠剤タイプは、当時3000円くらいした」と彼は言う。一方、舌の上に乗せるシートタイプのバイアグラは「同じ成分でも500円程度で買えるようになった」らしい。彼は「医療も5年間で進歩した」なんて笑っていた。

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繰り返すが、僕は一粒3000円する錠剤のバイアグラを大学時代の先輩から貰って飲んだことがある。それからもう少しで五年経つ。つまり僕がバイアグラを初めて飲んだのは、大学に入学してすぐの話だ。

こんなことを言うと、どうせろくでもない先輩から下世話な話をしながら悪ノリで飲んだのだろう、と思われるかもしれない。ろくでもない先輩に貰ったことは間違いないが、決して悪ノリなんかじゃなく、僕は真剣にバイアグラを飲んだ。

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男がバイアグラを飲む時は2種類である。「沢山立たせたい時」あるいは「どうしても立たせなくてはいけない時」だ。当時の僕は明らかに後者だった。

男にはどどうしても立たせなくてはいけない時がある。それを知ったのは大学一年生の頃だ。当時の僕には恋愛関係にある女性がいて、彼女との付き合い方が分からず悩んでいた時期でもある。正直、彼女といることが不安だったのだ。

抱かれることで愛を感じる女性が居るということを知ったのも、丁度その頃だった。僕は自分の不安を正直に伝えると、彼女は不器用に、そして遠回しに「自分はそういう時に愛を感じる」と打ち明けてくれた。当時の僕は言われた言葉の意味を100倍以上の深さで、ありとあらゆる角度で考えてしまう青年だったから、明け方まで彼女の言葉を考えた。

彼女の身体に触れたいのか、触れていいのかすらも分からなかった。ただ、他の誰にも彼女に触れて欲しくなかった。そんなことを一晩中考えていれば、立つものも立つはずがない。僕のそれは、肝心な時に立たなくなった。だから、早朝の川沿いを歩いた。近所に住むろくでもない先輩の家に行き、彼を叩き起こし、バイアグラを貰うためである。

大学一年生の僕に早朝から叩き起こされた例のろくでもない先輩は、嫌な顔一つせず「コンビニでコンドームを買ってきてくれ、0.01ミリの奴な」と僕に金と錠剤を渡したのだ。僕はそれを鮮明に覚えている。ろくでもない先輩だが、本当に素敵な人だと思う。きっと彼も、バイアグラを飲む男のうちの後者なのだろう。

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さて、僕の大学一年生の頃にまつわるバイアグラの話は以上である。問題は、大学を卒業した僕が「舌に乗せるシートタイプの500円程度で入手できるバイアグラ」をいつ飲むべきなのか、だ。

大事な恋人もいないし、相手を思い遣るだけの思慮深さも失った。どう逆立ちしても、バイアグラにまつわる、あの頃の様な美しい物語を綴れるはずがない。それでも僕は、意外にも「沢山立たせられればそれでいい」というタイプの男ではないので、いつか使うべき日を待ちながら、シートタイプのバイアグラをiPhoneケースの奥深くにしまっておこうと思う。

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