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ILY,のロゴの変遷から“よいロゴ”のデザインを考える

Hello, people.

ILY,の辻原です。
皆さんは、ご自身が働く企業やブランドのロゴの意図について考えたことはありますか? ILY,では、お客さまのロゴの策定もサポートさせていただくデザインファームとして、自社のロゴにも創業当時からこだわっていました。

今回は、ILY,のロゴがデザインされた経緯を振り返りながら、企業やブランドにとって“よいロゴ”とはどのようなものなのかを考えます。

初代ロゴのテーマは「チーム形成」。強い印象のアイコニックなデザインに

ILY,という社名は、実はロゴのデザインありきで決めたものでした。創業当時、私がイメージしていたのは、アメリカ発のデザインファームIDEO(アイディオ)のロゴ。社名をシンプルな書体でタイプしただけのデザインでありながら、IDEOの世界観を表現しているようなロゴを、とてもカッコいいと思っていました。そんなIDEOの先を行けるような会社にしたいと考えてできたのが「I love you.」のネットスラングに由来する「ILY.」という社名であり、次のようなロゴでした。

ロゴ_2

実際にネットスラングとして使われる際には、小文字で「ily」と表記されるのが一般的ですが、IDEOへのリスペクトを表すため、また、グローバルなコーヒーチェーンのilly(イリー)との混同を防ぐために、すべて大文字にしています。また、このときは「ILY,」ではなく「ILY.」という表記でした。黒い正方形の背景で社名が白抜き文字になっているという、とてもインパクトの強いアイコニック(象徴的)なロゴになっています。

このロゴは、ILY.というチームの確立を意識してデザインしました。ILY.は、私が自分一人で活動するのではなく、想いを共有するチームでデザインに取り組むことで、社会にインパクトを与えていきたいと考えて立ち上げた会社です。したがって、まずはそのチームの“形”をつくることが当面の課題。そこで、自社のロゴも「ILY.というチームの内側をしっかりつくり上げよう」という、社内に向けたメッセージ性のあるデザインにしたのです。

2代目ロゴのテーマは「拡張性」。ネガからポジへ、ピリオドからカンマへ

このロゴは、弊社が第3期を迎えたタイミングで、現在のデザインに刷新されました。企業として新たなフェーズに進んだILY,の、これからの在り方を体現したデザインになっています。

ロゴ_3

変わったポイントは2つあります。1つ目は、初代ロゴと色が反転し、白い背景に黒い社名の文字を入れたデザインにしたこと。いわば、写真のフィルムのような「ネガ」のデザインから、現像された写真のような「ポジ」のデザインへと変化しています。そして2つ目は、社名の表記をピリオド(.)からカンマ(,)にしたことです。

これらのデザインの変化は、いずれも、第3期以降におけるILY,の事業・活動の広がりを表現しています。
白い背景の現ロゴは、初代の黒い正方形のロゴと比べ「ILY,」という文字列が外に向かって開かれている印象を受けるのではないでしょうか。第2期まででチームの土台を形成できたILY,の次なる課題は、チームをもっと外の世界へ開き、社外のさまざまな人にも私たちの活動へ加わってもらうとともに、ILY,から社会へ取り組みを発信していくこと。これを表しているのが、ネガからポジへの変化です。

また、初代ロゴのピリオドが文の完結を表すのに対し、現ロゴのカンマは、文を一度区切った上で、その続きを示唆する記号。言い換えれば「続きを作りたくなる力」を持つ記号だといえます。「このあとにどう物語を続けられるだろう? どんな展開がおもしろいかな?」と、つい想像を膨らませてしまいませんか? 

第2期まではチームづくりをする中で、私たち自身が楽しいと感じるさまざまな社内活動に取り組んでいましたが、第3期に入った段階でいったんそれらを整理し、さらなる発展につなげていこうと考えました。実際に第3期以降は、各活動を領域・分野で分けた上で一部を事業化したり、新たな活動・事業が派生したりしています。これまでの活動で終わらず、次の展開に進んでいく。そんな方針が、ピリオドからカンマへのリニューアルに表れています。

この2つの刷新は、会社としてのメッセージや方針を表現しているだけでなく、以後の事業拡張をしやすくするという、より実際的な意義もあります。
まず、ピリオドからカンマに変わったことで、事業をすべて「ILY,●●」という形で展開できるようになっています。例えば、第4期には事業の一部を「ILY, architecture」「ILY, art lab」として子会社化しました。また、これら子会社のロゴは親会社のILY,と同じように、白い背景に黒い文字列をそのままタイプしたデザインです。仮に初代の黒い正方形のロゴだったとしたら、子会社の社名を同じデザインにあてはめることができず(ロゴの形が崩れ、見栄えが悪くなってしまいます)、都度ロゴをデザインし直さなければならないでしょう。現ロゴはそうした手間を掛けることなく、今後どのような子会社を設立しても統一感のあるロゴを作れるようなデザインになっているのです。

ユーザーに愛される企業・ブランドロゴデザインの2つの条件

以上のようなILY,のロゴの変遷からわかるとおり、ロゴのデザインは単なる意匠ではなく、企業やブランドの事業設計と密接にかかわっています。どれだけ見栄えがよいロゴでも、自社のビジネスによい影響をもたらさなければ、本当の意味で“よいロゴ”であるとはいえません。

企業やブランドにとって価値のあるロゴとは、ユーザーに愛されるロゴであると私は考えています。そのためにデザインが満たすべき条件は、次の2つです。

1.事業推進を邪魔しないこと

企業やブランドの事業推進を邪魔しないことは、ロゴをデザインするにあたっての最低条件です。細分化すると「ターゲットに嫌われない」「イメージを壊さない」「使いづらくない」という3つの観点があります。

例えば、ロゴのデザインがスマートでないデザインファームにスマートな課題解決は期待できませんよね。ILY,のロゴで意識したのは、プロフェッショナルなデザインファームのイメージをロゴ自体がまとうこと。さらに小文字ではなく大文字の表記にしたのは、先述したとおり、他社と混同され、使いづらくなるのを避けるためでした。そして「ピリオドからカンマへ、ネガからポジへ」の刷新を行ったのは、ロゴのデザインによって第3期以降の事業拡張を妨げないようにしながら、事業や活動の自然派生を促すためです。

ロゴに限らず、デザインを考える際には「このような要素を加えたい」という足し算の発想が先行してしまいがちですが、「この要素だけは取り除かなければいけない」という引き算の発想も大切になります。

2.そのロゴを使い続ける理由があること

さらに、ロゴのデザインにある程度の必然性があることも重要です。「ほかの何でもなく、このデザインでなければならない」ということが、そのロゴを使い続ける理由になります。

この理由付けができるよう、私はロゴのデザインに、企業・ブランドの事業やコンセプトに即した“語れるギミック”を盛り込むようにしています。例えば、ILY,のロゴがピリオドではなくカンマであるのも、まさに“語れるギミック”です。


お客さまとの取り組みにおいても、この2点を最重要視して、ロゴの策定をお手伝いさせていただいています。例えば、保育園を運営する社会福祉法人どろんこ会さまのブランドコンセプト・ビジュアルアイデンティティ・WEBサイトデザインの設計をサポートさせていただいた際には、次のようなロゴをデザインしました。

ロゴ_4

「どろんこ」という言葉そのものを前面に出したデザインです。
なぜこのようなロゴになったのか、理由は次のように“語る”ことができます。

● どろんこ会さまが実践する、ほかにはない保育を体現した「どろんこ」という言葉そのものを、アイデンティティとして定着させていくため。
● どろんこ会グループで働くあらゆる立場の方々が、同じ意識を持ち、同じ屋根の下で活動していくシンボルとして共有していくため。
● どろんこ会さまの意思を、海外の保育現場との連携においても正しく伝達できる共通言語として機能させていくため。

さらに、デザインにおいて、

● 今後より大きなビジョンを持って事業を続けられるどろんこ会さまの、活動の幅や可能性を押し留めないこと。
● 環境や時代によって変わることのない、どろんこ会さまの根底にある強い意思を具現化していること。

を追求しました。
これらによって、ユーザーに愛され、使い続けられるロゴになっているのです。

皆さんが普段、何気なく使っているロゴは、ユーザーに愛され、会社の事業成長やブランドに価値をもたらすデザインになっているでしょうか。ご紹介した2つの条件から、改めて見直してみるのもいいかもしれません。

Thank you, we love you.

私たちILY,は、ロゴ制作やビジュアルデザインなどの”見た目のデザイン”にとどまらず、MVV策定や事業・サービスのコンセプト設計などの”コトのデザイン”もご提供しております。お気軽にご相談ください。


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