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屋上

屋上で洗濯物を干す、屋上で椅子に腰掛け本を読む、屋上で植物達に水をやる、屋上の中心で
愛を叫ぶなんてのに憧れていた時期があった。
(最後のは嘘ですごめんなさい)

屋上っていいですよね。屋上って。
事あるごとに話していたらひょんなことから
屋上を所有しているバーでその時働いていた
同僚たちとパーティをすることになった。
夢にまで見た屋上。わたしはバッグの中にこっそり文庫本を忍ばせてウキウキしながら会場に向かった。屋上、屋上。
同僚たちは皆自分よりもだいぶ若くて恋愛話に花を咲かせている。励ますのにも飽きてきて
わたしはジントニックを片手に木製の椅子に腰掛けバッグからそっと本を取り出した。
夕焼けのグラデーション。ちらほらと光る星。
おぉ、わたしは今まさに屋上で本を、、。
バササササァ。
か、風が強え。本なんて読めやしねぇ。
ビュウウウゥ。さみぃ。春なのにさみぃ。
お酒飲んでるのに。テキーラでも飲めってか。
コロコロコロ。紙コップが転がっていく。
片隅に置かれたやたらとでかいアロエ。
不気味である。

今日さみいっすねなんて話しかけてくるイケメンなどいるはずもなく、酔っ払った若者たちを介抱し転がった紙コップを拾い集め、開かれた本をパタンと閉じ、干からびたチーズを齧りながらジントニックを飲み干して浮き足立った若者たちに
微笑みながら手を振って赤い自転車漕ぎながら一人帰宅。

思ってたんと違う。
現実とはこんなもんである。

屋上は寒くて風が強い。ついでに心も寒かった。
好きになるような人もいなかったし。
あんなに風が強いなら
洗濯物もどこかに飛んでいきそうだ。

ま、夕方だったしね。
あたたかな春の朝とかだったら
また違っていたのでしょうきっと。きっとね。
わたしはまだ夢見ているのかもしれない。
屋上ってやつに。

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