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キリング・ポルノ

 1970年代、マフィアにまつわる都市伝説を発祥とする「スナッフ・フィルム」はマンソン・ファミリーによって作成されたという都市伝説を巻き込み、サブカルチャーでまことしやかに語られるようになりました。
 ジョージ・A・ロメロ監督作品に出会い、ドップリハマってしまった私はいつしかマニアックなゾンビ映画を探すようになりました。そのうち「食人族」(Cannibal holocaust:1980年)や「ジャンク」(Faces of Death:1979年)のようなモンドフィルムを漁るようになり、世界にはタブーに触れるような映像があることを知りました。曰く付きであったり、描写が残酷すぎたり、倫理に触れるため、封印された映画たち、最近ではアントラム(Antrum:1979年)やアングスト(Angst:1983年)などが有名です。
 マニアックな映像作品を探すうちに、「スナッフフィルム」と呼ばれる実在の不明瞭な都市伝説化したフィルムの存在を知りました。「スナッフ」とは蝋燭を吹き消す擬音語で、イギリスでは「殺す」のスラングとなっていました。インターネットが普及するまではテープしか映像作品がなく、もしスナッフフィルムが存在していたとしてもチャイルドポルノのように限られたコミュニティの中でしか流通していなかったはずです。
 しかし、インターネットの普及、P2Pソフトウェアの開発、ダークウェブへのアクセスにより、セキュリティ知識と方法さえ知れば誰でも簡単にタブーとされた映像にアクセスできるようになりました。
 「スナッフフィルム」の存在を知ったのは「8mm」(1995年)からです。死んだ富豪の金庫から、少女がマスク姿の大男に殺害されるフィルムが見つかり、富豪の妻がその真偽を確かめるため、探偵(ニコラス・ケイジ)に捜査を依頼するというストーリーです。ポルノ業界の闇を彷徨いながら、出口のない迷路を彷徨うかのように少しずつ精神を崩していくショッキングなストーリでした。アメリカのポルノ業界の闇と、人身売買の危険性、時折流れるモノクロのフェティッシュポルノの映像が非常にインモラルな雰囲気を出していた作品でした。
 調べてみると、都市伝説としてスナッフフィルムの存在は昔から囁かれていました。「どこかの大富豪が性的趣味のために大金を払って子供や少女を殺害する映像を命の安い国で撮らせている」というのが定番のストーリーですが、その存在が確認されたことはありませんでした。
 スナッフフィルムのジャンルはポルノです。対象が子供であれ男性であれ女性であれ、「殺される」ことに性的興奮を覚える異常な人種ががいるという前提ですが、サディズムの一種の形であることは言うまでもありません。なぜその存在がこれまで確認されてこなかったかというと、おそらく実在しなかったからでしょう。大富豪がスナッフフィルムを撮らせること自体がリスクですし、大富豪で、重度のサディストで、スナッフフィルムを撮るためのコネクションを持っているとなるとかなり存在の可能性が低くなります。「大富豪は金でなんでも揉み消せる」ようなイメージがそのようなフィルムの存在を噂するようになったのでしょう。
 大富豪の性的搾取といえば、近年ではジェフリー・エプスタインが児童買春で逮捕されています。数十人の未成年者に金銭を支払いマッサージと称して性的搾取をしていたことが明るみになりました。しかし、これはスナッフフィルムの撮影などではなく、ただのペドフィリアの犯行です。そのほか、異常殺人鬼たちが犯行時の写真や動画を撮影することはありますが、これらはスーベニア(記念品)と呼ばれるもので、犯行時の興奮を呼び戻すために使われるもので、「商業用」ではありません。
 擬似スナッフフィルムは過去にすでに作られていました。映画「スナッフ/SNUFF」(1976年)です。この映画は元々は「スローター(slaughter)」という題名で1971年にエクスプロイテーション映画(低品質のB級映画のこと)としてアルゼンチンで撮影されました。内容はマンソン・ファミリーのようなカルト集団による犯罪を描いたソフト・ポルノでしたが、出来が悪すぎたため倉庫に眠ることになりました。その5年後、アメリカではマフィアが殺人現場を記録したスナッフフィルムがあるという都市伝説が流れ、その記事を見た作家により、最後に安アパートで撮影した殺人シーンを付け足し、南米から輸入した謎のスナッフフィルムという触れ込みで公開されました。チープな作りではありましたが、マーケティング戦略が上手くいきなんだか謎の危ない映画があるらしい、という興味を沸かせることに成功して配給収入4億円を得たと言われています。はっきりと前半カルト集団パートと後半スナッフパートの俳優の違い、画質の違いが、ストーリーの一貫性のなさを際立たせ、ラスト4分のために頑張ってみる意味もほとんどない映画です。
 しかし、1970年代の都市伝説と「スナッフ/SNUFF」を境にスナッフフィルムの定義である「性的欲求を満たすために製作された商業用殺人フィルム」という定義が定着したと思われます。
 日本でも類似した映像作品はあります。「ギニーピッグ」シリーズで、これらは7作品が発売されています。特にスナッフフィルムとしての様相を呈しているものは、「ギニーピッグ 悪魔の実験」(1985年)と「ギニーピッグ2  血肉の華」(1985年)です。(「ギニーピッグ」はモルモットに使われる天竺鼠の英名のことです)「ギニーピッグ 悪魔の実験」は、黒づくめのサングラスをかけた男性3人が、女子高生らしき女性に様々な拷問を加えるだけの映像です。感想としては、作りはかなり凝っており、エンドクレジットも省かれ作者不詳と見せることでリアリティを増しています。生きているか死んでいるかわからない女性が何故か跳ね上げ式の網罠に入れられ風を受けてクルクルと回っている演出が不気味さを増していました。しかしながら、男性3人全員がちょっと貧弱に見えるせいで暴力性は半減しています。
 「ギニーピッグ2  血肉の華」は夜間に帰宅する女性を拉致し、解体するという作品です。解体する男性は何故か武者兜を被っており、狂気を醸し出しています。作り物感はすぐにわかるのですが、日本映画特有の原色の怪しさがよく出ています。これを見た俳優のチャーリー・シーンが本物のスナッフフィルムと勘違いし、FBIに通報したのは有名な話です。スナッフフィルムとして考えられた作り方をしており、エンドクレジットなどは一切存在しません。VHSでの入手は困難となりましたが、何故か一定期間周期にアメリカからDVDが発売されるという不思議な作品です。かなりグロいですが、女性があまりにも無反応(薬品でそのようにさせられている設定)であり、かなりの出血をしているにもかかわらず血色がいいところをみるとややリアリズムにかける気がします。
 また、宮崎勤元死刑囚の部屋にギニーピッグのVHSがあったのは有名な話で、そのせいでこのシリーズは日本では発禁処分となりました。しかし実際に部屋にあったのは「ギニーピッグ4 ピーター悪魔の女医さん」(1986年)で、スプラッター作品ではありますがストーリー性もありスナッフフィルムでもなんでもありませんでした。しかし宮崎勤元死刑囚は「自分だけのビデオが欲しかった」と殺害した4歳の女児を部屋に運び死後硬直が起きた死体に猥褻行為を行う様子をビデオ撮影しており、そういう異常性がこの作品たちを発禁処分に追いやったとは感じます。問題の本質を無視して世間体からなんでも表現の自由を奪うあたりはいかにも日本ぽいですね。
 自国の西ドイツでも発禁処分とされ、裁判所からネガやフィルムを含めた素材全ての破棄を命じられた「ネクロマンティック」(Nekromantik 1987年)という映画もあります。死体清掃会社で働く主人公と、同じ趣味を持つガールフレンド、死体愛好(ネクロフィリア)のカップルが完全体の死体を持ち帰りカップル仲良く死姦するという最悪の変態映画であることは間違いありません。ラストの死姦シーンではロマンティックな音楽が流され、かなり気分が悪くなります。劇中では楽しげでロマンティックな音楽が何度も使用されているが、これは主人公たちの楽しい気持ちを表現しているのだといいます。グロいシーンに流れることが多いのですが、このコントラストが一層不快感を強めます。
 「ホステル」(Hostel 2005年)は巨匠イーライ・ロスによる作品です。スロバキアへ旅行へ行ったバックパッカーが美女たちにドラッグを盛られ、目が覚めたらハアハアしている半裸のデブオヤジの拷問部屋にいたというストーリーです。人身売買と拷問という海外旅行に行くのが恐ろしくなる映画です。なぜかこの手の話はロシアといいウクライナといい東欧に多く、1991年のソビエト連邦解体により起こった経済危機により東欧ではストリートチルドレンの大量の流出や治安の悪化が起こったと言われてせいだと思われます。
 また、日本では事件にもなりましたが、バッキービジュアルプランニング(アダルトビデオ制作会社)による通称「バッキー事件」が起こりました。女優に脱法ドラッグを吸わせて猥褻行為を撮影しながら肛門に浣腸器具を挿入し器具を破裂させ、直腸穿孔や肛門裂傷を負わせたとされています。直腸が穿孔すれば便などの汚物が腹腔内に漏れ、腹膜炎で死亡する可能性もあり、悪質な事件であることは言うまでもありません。このメーカーは「問答無用 強制子宮破壊12」(2004年)でも女優に焼酎を漏斗を使って流し込み急性アルコール中毒にしたり(映像内では恐らく重度の急性アルコール中毒により脱糞しており、女優の生死が不明との噂がネットで流れた)「問答無用 強制子宮破壊17」(2005年)では恐怖を感じた女優が撮影スタジオから全裸で逃げ出し、通行人に目撃され通報され撮影スタジオに警察官が駆けつける映像が記録されています。スナッフフィルムではありませんが、男性の欲望によるサディズムが見事で愚かなほど出ている作品ではあります。このシリーズには参加希望者が沢山いたことと、一定の人気があり好んで購入していた性的嗜好のものがいたことが17まで続いたことでわかります。


 インターネットの普及とともに、2000年代から内紛や戦争の殺人を含む動画が容易に流出することになりました。それまでは、人間の残酷な妄想は小説や映画などのフィクションでしか語られることはありませんでした。おそらくシリアルキラー個人が撮影した映像は存在してましたが、一般の人間がアクセスできることはありませんでした。
 しかし、現在では「検索してはいけない」などの代名詞がつく動画が数多流出し始めました。最初は戦争や紛争などによる映像がネットに流出し始め、Liveleakなどで見れるようになりました。「POSO」や「チェチェンの首切り」と言われる映像たちです。

 そして、2008年、人類史上初のスナッフフィルムが流出します。「ウクライナ21」(Дніпропетровські маніяки)と呼ばれるものです。実際に販売されたものではなく犯人のパソコンから流出したものですが、この映像は販売を目的に撮られたものでした。
 2007年にウクライナのドニプロペトロウシクにて6月から7月にかけて21件の殺人事件が発生しました。逮捕された3人の容疑者は19歳の未成年で、容疑者のパソコンの中にはいくつかの殺人映像が収められていましたが、そのうちの一つが悪名高い「ウクライナ21」でした。この動画はかなりショッキングなもので、恐ろしいほどの悪意と残酷さを感じる映像です。
 興味本位で見るべきではありません。森に少年たちが入っていくところから始まり、パイプレンチのようなものやアイスピックを使ってホームレスらしき男性に対して恐ろしく残虐な行為を行なっています。男性はおそらく急性硬膜外血腫か脳挫傷が起こり、死戦期呼吸と呼ばれる呼吸状態のあと、死亡します。使った凶器と手をペットボトルの水で洗い、ゲラゲラと笑うところで動画は終了します。
 逮捕された少年たちは裁判では「一夏の思い出」と語っており、実行犯と撮影係は終身刑、残る一人には9年の懲役が課せられました。これを見て感じたのは、「ああ、どうしようもない悪は存在するのだなあ」という確信です。情緒的共感もできず、相手に痛みを与えることで快感を得る真のサイコパスでサディストは存在するという確信です。
 ちなみに、「ウクライナ21」は日本と韓国だけの名称で、海外では「3 Guys 1 Hummer」という言葉で検索することができます。
 何事も最初が興ると有名になりたいがために模倣するものはあらわれます。「ウクライナ21」に影響を受けたロシアの17歳の少年2名が撮影した動画「アカデミーマニアクス」です。カメラを持って鈍器でホームレスを襲うというもので、ショベルやバットで襲撃するものでした。
 2011年にはカナダのポルノ俳優、ルーカ・マグノッタにより、スナッフフィルムをネットで公開しました。男性中国人の交際相手を殺害、死体損壊、食人、死姦するという内容でした。しかし、この映像を見ることで異常性欲者が何をしているかが映像としてわかるようになりました。この動画は「1 Lunatic 1 icepick」という名称で検索することができますが、この映像も興味本位で見るものではありません。
 その後スナッフフィルムや事故映像は過激の一途をたどります。ISISによる処刑映像の公開では、誰もがイスラム教の敵に対して行われる残虐な行為を知ることになりました。また、theNYCなどの動画サイトには、グロテスクな事故映像や死体が溢れることになります。メキシコやブラジル、コロンビアのギャングの抗争による敵対勢力の対象を拉致し、拷問を加える映像がたびたび公開されるようになりますが、厳密にスナッフフィルムではありません。ギャングの拷問動画は競争であり、「敵対勢力やルールを破ったものにどれだけの恥をかかせるか」を競っているため、方法は次々に過激になっていきます。これらはショー的な要素を孕んでおり、これまでの拷問とは違い、本人を痛めつけることだけを目的としてません。「こうしたら、こうなる」を実践するため、どれほどの残酷な状態に晒され、死後どのような扱いを受けるかまでをわざわざ見せる目的としているからです。

 その後、違法な動画や画像はさらに地下に潜ることになります。インターネットの匿名性を強化したTorはさらに深いフィールドをアンダーグラウンドに移しました。
 例えば、伝説的に語られる「REDROOM」の存在があります。そもそも、この「REDROOM」は「ISIS REDROOM」が起源で、ISISの兵士を捉えてきて生中継で拷問・殺害するという趣旨のものでした。さらにチャット欄を通じて拷問の内容を指示できるというもので、2019年8月29日に向けてサイトはカウントダウンが始まりました。チャット欄での様々な議論を巻き起こした後、カウントダウンゼロの後サーバーは突然ダウンしました。復旧後、トップページには「たくさんの参加と指示をありがとう!配信は無事終了しました」というコメントと、貼り付けられた20分弱の演技めいた拷問動画が残るのみでその後すぐにFBIに摘発されたのか、閲覧できなくなりました。
 その後この「REDROOM」はビットコインを使い拷問の指示ができる匿名化されたインタラクティブなサイトという都市伝説化する。
 ディープウェブ上の違法ライブストリーミングといえば、「Daisy's distruction(デイジーズ・ディストラクション)」という映像も有名で、オーストラリア人のPeter Scullyというペドフィリアがフィリピンから有料会員に向けて配信したものだ。1歳半〜11歳の少女に対して覆面をしたガールフレンドが性的拷問を加えるという動画だ。現地の女性を利用し、ストリートチルドレンや貧しい女児を連れ込み性的虐待・拷問・殺害をおこない、それらをライブストリーミングとして配信していたのです。表題にもなったデイジーは18ヶ月の子供で、吊るして拷問されている映像で、この映像には120万円の価格がつけられていました。人類最上の反吐が出る屑で申し分ないと思いますが、フィリピンでは死刑がないため終身刑として刑務所に収監されている。

人間はこんなに残酷になったのでしょうか
それとも
もともと残酷だったのでしょうか?

 おそらく、これからは異常性愛のマーケットはTorとBitcoinにより匿名化し、さらに地下に潜り、高価で取引されるアーカイブとなっていくことでしょう。まだまだ「命の値段の安い国」は様々なところにあるからです。

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