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食に興味を持った理由

私は不夜城の主だった


学生の頃、ラーメンを炭水化物と認識していた。

ラーメンと言う固有名詞というより、本当に炭水化物と読んでいた。

どうでもよかったのだ。

夢のためなら。

それほど食に興味がなかった。


夢のため。

ずっと、それだけを

叶えるため学業をこなしてきた。

朝ぼらけ羊が眠る薄闇の中

キシキシと漕ぐ船の音

透き通るピアノの音

ショパンの舟唄。

夢と私は不夜城に居た。


目的のためなら身を焦がしてもやり続ける。

研究に没頭し朝から晩まで実験していたことを覚えている。

今でこそ少し休んではと言えたかもしれなかったが長年の夢が叶えられると躍起に頑張っていたことを覚えている。

その頃のタイムスケジュールは7:00に学校に行きピアノの練習をしてから学業に励み、22:30に家に帰るもので常識的には外れていたとは思う。恥ずかしながら料理をしたことがなかった。


さて、料理の話をしよう。
種も仕掛けもない調理法がある。

「鉄板焼」である。

1から具材を用意して、眼の前で焼き上げていく工程を客にパフォーマンスしながら振る舞うタイプの調理法のことを指している。

とある店。特に何も有名でもない個人経営の店。観察することが好きだった私はただ、見ていた。ただ、何かの隠し味をコックが振りかけたのを見ていた。

何か

ジュッと消えた。

線香花火のようだった。


鉄板焼屋が初めてだった私は少し緊張していたのだと思う。

慎重に食べていた。

一口一口恐る恐る運んだ先に

線香花火の絵が浮かんだ。

線香花火は消える。

儚い記憶。

確かに見ていた。
見ていたから感じた。

種も仕掛けもないのに
仕掛けられた、

隠し味が

舌に、
居る。

*


旨味や香りが舌に居る。

このことを僅かにだが感じられた。

作る工程を見なければきっと思うことはなかった隠し味。ロジカルにその行為を説明できるのかと思っていた私はコックのひとつまみに深く意味を見出すことに楽しさを感じた。

バタフライエフェクト。

でも、それが差をつけていることは事実だった。

良く言われるのは味蕾が死んでるから繊細な味が分かるということである。
でも違う。料理は組木細工並みに細かい。皆適切な調理法とタイミングを見計らっている。それをくみ取れる人とできない人は、人生に置いて、いくつ疑問を持って観察してきたかだと思う。


なぜ旨いのか
なぜ感動するのか
なぜ貴方はその行動をしたのか。


*
私は不夜城の主だった。学生の頃は楽しかった。

自分で物を考えていくことの当然さを知った日々だった。

食事はどちらかと言うと摂取を強いられる行為である。

ただ口に運ばれる炭水化物が、その日からカラフルに見えたのだった。





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