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どうするイリアス

過去2年間、「今季のイリアス」と称してイリアスの3シーズンを振り返ってきた。
しかし、現在イリアスについて興味を持たれているとしたら、パフォーマンスではなく去就の方であろう。
そこで、今年は「バルサとの契約更新を渋る理由」と「移籍先候補」についてまとめていく。
(成績・年齢は2023年5月16日時点。)


なぜイリアスはバルサ退団に傾いているのか?

バルサトップチーム右WGの現状

まずは、イリアスの本職である右WGがトップチームではどのような状況なのか見ていく。
1stチョイスはデンベレ(26歳)。昨年1月時点では退団濃厚だったもののチャビ監督は決して諦めず、デンベレもその信頼に応えていく。昨季はほぼシーズン後半のみの稼働でありながら、リーガでは21試合13アシストでアシスト王に。今季は32試合8G7Aと、圧倒的な突破力だけでなく得点に絡む数字も残して、ワールドクラスのWGになりつつある。
対抗はリーズから加入したハフィーニャ(26歳)。48試合10G12Aは1年目にしては上々の成績であろう。デンベレと比較されることでどうしても攻撃面は劣るように感じるが、守備での献身性が高いことも評価できる点だ。
フェラン・トーレス(23歳)も左WGより右WGの方が得意そうである。しかしこの1年半、彼のパフォーマンスは加入当初の期待に応えているとは言い難い。

3人とも強豪国の代表メンバーかつキャリアのピークを迎えていく年齢であり、控えであることを受け入れ続けることはないだろう。ポジション争いは今季も含めて3年以内に生き残る1人が決まっていき、その間に若手が割って入るのは難しいのではないかと思う。

(もし来季からメッシが復帰することになれば、攻撃陣の配置・人選は現在と全く異なるものになるだろう。)

ラミン・ヤマルの台頭

4月30日ベティス戦でトップデビューを果たしたラミン・ヤマル(15歳)は、2007年生まれでイリアスの3学年下である。インファンティルA(U14)までは(偽)9番で育てられていた。昨季から飛び級し始めると同時にポジションを右WGに移し、今季はフベニールA(U19、以後フベA)で主力を担っている。
同じ左利き右WGとして比べると、ドリブル特化型に近いイリアスに対してラミンはFWとしての総合力で上回っているだろう。特にシュート時にとても落ち着いている印象で、決定力はラミンの武器であると思う。

育成組織出身の選手がトップチームに定着するには、まずチャンスが生まれた時にそれが回ってくる立場にいる必要がある。イリアスも数人の先輩を差し置いてその座に着いていた有望株であったが、ついにラミンがラ・マシアの右WG1番手に昇ってきたということだ。

右インテリオールへの転向拒否?

トップチームの競争率とラミンの存在により、バルサで右WGとして地位を確立していくのは困難であることが予想される。それを踏まえて、バルサ側は契約延長交渉の場で将来のプランとして右インテリオールへ本格的に転向する案を提示したのではないか?
選手は本職のポジションで勝負したい、評価してほしいという思いを大なり小なり抱いているものである。フベAやスペインU19代表でインテリオール起用されることも少なくないが、それをどう捉えているのかはイリアス本人にしか分からない。本職右WGとしてのオファーも届いていて、心を動かされている可能性もある。

バルサの補強に対する不信感

ユスフ・デミル、エムレ・デミル、ルイスミ・クルス、ルーカス・ロマン(通称ポチョ)。
イリアスとタイプが被るような左利きで攻撃的なポジションの若手を、バルサは直近2シーズンですでに4人も獲得している。さらに、サントス所属アンジェロ・ガブリエルの優先交渉権も持っていて、カイーキ(現アルメリア)の方はスルーした分もう1人の方は行使してくるのではないかとも言われている。
実質U23の育成チームであるバルサ・アトレティック(以後バルサAt)で、これほど補強を繰り返すのはいかがなものか?既存の有望選手に出場機会を託すつもりがないように映り、信頼されていないと感じてしまうのも無理はない。

バルサよりも適した場所がありそうなプレースタイル

13年間ラ・マシアに所属してほぼバルサ一筋で育ってきた選手をこう評してしまうのはなんだか妙な話だが、イリアスのプレースタイルを整理するとあながち間違っていない気がする。
イリアスの短所としては、球離れの悪さ(パスを選択する時の判断の遅さ)とシュート精度が挙げられるだろう。長所であるドリブルも、待ち構えている相手に仕掛けていくより、飛び込んできた相手の逆を突く方が上手い。
遅攻の時にアタッキングサードでサイドに開いてボールを受けるよりも、速攻やプレスを受けて追い込まれている時にミドルサードで預けてもらう方がイリアスの打開力が輝く。相手を複数人かわしながら一気に40m前後ドリブルで前進していくことすら稀ではない。

バルサではポゼッションで相手を敵陣に押し込んでプレーする時間が必然的に長くなるが、もしもっとオープンな展開が頻発する環境でプレーしたらどうなるのだろうか?
デウロフェウやアダマ・トラオレのような先輩もいる以上、バルサ以外の方が活躍できる可能性は当然ある。

イリアスはどこへ行く?

1月以降に報道されてきたのはイングランド2、イタリア2、スペイン1、ベルギー1の全6クラブである。名前を報じられた順に紹介していこう。

セビージャ(報道時期:1月中旬~)

ラ・リーガ10位 勝ち点47 34試合13勝8分13敗
得点44失点49得失点差-5
CLグループG3位→ELベスト4

近年はラ・リーガ上位の常連だったが、CBコンビで堅守を築いていたクンデとジエゴ・カルロスが退団した影響などを受け、今季は2度の監督交代を経験するほど低迷。一方、お得意のELではベスト4まで勝ち残っていて、優勝すれば来季もCLに参加できる。
しかし、欧州コンペティションからの収入がなくなると、スカッドの縮小は避けられないだろう。全体的に年齢が高く、WG陣もブライアン・ヒル(22歳)以外の5人が28~35歳である。世代交代を図る中でトップチームに割って入るチャンスはあるはずだ。
優秀な若手には積極的にチャンスを与えて成長させ、ステップアップのタイミングを見計らって売却して利益を得るクラブ文化も魅力的である。

ACミラン(1月下旬~)

セリエA5位 勝ち点61 35試合17勝10分8敗
得点55失点41得失点差+14
CLベスト4

昨季に11年ぶりのスクデットを獲得し、今季もCLベスト4に勝ち上がってきて復権を印象付けているミラノのビッグクラブ。
右WGはサーレマーカース(23歳)とメシアス(32歳)で出場時間を奪い合っていて、トップ下を主としているブラヒム・ディアス(23歳)が起用されることもある。

スカッドの物足りないところは補強して解決すればいいだけの資金・ブランド力を持っているのがビッグクラブであり、育成組織から直接トップチームに昇格して生き残っていくのは簡単ではない。他ビッグクラブでU23チームから新しい環境に適応しなければならないなら、バルサAtに残留する方が成長につながるのではないか。

リーズ・ユナイテッド(2月下旬~)

プレミア18位 勝ち点31 36試合7勝10分19敗
得点46失点71得失点差-25

4月中旬までは最有力候補だったが、5月2日にこの移籍話は突如暗転した。
降格圏とのボーダーライン上の17位にいたリーズは、2月下旬に就任するも状況を好転できなかったハビ・グラシア監督と共に、2017年5月末から務めていたビクトル・オルタSDも解任した。報道され始めたのが監督就任のタイミングと重なるように、イリアス獲得がスペイン人体制による中長期プロジェクトの一環だったのは疑いようがない。イリアス側は降格して2部スタートでも受け入れるつもりだったようだが、監督だけでなくSDも去ったことでリーズ行きは立ち消えになっただろう。

下位クラブは残留争いに巻き込まれることで監督交代が頻繁に起こるなど首脳陣が不安定であり、所属選手もそれに振り回される恐れがある。まだ正式に入団確定させずに、事を慎重に進めていて良かった。

クラブ・ブルージュ(3月中旬)

ベルギーリーグ4位 勝ち点59 34試合16勝11分7敗 
得点61失点36得失点差+25
プレーオフ1 4位 勝ち点30 37試合16勝11分10敗 
得点65失点44得失点差+21
(リーグ戦成績の勝ち点1/2、その他はそのまま引き継ぎ)
CLベスト16

グループBでレヴァークーゼンとアトレティコ・マドリーを上回って決勝トーナメントに進出した、CLでの躍進が記憶に新しいベルギーの強豪。
昨季はコジャドに接近するも移籍成立せず、今季はジュグラが加入して44試合15得点8アシストとブレイク中。そしてイリアスと同期のビクトル・バルベラが来季から加入することはおそらく内定済みと、この2年バルサとの関わりが深い。
報道に出てきたのは1度きりであり、イリアスに対する関心はそれほど強くなかったのだろう。バルベラとの2枚獲りは実現しなさそうだ。

アーセナル(3月下旬~)

プレミア2位 勝ち点81 36試合25勝6分5敗
得点83失点42得失点差+41
ELベスト16

19年ぶりのプレミア制覇に向けてマンチェスター・シティとの激しい首位争いを繰り広げているノースロンドンのビッグクラブ。
右WGに若くして絶対的なレギュラーであるサカ(21歳)がいる以上、移籍先として選ぶことはないと思われる。3歳下のラミンとの競争を避けるのに、3歳上のサカに挑んでいくのはむしろ分が悪くなっているとすら言える。
ラ・マシアの大先輩であるアルテタが監督をしているとはいえ、アーセナルで成功する姿を想像するのは困難だ。

アタランタ(5月上旬~)

セリエA7位 勝ち点58 35試合17勝7分11敗
得点56失点42得失点差+14

ガスペリーニ監督に率いられて7年目を迎え、マンツーマン守備を特徴にして上位進出してきた強豪。
ラ・マシアではほぼ4-3-3のフォーメーションでプレーしてきたイリアスだが、アタランタは3バック(3-4-2-1や3-4-1-2)を主としている。右STやトップ下での起用を想定しているのだろうが、もしかしたら攻撃的右WBの可能性もあるかもしれない。
異なる国・言語・文化・フォーメーション・守備スタイルへ適応するのがかなり大変そうではあるが、個性の強いクラブが名乗りを上げてきた。

キャリアプランを考えて

近年は20歳前後からすでにトップレベルで活躍している早熟の選手がたくさん出てきていて感覚が麻痺するが、一般的にピークを迎える20代中盤までにビッグクラブに定着できればサッカー選手のキャリアとして十分成功と言えるはずだ。現在19歳から、なるべく25歳(遅くても27歳)までと考えると、あと6~8年でステップアップしきる必要がある。新環境への適応から始まり、移籍市場で注目を集めるほど活躍するまで1段階あたり2~3年かかるとすると、刻むことができるのは2,3ステップだろう。

  1. 積極的に若手を育成しているリーグ(オランダ、ポルトガル、ベルギーなど)で中位以上のクラブ

  2. 5大リーグの中位クラブ

  3. 5大リーグの上位クラブ(欧州コンペティション出場)

成長に必要な出場時間を継続的に得るためには、この3ステップが理想的ではないかと思う。

これを踏まえて移籍先候補の6クラブを比較していくと、クラブ・ブルージュが本腰を入れてなさそうなのが残念である。可能性がありそうな4クラブの中では、セビージャが一番ベターな選択肢であろう。
ビッグクラブを所属元にレンタルを繰り返していく手もあるが、圧倒的な実力を見せつけないとレンタル先のチームメイトに認めてもらえず、1年限りの借り者だと軽視されてしまうので難しい。

4月から完全に干されているバルベラとは対照的に、イリアスはまだバルサAtやフベAで試合に出場し続けている。バルサと契約延長する可能性もわずかながら残っているだろう。
あるいは、今後新たなクラブが争奪戦に参戦してくることはあるのか?

契約満了後のフリー移籍は選手が持つ権利であり、届いたオファーの中から自由に将来を決めることができる。来季のプレシーズン始動まであと約2か月、イリアスには最良な選択を冷静に下してほしい。

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