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海猫の映画探訪記『ベン・ハー』


最近なんとなくミニマリズムの音楽を聴き続けていて、そうか、音楽というのは音にリズムが付いているものだと思っていたけれど、もしかしてリズムに音がついているのかもしれない、まぁ物事は多面体であり、見慣れたものも様々な角度から眺めてみるものだな、などとぬくぬくと考えている海猫です。とても寒いですね。

年越しジャンヌディエルマンから始まったnoteですが、その次にお正月らしい?映画を観ました。ワイラー監督のベンハーです。なんとなく、ローマ帝国時代の話ということは知っていたのですが、思った以上に大河ドラマ的な映画という印象でした。

ルー・ウォーレス『ベン・ハー』(Ben-Hur)
(1959)

(以下あらすじを含みます。)

最初にヨゼフ様マリア様が突然お出になり、住民台帳みたいなものと照らし合わせている様子に、これが聖書のあの部分だとしたら、ベンハーとはキリスト?などという本編への妄想が膨らみました。結果的にキリストは厩で無事にお生まれになりましたが、ベンハーはユダヤの貴族のご子息でした。

久しぶりに親友メッサーラと邂逅したベンハーは、いかにも男同士の友情という雰囲気(槍投げエイヤー)を醸し出しますが、やはりかつての友情以外に、今はお互い大人としての守るべき立場や野心がありそう。そしてベンハー家から瓦が落ちて、総督に当たりそうになりお咎めを受け、、そういえばこの映画、馬がたくさん出てきますね。
親友への陳情、もしくは反撃虚しく、家族と引き離されたベンハーはガレー船に送られ、その道中キリストらしき人物から水を恵まれます。
そしてガレー船でのなんとなくパイレーツオブカリビアンを彷彿とさせるような辛い日々、復讐のために生きる気持ちを失わなかった彼は、アリウスの目に留まり、戦闘になった船からアリウスを助けたことによって、一躍ローマ市民的存在として扱われ始めます。
ローマで栄誉賞的なものをローマ皇帝から賜るシーンは、後の馬車での戦いシーンもそうですが、この映画の持つ豊富な資本の力を感じますね。ふとピラネージの絵を思い出したりする間に、ベンハーはやはり故郷に帰らねばと決意。道中アラブ人の富豪と出会い、馬の使い手としての才能を見せつけます。そしてそこで出会った白馬と共に馬車レースでメッサーラと因縁の対決をすることになりました。


○拮抗すべき3つの社会

こんな感じであらすじを追っておりますが、この映画を見ながら1番考えてしまったのは、時世もありますが、ユダヤ、ヨーロッパ、そしてアラブ、3つの社会の近く遠い関係性です。東洋の島国にいると一つ一つの事象を追ってしまって実感としてなかなか捉えづらいですが、同じ聖地、しかし違う定義の神を持ち、社会様式が全く異なる隣人がいる世界に対して、どういう態度をとるかと常に迫られるという現実。
正しさはどこにでもある、という柔軟さを持ちたい。多様性の時代でもある。ただ人として生きていくためには信念を持っていかなければいけない。しかしその信念が隣人を傷つけるものだとしたら。その中で折り合いをつけるとしたら、個々人との丁寧な対話しかないのかもしれないな、と思っているうちにベンハー前半が終わりました。美しいエスターとのエピソードは割愛。


後半サムネイルにもなっていて、やっと来たぞという気持ちになった馬車レースのシーンが圧巻でした。レース一周ごとに回る鳥の飾り?がかわいい。これは映像でしか出せない迫力、というシーンが続き、ベンハー勝利、メッサーラは負傷。最期までメッサーラは自分の強さを誇示することに固執して、母と妹が死の谷にいるという辛い情報を告げる。居ても立っても居られないベンハーは死の谷に母と妹を救いに行くが、希望は薄い。失意の中、エスターにキリストの存在、そして彼の説話の素晴らしさを伝えられ、最初はあまり信じられない中で、いよいよ状況の悪化もあり、母と妹を連れてイエスの元に赴く。この辺りも丘の描写などが、聖書の中の丘に集まる人々ってこういう感じになるのかと、可視化できたのは面白いですね。そして最後ゴルゴダの丘でキリストは十字架に、その直前にベンハーが一杯の水をキリストに差し出したことによって、あの時の方は!という一致。この辺りもしっかり大河ドラマ。最後は奇跡が起こり、母妹の病も治り、無事にエンディング。

○デウス・エキス・マキナ?

ふぅ、端折りましたがそれでも長いですね。
面白い映画ではありましたが、これがアカデミー賞多部門受賞というのは、流石に時代の移り変わりを感じずにはいられませんでした。最終的にキリストに集約されていくストーリーというのは、彼の人間らしい苦悩をまた別の次元で解決するような気がして、ここまで長いのであれば最期まで人間らしい何かが貫徹される方が個人的には好みでした。比較としてのメッサーラの苦悩や最期まで人間らしく足掻く姿があるとしても、ベンハーにも神の救済以外の人としての変化をもっと見たかった気もします。きっとキリスト教を深く理解している方はまた違う見方だとも思いますが。
音楽のミクロスローザには色々と興味がわきましたが、コダーイ、バルトークとの関係などはあったのか調べたいところです。

ちょっと長くて疲れましたので、このくらいに致しまして、次は現在見かけている「ニューシネマパラダイス完全版」かゴダールの「気狂いピエロ」でお目にかかりましょう。

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