電車で子供とそのお母さんに人生を救われた話。

学校からの帰りの電車内
俺は端の座席に座っている

元気な男の子が駆け足気味で乗車してくる
その後を追いかけるように、その子のお母さんが見える
体の中にもう一人子供を連れている

周りを一瞥する
座席に空きは見当たらない

どうぞ、座ってください。

勇気を携える必要などなかった
この台詞を口にするのは人生で何度目だろうか
子供が好きだ、だから教師を志したのかもしれない
その子供を育てている全ての人に敬意を払っている
座席の一つや二つを差し出すことなど容易い

3つ先で降りますから、大丈夫です。
僕は次で降りるんで、座ってください。

嘘である
自宅の最寄り駅までは8駅ほど進まないとたどり着かない

そういうことでしたら、〇〇くん座らせてもらいな。

体を引きずるように歩いて、二足歩行を維持することがやっとのように見えるのに
それでも自分の子供に席を与えた
凄すぎる
お母さん、凄すぎる

お兄さん、優しいね。

そんなことはない
老人に対して同じようなことはしないから
いつから老人に対して憎しみのような嫌悪感を抱き始めたのか
理由もなく
しかし途方もなく彼らが嫌いである

○○くんも、同じようになってね

お母さんがその子の頭を撫でながら微笑んだ

本当に嬉しかった
教師の卵として
一人の人間として
22年間の生きざまが全て肯定されたかのように思えた

次の駅
先ほどついた嘘を現実にするため二人に会釈して電車を降りる
貰った言葉の重みをかみしめながら
三個隣の車両に再び乗る

元気に育ってくれ