カレーの日

 毎月十日の夕食は、うちでは必ずカレーとなる。

 材料はニンジン、タマネギ、ジャガイモ、ブタニク。それらをおふくろが一時間以上丁寧に煮込む。素材のおいしさがルーに溶け込んだカレーは、決まっていつも甘口だった。

「カエデが辛い物苦手やからなぁ」

 母親は決まっていつもそう言った。カレーが好きなのに、中辛すら食べられないうちの妹に配慮しての甘口ルーだったが、辛口でも普通に食べられる俺にとっては、いつも物足りなかった。小学生や中学生の頃は、それで妹とケンカになったこともあったくらいだ。

 そんな俺も、社会人となった今ではあからさまに文句を言ったりはしない。それでもたまに中辛くらいは食べたいから、やんわりとおふくろに進言してみることはある。

「なあ、たまには中辛でもいいんじゃねえの?」

「カエデが食えんといかんて、いつも言ってるやろ」

「あれから何年経ったと思っとるんや。あいつもそろそろ中辛くらい食べれるやろ」

「アホ。あの子が死んだくらいでそんなに変わるわけないやろ。今でも天国で甘口カレーがいいて言っとるわ」

 そう言って妹の分のカレーをよそうと、おふくろは仏壇の前にそっとそれをお供えした。

「ほれ、見てみい、この子も甘口がいいて笑っとるわ」

「遺影やから、笑っとるに決まっとるやん」

 そういいつつも、妹が本当に笑っている声が、俺にも聞こえた気がした。

 妹の月の命日である十日は、うちは決まってカレーの日。そのカレーは甘口なのに、いつもどこか、少ししょっぱい。

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