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 少年は、一人でずっと待っていた。

 街のはずれに作られた緑地公園。その中に設けられた池のほとり、遊歩道のわきに設けられた屋根のついた休憩所。そこが友達との待ち合わせ場所だった。

 休憩所のベンチに腰掛けて、もうどれくらいたつのだろう。ここに来たときは降っていなかったのに、先ほどからさあさあと雨も降りだした。傘を持っていない少年は、休憩所をでて友達を探しに行くこともできなかった。

 いや、雨が降っていなくとも、友達を探しに行くことはできなかったかもしれない。

 手元には、親にねだって買ってもらった携帯ゲーム。みんな持っていたのに、自分だけが持っていなくて、いつも仲間外れにされていた。それが手に入ったときは、どれだけうれしかったか。喜んだ勢いを利用して、思い切って友達を遊びに誘った。みんな笑顔で、誘いを受けてくれた、そのはずだったのに・・・。

 友達に会いたいのか、会いたくないのか、それすらもあいまいなまま、自分の膝小僧を見つめ続ける。友達が迎えに来ないことを知りながら、それでもここを動けなかった。どうしていいのか、わからなくなっていた。

 ふと、周りが静かな気がした。顔を上げると、先ほどまで降っていた雨がやんでいた。雲が流れ、夕日に染まりだした青空が顔をのぞかせる。その先、はるか上空に、人生で初めて、少年はそれを見た。

 空にくっきりとアーチを描く、七色の橋。夕日を受け、晴れかけの空をバックに、大きな大きな半円を描いた虹が、姿を現していた。

 少年は息をのむ。その大きさに、鮮やかな色に、何もかもを忘れ、目がはなせない。魅入られるという経験も、これが初めてかもしれない。言い表せない感動が、胸の中を満たしていた。

 気がつくと、少年は立ち上がっていた。どうしていいのかわからず、動けなかった足に、少しだけ力がこもる。携帯ゲームをポケットにしまい、顔を上げて、少年はゆっくりと歩き始める。視線の先には、大きな虹があった。

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