先輩と僕5 初詣
遠くから、何度目になるかわからない除夜の鐘の音が聞こえる。
焚き火の周りで暖を取る人、知り合いと出会い新年の挨拶を交わす人。初詣に訪れた人で、年が明けたばかりの神社は賑わっていた。境内の脇では自治会の人が参拝客に甘酒を配っている。
そんな中、僕は一人で参拝の列に並んでいた。昨年までは恋人との恒例行事だった深夜の初詣。彼女はもう隣にいないのに、自分のなかで半ば習慣となっていることに胸がちくりと痛む。
失恋、仕事の失敗、数え切れない苦い思い出。後厄だった今年は、とにかく大変だった印象がつよい。自分の欠点や能力不足、現実の厳しさをまざまざと見せつけられた一年。同時に、自分がそういったことにきちんと向き合ってこなかったことを思い知らされた一年でもあった。
参拝の列が進み、自分が参拝する番となる。お財布から五円玉を取り出し賽銭箱に投げ入れた。
大変だった昨年は終わった。これからは新しい一年となる。では、その一年をどんな一年にしたいのか。鈴についた紐をつかみながら、頭の中で考える。
「あせらなくていいぞ」
「もう少し、諦めないでやってみて」
係長と、先輩の声が頭に響いた。
鈴を鳴らし、魔を祓う。背中を曲げて二度お辞儀。胸の前で二度、柏手をうち目をつぶる。
昨年の経験を活かすのも自分、殺すのも自分。どんな一年にするかは、結局のところ自分次第。だからこれは、神様にお願いするというよりも、宣言するのに近い。神様の前で、今年一年をどう過ごすか、誓いを立てる儀式。
静かに、心の中で唱えた。
――今年は、昨年の経験を糧に、自分を成長させる一年となりますように。
ゆっくりと目を開け、もう一度お辞儀をしてから脇へどいた。このあとおみくじを買い、今年の運勢を占うのが去年までの習慣だったが、今年はまっすぐに境内を後にする。
除夜の鐘はいつの間にか終わっていた。月明かりにうっすらと照らされた夜道を、僕は一人歩いていく。
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