未来スワイプ
「猫背になってスマホをスワイプしていると、気づいた時には僕たちの未来もスワイプされている」
ボブはそう語る。
というのも、ボブはエレメンタリースクールに通っていた頃、chemistryも苦手だった。
ある日、彼は習う。
担任は言った、
「よくわからなくても、これさえ覚えておけばテストはバッチリ!」と。
よくわかなくても良いならこれはボーナスだ!
ボブには炎色反応がわからない。なので、彼は素直にこの呪文を覚えた。
そして帰り道、さっそくボブは試しに呪文を唱えることにした。
外であれば、炎色反応が何であれ、人に迷惑をかけずに炎色反応できそうだ。
「リアカーなきK村、動力借るとするもくれない馬力!」
しかし何も起こらない。
少し照れながら唱えたのが問題だったのだろうか。せっかく覚えたというのに、これでは勿体無い。今度は真面目に唱えてみる。
「リアカーなきK村、動力借るとするもくれない馬力!!!」
しかし何も起こらない。
たまたま今日は、炎色反応は休みなのだと彼は思うことにした。炎色反応が何なのかわからないままだが、テストでは問題ないはずだから。
その次の日、chemistry室で行われた金属に火をつける実験が、まさにそのための実験だったのだが、ボブは当然よくわかっていなかった。
〈テストの日〉
問題文にある炎色反応という文字にパブロフしたボブはリアカーなき……、と例の呪文を書いた。文字数の割に解答欄が狭いような気がするが、気にしないようにした。
そして、もちろん不正解だった。
ボブは落ち込んだ。せっかく覚えたのに。
その後の休み時間に担任は彼に言った。
「ボブ、呪文をちゃんと覚えたのは偉いことだよ。でも、ちゃんと呪文の意味を理解しなくちゃね。」
わからなくていいって言っていたじゃないか、とボブは思ったのだが、素直なボブは自責指向。せっかく覚えたし、少しは理解してみようと思った。
〈またある日〉
ボブは前半の『リアカーなきK村』という部分に目をつけた。これはきっとK村にはリアカーがないということだろう。
K村であれば、ボブの住むムラ村の隣の隣にある。あまり一人で遠くに行ったことはなかったのだが、行ってみることにした。
そして、なんとかK村についたボブは知ってしまう。K村にはリアカーがないどころか、リアカーの名産地だったのだ。
ボブはせっかく覚えた呪文が嘘をついていたことに落胆した。
彼は表面だけをなぞる無意味さを学んだ。
そんなボブ、今まさに花火を作っている。
スマホゲームで。
しばらくすると花火ができたようで、ボブは画面に表示される赤い花火を誇らしげに見せつけてきた。これは無意味ではないらしい。
その日の帰り際、ボブは言った。
「スマホ画面用のフィルター、空気入ると嫌だよね」
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