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この半年の振り返し その一

 本作はフィクションではありません。実在の人物や団体などとは関係があります。ただし、特定できる文言が入っておりません。もし「それは私かなー」と思ったら、そのままに思ってくださいませ。

 四月、私は二十一歳の人生の初めに、大学に入学しました。毎日、憧れの大学に通えることに夢のような気持ちを感じるどころか、むしろ世間から隔絶された疎外感を抱いていました。この半年を一言で表すなら、恐らく「恐怖」です。
 八日、初めてのガイダンスの日、地下二階の教室に大勢の学生が集まりました。私は一番後ろの席に座りました。隣には同じ学科の二人の学生が座っていました。まもなく、学科の先生の演説が始まり、教室は静かになりました。私は教壇の後ろに立つ先生を見つめていると、目の前がどんどん白くなり、先生の話も周りの人々のひそひそ声も聞こえなくなりました。耳鳴りが始まり、心臓の鼓動が早くなり、手のひらに冷たい汗がにじみました。頭の中が真っ白になり、何も考えられなくなりました。
 先生の演説が終わり、次は三年生の先輩たちのパフォーマンスが始まりました。みんなが笑っていました。私も笑いました。しかし、なぜ笑っているのか分かりませんでした。音が遠のき、周りの人々の笑い声がまるで遠い世界から聞こえてくるように感じました。
 隣の学生たちの会話が断片的に耳に入ってきました。「ねえ、どこ出身なの?」
「埼玉だよ」
「え?埼玉?僕は飯能だ」
「えっ、僕は入間だよ」
「よろしゅー」
 私は所沢に住んでいます。その時、私は「わたしは所沢に住んでるよ。」と話したかった。たぶん「あら、揃えてるよー」のような返事がくれるでしょう。しかし、言葉が口の最先端まで詰まり、何も言えませんでした。結局、みんなと揃えませんでした。

 私は意識が体から分離したような感じで、ぼーっとそこに座っていました。ガイダンスが終わっても、そのまま動けませんでした。一人の学生が声をかけてくれました。「大丈夫かな?」と。
「大丈夫ですよ」と私は答えましたが、心の中では本当に大丈夫ではありませんでした。「ほんとに大丈夫じゃない?」
「大丈夫だ」
「ほら、隣の二人が仲良さそうに話してるのに、君はずっと一人だったよ」
「あっ…」
「トイレ行かない?」
「あ、行くよ」
「迷惑じゃない?」
「いいえ、全然、ありがとう」
 ほんの少しだけ救われた気がしました。しかし、自分が本当に大学に入ったのか、自分でもわからないままでした。このような感じのままで、私の大学生活が始まりました。

(続)

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