名取事務所『帽子と預言者』について (3) /上演順について

※この公演は終了しています http://nato.jp/topics.html

名取事務所の二本立ての前半に上演した『帽子と預言者』についてpart3です。
今回は、深堀さんが演じてくれた「警官」という役どころについてと、なぜ二本立てをこの順番で上演したのかを書こうと思います。↓撮影:坂内太

警官

まず警官についてですが、ト書きには「一言も発することなく、舞台上の仕切りを動かす役割の男を形容するためにこの言葉を使用する。」と書かれています。仕切りとは‥‥? 以下の図が、作家がイメージしていたこの戯曲の舞台セットです。

資料

手書きですみません……

赤い字で書いた「可動式の仕切り」というのが、警官が動かすことを想定されたものです。どうやら作者が馴染みのある裁判所では、被告人が檻の中にいれられているそうなのです。この稼働式の仕切りは、最初は男がいる部屋の前のほう(上の図の左側)にあるのですが、途中で警官が裁判官たちのほう(上の図の右側)に動かし、あたかも今度は裁判官たちが訴えられている、という風に見せたい、というのが作家の意図でした。

しかし、日本の裁判所で被告人が檻に入れられることはありませんので、日本でこれを行うのは意味をなしません。そこで私から役者さんたちにお願いしたのは、今どちらが責めているのか(=どちらが責められているのか)をかなり明確に意識して演じてほしい、ということでした。そして、それをさらに補強するものとして、カメラを導入することにしました。警官は、仕切りを動かす代わりに、基本的には責められている方をカメラで(暴力的に)追う。そして、劇の後半で「警官が…仕切りに手をやるが、躊躇してそのまま立っている(=どちらを「被告」の立場に置くべきか迷っている)場面では、カメラがだれを追うべきか迷ってぐるぐるする…というようなカメラワークをリクエストしました。

カメラが入ったことで情報が多く、ちょっと要素を整理しきれなかったかと思われるところもあり、それは今後の課題として心にとどめて負いたいと思いますが、以上がカメラを導入して私がやりたかったことでした。

さて、次にこの二本立てを、何故この順番で上演したのかということについてです。

2演目まとめて

『鳥~』を先にやったほうが分かりやすかったのでは、というご意見もいただきましたし、私自身最初はそう考えていました。しかし、稽古していく中で、やはりこの二作品がそれぞれ書かれた時代の前後関係は無視しにくいように考え始めました。『帽子~』の世界では、まだ「法は全てを網羅」していると裁判官が言います。実際には前例がないものは放置され、見なかったことにされてしまうとはいえ、法はある基準になっているのです。それが『鳥~』では令状なしで家に踏み込める(=法が機能しない)世界になってしまっている。この変化はとても大切な要素のように思い、この順番にこだわらせていただきました。
また、『鳥~』の頭で本棚が倒れてくる、というショックがかなり大きかったので、このショックを一番頭に持ってきてしまうと、そのあとの本棚の使い方が変化に乏しく見えてしまわないか、という思いもありました。
それともう一つ。『帽子〜』の役者たちが転換を手伝ってくれたので、さすがに出番の前にそれはかわいそうだから、と…汗

いろいろ長くなってしまいました。ここまで読んでくださってありがとうございます。また、何かの作品について皆様にお話しできたらと思います。



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