【無料公開中】その3 台湾料理
良い店の条件というものがある。
飲食店ならもちろんまずは味だろう。
店員の接客も大事だ。
店の雰囲気や清潔感、そしてサービスに見合った料金。
語り出せば枚挙にいとまがない。
しかし厄介なことに、その条件というものはとてもTPOに左右されるのだ。
料亭だったら行き届いた接客と落ち着いた雰囲気が欲しいし、
ラーメン屋なら活気の良さがあると気分が盛り上がると思う。
時間勝負とも言えるお昼のラーメン屋で深々とお辞儀をされても、お客によっては煩わしく感じるだろう。
(え?ちょっとキレてる?)ってくらいで「あっざしたああああ!」と見送られる方が気分が良い時もある。
逆に料亭でスタンプカードを貰ったとする。ぼくは興醒めしてしまう。
大体貯まったら何もらえるの?
煮卵?
高いお店10回通ってもらえるの煮卵?
歌志軒のスタンプカードは嬉しいが、料亭のスタンプカードはいらない。
さて本題に入る。
「台湾料理」だ。
ぼくは台湾料理が好きだ。
好きと言っておきながら中華料理との違いはよく分かっていないし、
本場の台湾料理のことはまったく詳しくない。
ここで話したいのは、どの街にも必ずある日本人向けにカスタマイズされた台湾料理屋だ。
どの店に入ってもなぜか大体同じような金額で同じようなメニューが食べられるあの台湾料理屋だ。
通常のメニューとは別にペラいちのラミネートされた紙に大体1000円くらいの定食が並んでいるあの台湾料理屋だ。
その裏に麺類とご飯ものがセットになっている選べるタイプのランチメニューが載っているあの台湾料理屋だ。
お昼に行くとアイスコーヒが無料になる
「何?そういうのコンサルする専門の業者いるの?」
って勘繰ってしまうほど何処の店も同じ戦略の台湾料理屋だ。
ぼくはなんというか、そういうタイプの、台湾料理屋が好きだ。
こういった店での「良い店の条件」は通常のそれとは異なってくる。
それをぼくが120点だと思う地元の台湾料理屋を例に挙げて話してみる。
まず入り口に猫除けのペットボトルが大量に並んでいる。
野良猫が嫌いなのだろう。
実は科学的に効果は無いらしいが、まぁこういうのは気持ちの問題だ。
猫には効果は無いが、人間の自分からすると、少し入りづらい。
うん+10点。
お店に入る前から庶民的な空気を感じられるからだ。
入店しても大抵無視される。
返事なんか期待してはいけない。
「すみませ〜ん」と声をかけても、3割くらい無視される。
返事なんか期待してはいけないのだ。
数分後、店員が水を持ってくる。
聞こえていたのだ。
けして忙しくて来店に気づかなかったわけではない。
なんならガラガラだ。
というか店員は向こうの席でiPadを触っている。
お客が来たことに気付いていないわけはない。
最高5分ほど、待ったことがある。
何度か、メニューを見て、置いて、それはもう様々なアピールをして、だ。
水は当然のようにぬるい。
たまに少し洗剤臭い。この場合はもう+10点だ。もちろん飲まない。
瓶ビールを頼むと小さな小鉢が付いてくる。
料理が来る前にこれでもつまんでおいてくれというサービスだ。
お通し的なものかと思うが、生ビールを頼んでも付いてこない。レモンサワーにも付いてこない。
瓶ビールだけの特権なのだ。
しかしこの小鉢、2本目以降には全く付いてこない。
この理不尽さ。
店側のサービスに甘えて依存してはいけないという強いメッセージを感じられる。
肝心の料理の味だが、当然100点だ。
誤解しないでほしい。
ここでの100点とは「100点の50点」ということだ。
80点でも、15点でもない。完璧な50点。
これこそが台湾料理屋の100点の味といえる。
不味いものは食べたくないが、しかし震えるほど美味いものが食べたいわけでもないのだ。
餃子を頼んでも、タレは付いてこない。
卓上には醤油だけがある。
店員にラー油を頼んだ。
「ちっワカリマシター」
舌打ちをした。
確かにラー油はすぐ容器に垂れるし、掃除が面倒だ。こちら側が気を遣うべきだ。
お酢なんて頼める空気ではないことは言うまでもない。
夜遅くに行く。
いつも空いている店内は更にガラガラだ。
瓶ビールと台湾ラーメン定食を頼む。
「台湾ラーメンは名古屋発祥で、台湾では逆に名古屋ラーメンと呼ばれている」
テレビのニュースをぼーっと眺めながらそんなことを考えていると、急にテレビが消された。
そして明らかに片付けをし始める店員。
その後ろから運ばれてくる台湾ラーメン。
そして消される奥の座敷席の電気。
この居心地の悪さがたまらない。
閉店ギリギリに行ったぼくが悪いのだと時計をみると、時間は閉店の40分前。
たまには店員だってゆっくり休みたいのだ。
悪口を言っているように見えるかもしれないが、ぼくは褒めているのだ。
実際ぼくは都合50回以上はその店に通っている。
何度も通うとサービスをしてくれるようになった。
ひと口ほどの杏仁豆腐をくれるのだ。
こんな小さな優しさがしみる。
だって普段はテレビ消されてますから。
でも、まぁ、うん。
ぼくは杏仁豆腐が苦手なんだ。
もちろん言えるわけない。
我慢して、最後に一気に口に含んで店を出て、また来週も来ようと思う。
これが、ぼくが思う「良い台湾料理屋の条件」だ。
いや、どこが?と言われそうだ。
なんというか、したくないことはしない、そんな姿勢が好きなのだ。
そこに癒しを感じるのだ。
こういった店があっても良いと思うのだ。
地元の台湾料理屋とはこうあってほしいのだ。
ほんの少しでも、共感してもらえたら嬉しい。
ちなみにスタンプカードは15個貯まったら500円引きになる。
いくつ押されるかは完全に店員の気分だ。押されないときもある。
ほんとこの店最高。
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