その9 少林寺拳法

小学校の頃、少林寺拳法を習っていた。

保育園のお誕生会で「将来なりたいもの」を聞かれるイベントがあった。
周りが特撮ヒーローやアニメのキャラクターを答える中、
ぼくは(なれるわけないじゃないか。もっと現実みろよ)と思い、
もっと現実的な夢を答えて尊敬されようと「すずめ」と答えた。

ひねた少年だったのだ。

変わった回答に反応した先生に理由を聞かれて
必死に「空が飛べるから」とかそれらしい理由を答えていたが
実はそんなにすずめにはなりたくなかった。
本当はぼくも特撮ヒーローになりたかった。

本当にすずめになってしまったらどうしようと夜一人で泣いた記憶があるが、
ありがたいことに35年間、今のところすずめにはならずに済んでいる。

少し後、小学生になった。
当時はドラゴンボールZの大流行中。
主人公の孫悟空は強く明るく朗らかで、子どもたちのヒーローだった。
男子はこぞってかめはめ波の練習をしていたし、
もちろんぼくも夢中になってテレビにかじりついていた。
よく考えたら悟空は空も飛べる。完全にすずめの上位互換だ。

でもやはりぼくはひねていた。

自分はサイヤ人ではないことは分かっていたし、
そもそもアニメのキャラクターだ。憧れてもなれるわけではない。

小2のぼくが選んだのはもっと現実的な道だ。

アニメ「ジャングルの王者ターちゃん」だ。

いや分かるよ、うん。
ターちゃんもアニメだよね。

でもなんというかまだターちゃんの方がリアリティがあったのだ。

ターちゃんの登場キャラの一人に梁師範という人物がいる。
拳法の達人で気功を用い、手からビームも撃てる。

サイヤ人の放つかめはめ波にはリアリティは感じられないが、
拳法の達人になれたら、ぼくも手からビームが出せるに違いない。

ぼくは母に頼み込み、少林寺拳法の道場に体験入会することになった。

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