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暴力の原因

暴力というものの定義は非常に広い。狭義には、物理的な、直接的な破壊行為、つまり刑法でいえば暴行罪、傷害罪、殺人罪、不同意わいせつ罪、不同意性交罪、あるいは器物損壊罪に当たるものである。問題なのは、どこまで定義を広げるかである。

著名な平和学者、ヨハン・ガルトゥング、は「ある人にたいして影響力が行使された結果、彼が現実に肉体的、精神的に実現しえたものが、彼のもつ潜在的実現可能性を下まわった場合、そこには暴力が存在する」と定義する。

ガルトゥングの暴力定義における一つ目の論点は、精神的な損傷が含まれることである。筆者も傷害罪に問われるほどの精神的苦痛は含まれると考える。侮辱罪の程度にとどまるものはここでは対象外であろう。

暴力定義におけるもう一つの論点は、ガルトゥングの言う影響力の行使が、直接に誰かが攻撃するものにとどまらず、主体を特定しがたい「構造的暴力」も含まれることである。彼はそうした暴力を社会的不正義と言い換える[1]。貧富の差が寿命、学力、階級などの格差につながるような事例である。貧しい人の寿命が短いのであれば、それは傷害や殺人と同じではないか、という指摘は傾聴に値する。筆者は、政府による故意の政策が間接的であれ、寿命を縮め、かつ、そうした事態を避ける努力を政府が尽くさないのであれば暴力である、と考える。

今回のテーマは、暴力の諸原因を個人、国家、そして国際システムの諸レベルに分けて論じなさい、である。我々が知っている諸紛争において、原因はそれぞれ異なるであろう。パレスチナ紛争は? アルジェリア戦争は? ベトナム戦争は? カンボジア内戦は? イラン・イラク戦争は? 湾岸戦争は? ソマリア内戦は? 旧ユーゴスラビア紛争は? ルワンダ虐殺は? 対テロ戦争は? イラク戦争は? シリア内戦は? イスラミックステイト(IS)は? ミャンマーは? ウクライナは?

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