幾美
お題に添って創作をするNovelber 2020のまとめです。
これは呪いだ。 寒空の下、イヤホンから流れる曲の歌詞を口ずさみながらそう思った。 村井さんとの出会いは三ヶ月前、私が事務員として入社した会社にその人は営業職として勤務していた。 小さな文房具メーカーで楽しそうに仕事をこなす村井さんの姿は、会社全体の雰囲気を明るくしていた。 「アキ、この金額で請求書発行してもらえる?」 他の人たちは私のことを「アキちゃん」と呼んでいたが、村井さんだけは呼び捨てだった。 それが耳を撫でるようでくすぐったく、もっと呼んでもら
サービス業の経験があることだけで決めた就職先の飲食店は、予想以上にブラックだった。 土日祝日は稼ぎ時で正社員の私が休めるはずもなく、一日の拘束時間は十五時間を超えたが残業代がついたことはなかった。 それでもなんとか頑張れたのは、二人の先輩のおかげだった。 一歳下の山本君と、三歳下の月原さん。 先輩といっても二人とも高卒で正社員になったらしく、年下だけど頼れる先輩だった。 歳の近い二人とはすぐに打ち解けることができ、仕事終わりに三人でファミレスに行くことが