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志村高史「自治体の公共施設マネジメント担当になったら読む本」

今ある公共施設はほとんど、今から30年~40年前に作られた。経済も人口も右肩上がりで、それがずっと続くと思われていた。でも、現実は違った。1990年代にバブル経済が崩壊し、持ち直した時期があったのは確かだけれど、もうあんなに成長が当たり前という雰囲気はなくなった。そして、子どもが減り、高齢化社会ではなく、高齢社会になった。現役世代の割合がどんどん減って、いよいよ、一人の現役世代が、一人の高齢者または子どもを養わなければいけない肩車状態の時代がやってくる。
そんな状況の中で、30~40年前に作られた公共施設の更新時期が一斉に押し寄せる。このまま使えば、安全安心の観点から課題がある。だから、必要なものは大規模改修しなければいけない。けれども、一気に更新したら財政が破綻してしまう。それをどうやっていくのか、というのが、公共施設マネジメントだ。

秦野市では早くから公共施設マネジメントに取り組まれていて、志村氏はその中心的人物だった。エビデンスに基づいた計画を立てるため、公共施設についての情報を整理した白書を作り、そのうえで、公共施設を全体的にどう管理していくかということを記した、総合管理計画を策定した。志村氏は言う。
①すべてのハコモノを維持することは、不可能です。
②自分のまちだけの問題ではありません。日本中のまちで同じ問題が起こります。
③結論を先送りすれば、次世代、その次の世代に大きな負担を押し付けることになります。
この3つは、公共施設問題の結論であり、必ず住民や議会に伝えなければいけないことだという。危機感を共通認識として持って初めて、どうしていくか、ということを考えるテーブルに着くことができる。夢のような解決策なんて、ない。地道にやっていくしかないのだ。

著書の中では、公共施設問題の背景とデータを用いた具体的な説明に始まり、解決するための手法についても書かれている。単に廃止する、複合化するだけではなく、残す施設についても、できるだけ歳入を確保し、更新費用を確保していく工夫をしなければいけないということが書かれている。
タイトルが「公共施設マネジメント担当になったら読む本」となっており、まさに今の部署で必要なことが、コンパクトに分かりやすくまとめてある。また各自治体のデータを入れて、自分の自治体の状況を見ることができる章も多く、自分の自治体の総合管理計画の内容と比較しながら、どこまで切り込んで作られているかということを認識し、これからどうすべきかということも考えられるようになっている。
どんな仕事でもそうかもしれないけれど、学べば学ぶほど、不安になることもあるような気がする。特に行政の仕事は、実験ができるものではなくて、これが正しい選択だったのか、不安になることもある。ただ、その事業の根っこにある考え方が正しいかどうか、というのは、色んな人の話を聞いたり、本を読んだり、チームで共有したりすることで、ブレずにいられることもある。この本には、そういう強い力がある。だからそれなりに経験を積んでから読むことの意義もあるし、たまには基本に立ち返ることも必要なのかもしれない。
「公共施設マネジメント担当」だけでなく、できれば、財政部門や、公共施設の中でかなりのボリュームを占める学校施設を担う部署にも読んでもらえたらいいなと思った。

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