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ミサ曲という音楽

Chère Musique

“ミサ曲”というものを演奏する機会に恵まれています。
私はキリスト教徒ではなく、音楽家の一員として演奏したり勉強したりしているだけです。
ただ音楽家である、ただ音楽好きであるというだけでは、体験できることの多くない音楽なので、機会を得られていることに感謝しています。

19年間という長い間、モーツァルトの作った18曲のミサ曲をすべて演奏しようという企画演奏会に、合唱団の一員として関わってきました。
その間に勉強できたことがあるので、その一部を自分の整理も兼ねて書いてみたいと思います。
学んだたくさんのことの中から、ここに書くことは、演奏するにあたってどうしても必要な知識だけ、数あるキリスト教音楽の中でもミサ曲についてだけにとどめます。

ミサとは

教会でおこなわれるキリスト教カトリックの儀式のひとつです。
一番最初は、キリスト自身が処刑される前の晩におこなった“最後の晩餐”でした。

全体が“音楽”と“お話”と“行動”で構成されます。
前半(司祭の“お話”を聞くことが中心)と、後半(出席する信者たちがいろいろな“ことをする”)に分かれます。
どちらの場面でも、大切な“音楽”がいくつかあります。

時代が進むにつれ、やり方がいろいろと変わってきているようです。
お話や歌で使われる言葉は昔は全部ラテン語でしたが、今はそれぞれ自分の国の言葉でということが多いそうです。

ミサ曲とは

ミサで演奏される音楽の中から、歌の入った大切な六曲を取り出し、組曲としたものを指します。
ですから、実際のミサだけでなく演奏会でも演奏できます。

その六曲とは
ミサの前半
Kyrie 憐れみの賛歌
Gloria 神の栄光を称える賛歌
Credo 信仰宣言の賛歌
ミサの後半
Sanctus 感謝の賛歌
Benedictus 祝福がありますように
Agnus Dei 平和を祈る賛歌

歌詞は聖書の言葉なので、同じ歌詞でたくさんの作曲家がいろいろな音楽に作っています。
これはミサ曲以外のキリスト教音楽でも同じことが言えます。

作曲するのがとても大変なので、ヨーロッパの作曲家や世界のキリスト教徒の作曲家は
皆チャレンジしてみたいと思うようですが、なかなか作れません。
ですがとても大切なことなので、六曲全部ではなく一部分だけ作りました、という作曲家も多いようです。
そんな大きな音楽を36年弱の人生で18曲作ったのが、モーツァルトなのです。

歌の内容

Kyrie  キリエ(主よ憐れみたまえ)憐れみの賛歌
Kyrie eleison.
Christe eleison.
Kyrie eleison.
主よ、あわれみたまえ。
キリストよ、あわれみたまえ。
主よ、あわれみたまえ。
※この前にもいくつか演奏されることもあるようですが、ミサの本編が始まる導入的な意味合いの音楽です。

Gloria  グローリア(栄光)神の栄光を称える賛歌
Gloria in excelsis Deo.
Et in terra pax hominibus bonae voluntatis.
Laudamus te. Benedicimus te. Adoramus te. Glorificamus te.
Gratias agimus tibi propter magnam gloriam tuam.
Domine deus, rex caelestis, deus pater omnipotens.
Domine fili unigenite, Jesu Christe.
Domine deus, agnus dei, filius patris.
Qui tollis peccata mundi, miserere nobis.
Qui tollis peccata mundi, suscipe deprecationem nostram.
Qui sedes ad dexteram patris, miserere nobis.
Quoniam tu solus sanctus, Tu solus dominus.
Tu solus altissimus, Jesu Christe.
Cum Sancto spiritu, in gloria dei patris, Amen.
天のいと高きところでは、神に栄光がありますように。
そして地上では善意の人に、平和がありますように。
私達はあなたを誉め、あなたを祝福し、
あなたを拝し、あなたをあがめ、
あなたの大いなる栄光のゆえにあなたに感謝を捧げます。
主なる神よ、天の王よ、全能の父なる神よ。
唯一の御子である主、イエス·キリストよ。
主なる神よ、神の子羊よ、父の御子よ。
世の罪を取り除いて下さる方よ、私たちを憐れんで下さい。
世の罪を取り除いて下さる方よ、私たちの願いを聞いて下さい。
父の右に座しておられる方よ、私たちを憐れんで下さい。
あなただけが聖なる方であり、あなただけが主です。
イエス・キリストよ、あなただけがいと高き方です。
聖霊とともに父なる神の栄光のうちに。アーメン。
※初めの一行は司祭が問いかけるように歌い、二行目から合唱団が応えるように歌い始めます。
演奏会では、指揮者またはテノールの一人がその役を担うことが多いようです。

Credo  クレド(信じる)信仰宣言の賛歌
Credo in unum deum, patrem omnipotentem.
Factorem caeli et terrae, visibilium omnium et invisibilium,
Et in unum dominum. Jesum Christum filium dei unigenitum.
Et ex patre natum ante omnia saecula.
Deum de deo, lumen de lumine, deum verum de deo vero.
Genitum, non factum, consubstantialem patri: per quem omnia facta sunt.
Qui propter nos homines, et propter nostram salutem descendit de caelis.
Et incarnatus est de spiritu sancto ex Maria virgine: et homo factus est.
Crucifixus etiam pro nobis sub Pontio Pilato: 
passus, et sepultus est.
Et resurrexit tertia die, secundum scripturas.
Et ascendit in caelum: sedet ad dexteram patris.
Et iterum venturus est cum gloria judicare vivos et mortuos:
cujus regni non erit finis.
Et in spiritum sancutum dominum, et vivificantem: qui ex patre, filioque procedit.
Qui cum patre, et filio simul adoratur, et conglorificatur: qui locutus est per prophetas.
Et unam, sanctam, catholicam et apostolicam ecclesiam.
Confiteor unum baptisma in remissionem peccatorum.
Et exspecto resurrectionem mortuorum. Et vitam venturi saecli. Amen.
私は唯一の神を信じます。全能の父を信じます。
天と地と見えるものすべてと、見えないものを作った方を。
また、唯一の主なるイエス·キリストを。
すなわち、神の唯一の子であり、
この世のすべてのものよりも前に父から生まれた方を。
神から出た神であり、光から発した光であり、
本当の神から出た本当の神であって、
作られることなく、生まれ出て、父と一体であり、
その方によって万物が作られた。
そのイエスは私たち人間のゆえに、
また私たちを救うために天から降りて来て、
聖霊によって聖母マリアから肉体を受け人間となりました。
そして私たちのためにポンティオ·ピラトのもとで
十字架にかけられ受難し葬られました。
そして聖書に書かれている通り三日目によみがえり、
天に昇って父なる神の右に座りました。
そして再び栄光とともにこの世に来て、
生きている者と死んでいる者とを裁きます。
その王国には終りがありません。
私はまた、主なる聖霊、即ち生命を与えて下さるものを信じます。
その聖霊は父と子から出て、父と子とともに拝され、あがめられています。
その聖霊は預言者によって語ってきました。
私はまた、唯一の、聖なる、公の使徒を継承する教会を信じます。
私は罪の赦しとなる唯一の洗礼を認め、
死者の復活と来世のいのちを待ち望みます。アーメン。
※初めの一行については『Gloria』と同じです。
※神を讃えて信仰を誓いつつ、キリストの生涯についてひと通り物語っています。

Sanctus  サンクトゥス(聖なる)感謝の賛歌
Sanctus, sanctus, sanctus, 
dominus deus sabaoth.
Pleni sunt caeli et terra gloria tua.
Hosanna in excelsis.
聖なるかな、聖なるかな、聖なるかな
万軍の神なる主は。
天も地もあなたの栄光に満ちています。
いと高きところにホサナ。
※「Sanctus」を三回繰り返すことが、“三位一体”からのキリスト教における3という数字の重要性を表す手法の一つです。

Benedictus  ベネディクトゥス(祝福がありますように)
Benedictus qui venit in nomine domini.
Hosanna in excelsis.
ほむべきかな、主の御名によって来る人は。
いと高きところにホサナ。
※一行目はソプラノソロ一人またはソリスト達によって歌われる優しい音楽であることが多いようです。
※最後の一行「Hosanna〜」は『Sanctus』の最後と同じ音楽であることがほとんどです。その点から、この二曲を一曲として扱っている作曲家もいます。

Agnus Dei  アニュス デイ(神の小羊)平和を祈る賛歌
Agnus Dei, qui tollis peccata mundi
miserere nobis.
Agnus Dei, qui tollis peccata mundi
miserere nobis.
Agnus Dei, qui tollis peccata mundi
dona nobis pacem.
世の罪を取り除いて下さる神の子羊よ、
私たちを憐れんで下さい。
世の罪を取り除いて下さる神の子羊よ、
私たちを憐れんで下さい。
世の罪を取り除いて下さる神の子羊よ、
私たちに平安を授けて下さい。 ※歌詞の初めの二節は同じで三節目だけが異なるので、最後の「dona nobis pacem.」だけがその前とは違ったイメージの音楽になることが多いようです。

これらの日本語訳は私が勉強した資料にあったものをそのまま引用させていただきました。

演奏会

『モーツァルトのミサ曲vol.15』と題して、私の所属する音楽工房くらによる企画演奏会が開催されます。
2024年3月31日(日)東京オペラシティ・リサイタルホールです
長年シリーズで開催してきたこの演奏会も、今回の15回目で最終回となります。

合唱やソロの声楽、オーケストラなど、たくさんの種類の演奏形態で、すべてモーツァルト作品、というとても珍しい形の演奏会です。
メインプログラムはモーツァルトが作曲した18曲のミサ曲。
それをすべて演奏しよう!という壮大な企画は、コロナ禍でできなかった年を挟んで、19年かかりました。

今回のメインプログラムのミサ曲は『変ロ長調 K.275』。
その他、著名なソリストによるオペラアリアの名曲、混声合唱作品、女声ア・カペラによるカノン、オーケストラによる教会ソナタなど、多彩なプログラムです。

指揮は倉岡信先生、女声ア・カペラだけは私の師匠である倉岡典子先生です。
ソリストには毎回同じ方で、素晴らしい大御所歌手をお迎えしています。
今回はその方々に加えて、若手の今一番旬な歌手の方々も活躍してくださいます。
合唱は私たち倉岡門下生、管弦楽はこのために編成されたオーケストラです。

ご好評いただきチケットは既に販売を終了していますが、この企画に関するいくつかの視点からの話題をいろいろなところで取り上げています。

この企画では19年の間に、二回もザルツブルクその地に行っての演奏会を開催したりもしてきました。
コロナ禍による四年間の空白を経て、これまでのまとめともなる今回の演奏会。
来年からの新シリーズにつながるよう、最終回を楽しみたいと思います。


Musique, Elle a des ailes.

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