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喉の調子が悪い時の歌い方


Chère Musique


寒さもひとしお。
乾燥が気になる季節です。

歌好きの皆さまは、喉の調子はいかがでしょうか。



2022年のクリスマスライブの一週間前に、喉の調子がとても悪くなりました。
原因は、仕事のし過ぎによる副鼻腔炎の悪化。
一生懸命ケアをして少しだけ持ち直し、最終的に用いた手段はというと。。。

歌い方(表現)をまったく違うジャンルに切り替えたのです。

美しい声で優しく歌うはずだった、アイルランドの伝承歌『ダニーボーイ』を、地声で、まるでミュージカルのように演技をつけて歌いました。
これはこれで、泣いてくださったお客様もいたくらい好評でした。



もしも人前で歌わなければならない日の直前に、喉の調子が悪くなったら、どんなふうに対処するのか。
この「表現のジャンルを変える」とはどういうことか、私の今回乗り越えた経験を少し書きたいと思います。
少しでも皆様のご参考になれば幸いです。

私は音楽家ではありますがプロの歌手ではないので、本当に本格的な声楽の発声という意味での対処法を知りたい方には、少しずれたお話になると思いますので、ご了承くださいね。
そういう方はぜひ、プロの声楽家の方のアドバイスをいただいてください。

〈喉を整える〉

生まれながらに声帯が頑丈で、苦労なく素晴らしい歌声を手に入れているプロの歌手の方々でさえも、この季節やウイルスと花粉の時期には、人知れず努力をして喉の調子を保ちます。

私の立ち位置はというと、プロの歌手のように職業にするくらいのクオリティではないけれど、別の分野でのプロの音楽家としては歌うことがとてもとても好き、というくらいです。
舞台も、いろいろな種類のものをやっていますが、歌が一番多いです。

なので、歌う舞台が決まると、むしろ歌手の方々よりも、喉を慎重に整えてゆくように心がけています。


どんなに気をつけていても、不調になってしまうことはあります。
(これがあってはいけないのがプロの歌手であり、逆に言うと滅多なことでは調子を崩さない頑強な喉を持っている人がプロになれる、とも言えます。)
不調の乗り越え方は、いくつか経験してきています。
もちろん、当たり前にやることとして、耳鼻科に行く(根本的に原因を解消する)、よく寝る、喉を温める、加湿器を使う、ハチミツやのど飴の力を借りる、喉スプレーを使う、など。
これらをした上での、実際の歌の中での乗り越え方ということです。

〈声の種類〉

天才的な歌手の方でない限り、普通の人の歌声には実はいくつもの種類があります。
その呼び方はいろいろあり、人によって言葉の使い方は違うのですが、私がよく使う言葉は「頭声(とうせい)」「胸声(きょうせい)」「地声(じごえ)」。
というのも、私自身が自分の歌声をこの三つに分けて使っているからなのです。

使っているというより、一生懸命に歌の修行をするようになって、自分の声がはっきりこの三つに分かれていると感じたから、ですね。



クラシックの声楽や、私が普段楽しんでいる合唱などでは、この頭声と胸声と、そしてその間くらいの混ざった声を使って歌っています。
他のジャンルの音楽を歌うときでも、この声を使った方が良いなと思うこともあって、例えばポップスなどで使いたい場合は、声はこの声だけど歌い方をクラシックとは大きく変えています。

ポップス,歌謡曲、シャンソン、ミュージカルなどのジャンルの歌の時には、主に地声と、高音は胸声を使います。



私はこれらの声のそれぞれの声質がけっこう違っていて、音域や表現によって声種類をチェンジすると、はっきりと分かってしまいます。
分かるどころか、響き方が全然違うので声量まで変わって聞こえてしまうのです。

これは歌い手としてはとてもソンな体質。
このおかげで魅力的な歌に仕上げるのにいつも苦労していますし、プロの歌手になろう(歌で生活していこう)とはまったく思わない原因にもなっています。

この声を持っていることによって、楽しい経験もイヤな経験もいろいろしました。
そう、楽しい経験、この声で良かったなぁと思えることも、たくさんあったのです。
嬉しかったのは、作曲家の方から「この声で歌って」と指定されたこと。
この人は私の声をとてもよく分かっていて、「君の声でこの歌を歌うなら、こうしよう」と私に合わせて考えてくれるので、とても幸せです。
先日のクリスマスライブでも、その人の作品を歌うときに、声の種類と歌い方を考えてくれていたのが分かりました。

〈チェンジポイント〉

この「声の種類のチェンジする音高」というのがあって、「チェンジポイント」と私は呼んでいます。
これが、その時々でどの音で変わるのかが違うのです。
だいたいこの辺、というのはもちろん分かっていますが、日によって、曲によって、メロディの音の動き方によって、少しずつ違います。

私の歌の練習は、まずはその曲の中でどこでチェンジしてしまうかを見定めることから始まるのです。
そして、まぁいくらプロ歌手ではないと言っても音楽家ですし、歌のレッスンもしているセンセでもあるので、そのチェンジをその歌の表現に活きるようにコントロールして、演出にしてゆくのです。



私の場合はこんな感じなのですが、世の中には、人が聴くとどこでチェンジしたのかほとんど分からない、つまり声質も声量もほとんど変わらない、という人がたくさんいます。
私の生徒さんの中にも何人かいて、本当に羨ましいです。


〈ジャンルを変える〉

これらの声の種類や声域ということを踏まえた上でのお話。

喉の不調の乗り越え方のひとつとして、先日のクリスマスライブでは、「曲のジャンルを変えてしまう」という大冒険をしました。
これは、民謡ともとれる曖昧なジャンルの歌『ダニーボーイ』だったから出来たことだと思っています。
もともと、強い思いがあってコンセプトがはっきりしていたパフォーマンスだったし、長年のミュージカル経験もあり、変えるのは簡単でした。
演技も問題なく出来ました。

今回の症状は、私の喉の不調では多いのですが、声域が全体的に下がってしまうというものでした。
今回はなんと三度くらいも下がりました。

なので、『ダニーボーイ』で胸声で歌おうと思っていたところも何音か地声で歌えてしまう、つまりチェンジポイントが上がった状態でした。
ほとんどが地声、ほんの数音だけ胸声、という状態では、絶対に演技付きのミュージカル調にした方が合う!と判断したのです。


ついでに言うと、前出の相性のいい作曲家の今回の作品はとても低い音域だったので、この声の変化により逆に歌いやすくなっていました。


〈響かせる場所を普段より後ろにする〉

もうひとつ、この「ジャンルを変える」などという冒険ではなく、きちんとレッスンを受けている人ならがんばればすぐできる対処法として、響かせる場所をいつもよりも頭の後ろの方に引っ込ませるという方法もあります。


少し風邪気味だとかで、声帯が荒れてしまっている時、歌声が出づらく感じたり、きれいな声じゃないと感じたり、という時。
声にならないくらいの小さなハミングから響きを作ってゆき、それを声にするときに喉の奥、頭をぐっと後ろにさげてから、そこを通って響きを上に上げていくという方法。


もちろんこれは、下半身や腹筋背筋の支えを普段よりももっとしっかりさせた上で、、というのが前提です。



ちょっと専門的になってしまいましたね。

生徒さんがレッスンでこの程度の不調を訴えたときには、こんな感じでレッスンしています。

このようなお話は、ヴォイストレーニングのレッスンを実際に受けている方なら、解ると思います。
長年の経験で培うものなので、これ以上の詳しい説明はここでは書きませんが、お役に立つ方もいらっしゃるかもしれません。


とにかく、ボディ自体がしっかりしていないとどの対処法も難しいので、発熱やお腹こわしなど本当に内科に行くほどの不調であれば、舞台で歌うことは残念ながら難しいでしょう。




2022年クリスマスライブでの経験が感慨深いものだったので、喉の不調で困っているアマチュア歌手の皆さまのお役に立つかなと思いました。

歌がお好きな皆さまは、くれぐれも喉を大切に。
加湿器とのど飴は必須ですよ。


Musique, Elle a des ailes.

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