舞曲は踊る?聴く?
イントロダクション
前回は、音楽と身体や心が一体になれる、という話題でした。
そして今回それが「踊る」ということ、そして「踊るための音楽」というお話へと繋がります。
音楽には“舞曲”というものがあります。
舞曲は二種類?
舞曲という音楽には大きく二種類あると、私は思っています。
何をもってして分けるかによっていろいろな見方がありますが、私が思うのは、“踊るための舞曲”と“聴くための舞曲”です。
まずは、当然ですが、踊るための舞曲がたくさん作られる時代があって、その後それらを土台として、聴いて味わうための舞曲も作られるようになりました。
どんなふうに変化してそうなっているとしても、あくまでも、踊るための舞曲が土台になってのことです。
現代の演奏家が好んで演奏する(舞台に乗せたり、録音したりする)のは、「踊ろうと思えば十分に踊れるけれども、でも聴いて味わうためにも作られている」という作品がとても多いと思います。
例えばバッハなどに代表される古典組曲などがそうです。
舞曲のタイトル
舞踊とそのための音楽には、ワルツ、メヌエット、などという名前が付いていますが、これは踊りの種類、ステップの種類の名前で、作曲家がそれらをそのまま曲の題名にもしているのです。
ずっと以前に『ガボットを習ったの』というタイトルで、ここに書きました。
「これは踊りの種類の名前で、同じ名前の曲が他にもたくさんあるんだよ」という、小学生の姪との会話が、話題のきっかけでした。
古典舞踏や歴史的舞踏と言われる、例えば古典組曲にも入るような時代の踊り、サラバンドやジーグなども、その名前のまま曲名として使われています。
(ちなみに、古典組曲についてはまた別のお話にしますね)
動かす音
舞曲の音の構成の中には前回のお話の、人間の体の筋肉その他いろいろなものを動かす要素がたくさん入っています。
例えばアクセントの音では重心がどっしり落ち着いたり逆に跳び箱の踏み台のような役目になることもあります。
スタッカートの音をうまく演奏できれば、動きの方向を変える区切りになったり、次のステップに向かってふわっと浮き上がったりするきっかけになります。
途中や終わりにカデンツァという部分がありますが、ここの演奏方法も、踊りの区切り目の身振りを促すものでなくてはなりません。
舞曲を演奏する
舞曲の名前を冠したとってもたくさんの作品がありますし、舞曲は音楽を習得する上での基礎となるものなので、ピアノ弾きはみんな、舞曲を弾かないということはあり得ません。
そんな中で、演奏家は、特にピアニストは、理解して演奏してほしいな、と思うこと。
舞曲は身体を動かす、心を動かす要素ばかりでできていること。
また、それらを理解してそのように弾かなくては意味がないということ。
その上で、舞踊音楽にはない表現や音色を持つ曲も、中にはあるということ。
本物の優れた演奏家は、それらをすべて理解して演奏しているので、聴いていると自然と心もカラダも踊るような反応をしてしまうのです。
踊るための演奏
私の先生は古典舞踏の研究家でもあるので、講座やセミナーのお手伝いをするときに、私たち弟子がピアノ演奏を担当することがあります。
そんな時の選曲は、受講者の方々が耳馴染みのある、バッハやショパンの作品を使われることが多いのですが、私たちは皆、自分がそれらの曲を舞台で演奏するのとは違う弾き方になります。
目の前で大勢の方々が踊っているわけですから、自然とそれまで学んできた舞曲のステップがやりやすい弾き方になるのです。
私たち弟子は、たぶん他のピアニストよりも普段からそのようなニュアンスで弾く人ばかりなのではないでしょうか。
エンディング
この数回は私の専門である音楽と心と体の関係、というお話だったので、熱く語ってしまいました。
言葉で書くと少し難しげに思えるところもあったかもしれませんが、実際にはとても単純なこと。
実際に体験してみると、どんなに簡単なことなのかがすぐ伝わるかもしれません。
皆さんぜひ、音楽を聴くときには、体のどこが何を受け取っているのか、音によって自分がどうなっているのかを感じてみてはいかがでしょうか。
Musique, Elle a des ailes.
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