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ボンボヤージの魔法の杖

第一章:新たな始まり
彼の名前はボンボヤージ。お母さんが「みんなの幸せを喜べる人になるように」と願いを込めてつけた名前です。彼の父は船乗りで、世界中の海を巡っているため、なかなか会えません。でも、日焼けした肌とくしゃっと笑う顔が大好きでした。
ボンボヤージとお母さんは、空気の良いこの街に最近引っ越してきました。お母さんは少しだけ体が弱いので、療養のために選んだ場所です。新しい街では友達も近所のおばさんたちもまだ馴染みがありません。そんな状況に少し寂しさを感じつつも、ボンボヤージは新しい生活に少しずつ慣れていきました。
第二章:森の冒険
ある朝、ボンボヤージは、いつものようにお母さんが作ってくれた粗くつぶしたゆで卵をマヨネーズで和えたサンドイッチと、ハムがたくさん入ったコロコロポテトサラダを持って、大好きな森に出かけました。前の街は車ばかりで、自然を感じることがほとんどなかったのですが、今の家の近くにはアフロディーテの森という素晴らしい場所がありました。
その森は少し薄暗くて、新しい学校の友達はあまり近寄りません。森の奥には怖いお爺さんが住んでいるという噂もあるからです。でも、ボンボヤージにはこの森が自分らしく楽しめるお気に入りの場所になりました。今日はちょっと奥まで探検です。お母さんはあまり奥まで行かないようにと言いますが、今日は気持ちの良い風が吹いているし、ちょっとだけならいいだろうと思いました。
第三章:不思議なお爺さん
しばらく歩いていくと、古いお家が見えました。ボンボヤージは、お家の近くまで行ってみることにしました。その家はかなり古そうでしたが、広いお庭には色とりどりのバラの花がたくさん咲いていました。噂の怖いお爺さんの家かな?と少しだけドキドキしましたが、こんな綺麗な花が咲く家だから、きっと素敵な人が住んでいるんだろうとワクワクしました。
帰ろうとしたその時、お家から声がしました。「坊や、お庭を見せてあげようか?」振り返ると、そこには痩せていて背の高い、丸い帽子をかぶったお爺さんが立っていました。でも、怖くはありません。お爺さんはニコニコ笑って、ボンボヤージにこう言いました。「これからランチを食べるんだけど、一緒にどうだい?でも、もしお腹が空いていないなら、何か飲んでいかないかい?」
ボンボヤージは、いつもお母さんから知らない人には気をつけるように言われています。だから、お爺さんにこう返事をしました。「お爺さん、ご親切をありがとう。でも、お母さんに心配をかけたくないので、今日は帰ります。」すると、お爺さんはニコニコしながら「坊やは優しい、いい子だね。よし、こんな森の奥まで来てくれたお礼に、とっておきの記念品をあげよう。」と言って、ポケットから何やら棒のようなものを取り出し、ボンボヤージにそっと手渡しました。
「お爺さん、この棒のようなものは何?」ボンボヤージが目をクリクリさせながら不思議そうに尋ねると、お爺さんはこう言いました。「それはね、魔法の杖だよ。君の願いが何でも叶う、不思議な杖さ。」その魔法の杖は細い何かの枝のようでもありました。お爺さんがせっかくくれるのだからと、ボンボヤージは優しく受け取りました。「またいつでもおいで。」お爺さんは、やはりニコニコしながら手を振りました。
第四章:魔法の杖の力
ボンボヤージが森を出た所で、犬を連れた小さな女の子に会いました。女の子は怯えています。「どうしたの?」とボンボヤージが声をかけると、女の子は声を震わせて言いました。「カマキリがね、そこにいてね、道を通せんぼしているの。」見ると、カマキリがカマを持ち上げて犬と女の子の前でじっとしています。
「僕に任せて」ボンボヤージは、さっきお爺さんから貰った杖で地面をちょんちょんとつつきました。すると、カマキリは素早くどこかへ行ってしまいました。「わあ、お兄ちゃん、すごい。」女の子は大喜びです。「これはね、魔法の杖なんだ。」ボンボヤージは得意げに言いました。
「お兄ちゃん、魔法使いなの?」
「ううん。僕は魔法使いじゃないんだけどね。」ボンボヤージはちょっと照れくさそうに言いました。
第五章:お母さんへの話
家に帰ると、ボンボヤージは今日の出来事をいつもにない早口でお母さんに話しました。お母さんが夕飯の用意が出来ないくらい、ボンボヤージはお母さんの後にくっついて、次から次へと話しました。
次の日、ボンボヤージはお母さんと一緒に、昨日のお爺さんのお家に行くことにしました。お母さんにもお爺さんとお爺さんのお庭を見せたかったからです。
昨日のように、アフロディーテの森に入り、奥まで行きました。でも、あれ?お爺さんの古いお家がありません。薔薇のお庭もどこにもありませんでした。「お母さん、昨日はお家があったんだよ。お爺さんもいたんだよ。ほんとうだよ」
すると、お母さんはニコニコしながら「お爺さんは、ボンボヤージに魔法の杖を託して、旅に出たのかもしれないね。」と言って、モアモアなボンボヤージの髪の毛を優しく撫でました。
第六章:願いの杖
ボンボヤージは、お母さんに言いました。「ねえ、お母さんの願いを言ってみて。僕が叶えてあげる」
「そうね〜」と、お母さんは少し考えて、「ボンボヤージのお父さんが、早く元気に帰ってきますように」と言いました。ボンボヤージは、よし!と言って、手に持っていた杖を振りました。
お母さんとボンボヤージは、お父さんが大好きな海の歌を歌いながら、森を抜け、家に帰りました。玄関のドアを開けると、そこには真っ黒に日焼けして、顔をくしゃくしゃにしながら笑っているお父さんがいました。
ボンボヤージは、ポケットにしまった杖をそっと撫でました。
終章:新しい生活
ボンボヤージと家族は、再び一緒になった日々を楽しんでいました。ボンボヤージは、魔法の杖のことを秘密にしながらも、時折それを使って小さな奇跡を起こしていました。彼の心の中には、お爺さんからもらった大切な教えがありました。「本当の魔法は、優しさと愛である」ということ。
彼の新しい街での生活は、優しさと愛に満ちた毎日になっていきました。森の奥の秘密の場所を時折思い出しながら、ボンボヤージは新しい友達と共に楽しい冒険を続けました。彼の名前が示す通り、彼はみんなの幸せを喜び、分かち合う人になっていったのです。

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