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アイドルのセカンドキャリア問題

宝塚の創設者である小林一三が著書のなかで結婚について話している内容が、アイドルのセカンドキャリア問題を端的に表しているのではないか。

およそ女性の関与している事業を成功させる要訣は、彼女たちを1日も早く結婚できるように導いてやること、結婚してこそ女性の本当の幸せは与えられるものであることを明示してやる点にあります。
私がもし六百人の女生徒に、芸術専門の教育を施させたら、その中から幾十人かの優秀な芸術家を生み出すことは、さほど困難ではないと思います。
しかし、その幾十人かを作り出すために、残りの五百数十人は、立派な芸術家にもなれず、さりとて、家庭の奥様となるにふさわしい教養をも受けていない。中途半端な女性をつくらねばならぬことになります。
彼女たちを教育する場合の方針も、上手な女優をつくるという考えは少しもなく、ただ一人前の女性をつくりあげたいとばかり考えています。(中略)
まず女性をつくれ。これが、私の一貫した教育方針です。

要約すると、芸能として成功するものは一握りなので、女性として幸せになれる能力を身につける方が大事である、ということである。

戦前の話なので、結婚がすべてである、というのはいささか違和感があるが、大筋として言いたいことはわかると思う。

昨今、地下アイドルの労働問題がワイドショーなどを賑わせている。適切な対価が支払われないブラックな労働環境、やりがい搾取だと批判される運営など、批判の矛先は様々だが、グループのロードマップや、アイドル卒業後のセカンドキャリアが明示されていないことは、意外と語られることが少ない。

一部のトップアイドルはタレントや女優などの道が用意されているが、ほとんどの地下アイドル・中堅アイドルなどは、細々と芸能活動を続けるか、一般人の生活に戻るしかない。

それが良いか悪いかはさておき、青春の大部分を芸能という特殊な環境に身を置いておきながら、卒業後アイドル時代のスキルを活かせる職業の選択肢が少なすぎるとも言える。

運営に求められるのは、歌やダンス・演技などのレッスン、芸能界以外の一般常識、学業と芸能活動を両立させるためのルール緩和などである。

メンバーに満足にレッスンも受けさせず、自主練のみで、ひたすらライブと特典会を詰め込んで、なんとかファンをつなぎとめてるだけのグループが少し多すぎるなという気もする。

それはタレントマネジメントというよりは、ただ労働集約的な、言ってしまえば、工場などと大差がなく、エンターテイメントとは程遠い世界である。

そんな運営の元で疲弊しているアイドルの子たちを見てると、モヤモヤしてしまう。握手スキルを磨いたところで、生かせるのは夜の世界や、おじさん転がしくらいにしか役に立たない。

本来は歌やダンスのスキルを磨いて、卒業後は、後進の育成や、タレント・マネジメントに関わるのが筋がよい。またはファンビジネスをやっていた者としてコミュニティマネジメントや、ファンを増やすSNSマーケティングなどに従事してもいいかもしれない。

いずれにしても、先が見えない中で、「いつか売れるから」というニンジンをぶら下げられて、特にスキルが身につかないことに時間を費やすのは、無駄とまでは言わずともリスクが高すぎる気もする。


と、ここまで書いてきて思ったが、アイドルセカンドキャリア問題の根深いところは、アイドル自身が、そんなにキャリアを望んでいないところにあるかもしれない。

僕が知ってる卒業後のアイドルたちは、もちろん真面目に大学行ったり、就職している子もいるが、ギャラ飲みやパパ活などに明け暮れ、ちょっといい生活をしながら、早めの結婚を望んでいる子が多いのかもしれない。

真面目にトップアイドルを目指している子も大勢いるとは思うが、実際のところ、自分の承認欲求を満たすための手段として腰掛けアイドルをやっている子も地下アイドルのなかには多いであろう。

腰掛けのアイドルでも売れてしまうことがあるのが、芸能の魅力ではあるが、地下アイドルの労働問題を本当に解決したいなら、オタクが可愛くもない・スキルもない、ただ近さだけが売りのアイドルもどきをむやみに称賛したり、持ち上げないことである。これはオタクとしてのリテラシーの問題であるが、そういう風に金銭的な対価を運営に与えないことが、ダメな地下アイドルを駆逐する唯一の方法だ。


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