見出し画像

Lady Marmalade - Labelle (1974)

2020年のラベル “Lady Marmalade”の「アメリカ議会図書館:将来にわたり保存すべき録音資料」への追加にあたってのアデル・バーティの記事を訳しました。

ラベル。その名前を聞くと真っ先に思い浮かぶのはパティ・ラベル、卓越したディーバのことであろう。しかし、このストーリーはその関連性よりはるかに深いものである。16年という長きにわたり、ノーナ・ヘンドリックス、サラ・ダッシュそしてパティ・ラベルは、他のグループでは成しえないほど、一緒に音楽的遺産を創造してきた。パティの比類なき声がそれを推し進めてきたのは紛う方ない。しかし、サラ・ダッシュの空を舞うようなソプラノ、ノーナ・ヘンドリックスの深く響く声と詩的な想像力、そしてマネージャーであるヴィッキー・ウィッカムのユートピア的なビジョンが、ラベル的な宇宙:綺羅星の光の創造に寄与している。1962年、パティ・ラベルとブルーベルズは、数曲のマイナーヒットを持つ伝統的なガールズグループであった。そして10年後、彼女たちはガールズグループの枠を壊し、1974年にはポピュラー音楽における正真正銘のロックスターとして黒人女性の役割を再創造した「ラベル」となった。

ボブ・クルーとケニー・ノーランの共作になる「Lady Marmalade」は、クレオールの風俗嬢が客捜しに闊歩する物語である。「今夜私と寝たい? Voulez vous coucher avec moi, ce soir」は、ポピュラー音楽が好きな全てのアメリカ人のフランス語入門フレーズとなった。黒人女性の性的な主体性を世に問うことの是非を、この録音された音楽の疑う余地のない素晴らしさが解消した。この曲自体はラベルの手によって作られたものではないが、彼女たちが歌い広め世界中にセンセーションを巻き起こした。そして巨匠アラン・トゥーサンの華やかなアレンジに彩られたニューオーリンズの酒場のような音楽-ファンクによっては初の試みで、壮大な三位一体の福音の慟哭である。

「Lady Marmalade」の熱いヴォーカルによって、ニューオーリンズの娼婦は、世界中の家庭やクラブ、街の店に届けられ、今日でも最も愛された曲の一つであり続けている。アメリカ人はラベルのフランス語のファンクにより、初めて話すフランス語として「今夜私と寝たい? Voulez vous coucher avec moi, ce soir」-大ヒットしたポップソングの歴史上最も性的に挑発的なフレーズ-を習った。セックスワーカーの視点による自身の賛歌であり、ポピュラー音楽の消費者である大衆がこれまで聞いたこともないような物語であったが、彼らは喜んでこのフレーズを口ずさんだ。この曲の視点は、語り部、セックスワーカー、そしてマーマレードが主導権を持つ中、モカミルクの中に落ちた蝿のように無力なジョーそれぞれに切り替わる。翻弄されるジョーは「もっともっともっと」と懇願するが、ラベルは彼の胸からその願いを奪いさり、ライオンに噛まれ振り回され、挙句に世界へ晒されるぼろ人形のような扱いを受ける。

差別主義者の主張する黒人女性の性的な貪欲さや奔放さは、奴隷所有者によるレイプを正当化するために生まれたもので、彼らをそうし向けた「イゼベル」だと非難しているので、黒人女性のエロチシズムは地下に隠さなければならなくなった。しかし、「Lady Marmalade」は黒人女性の視点に立った誇り高く自由なセクシュアリティを歌い、世界各国を誘惑し、認識を変えさせた。この三人組は、ラルフ・エリソンの『冗談を変えて、くびきをすべりこませよう』の精神でレディ・Mのエロティックな獰猛さを霊媒者として導き、人種差別的なイゼベルのステレオタイプを吹き飛ばした。

ノーナ、パティ、サラ、そしてオリジナルメンバーである4人目のクリス・バードソングは、1962年に「パティ・ラベル&ザ・ブルーベルズ」として歌い始め、「I Sold My Heart to the Junkman」でブレイクした。バードソングは1967年にシュープリームスへ加わるため脱退したが、残った3人はトリオとして活動し続けた。1960年代の華やかなガールズ・グループのサウンドは、アメリカで初めて黒人女性のパワーの片鱗をうかがわせるもので、彼女らの録音はポップス音楽史上今も輝く楽曲であった。シュープリームス、マーベレッツ、マーサ&ザ・ヴァンデラス……若い黒人女性が活躍した時代とジャンルを思い浮かべてほしい。音楽の世界で商業的に成功したければ、シフォンのドレスや盛ったヘアスタイルの下にある想いを歌わなかった。自然な美しさをさらけ出すことや黒人の闘争について正直に語ることを禁じられた歌手たちは、ビジネスの既得権益の上でのみ活動した。

三人組がラベルとして活動を始め、「Lady Marmalade」というトラックは、アルバム「Nightbirds」や宇宙服のような演劇的なステージ演出とともに、ガールズグループが着けていた仮面を引き裂いた。ラベルは再発明の母である上、1960年代の伝統的なガールズ・グループ・スタイルから脱却した最初の女性バンドであり、ゴスペルとグラマラスな着こなしをエレクトリック・ロック、ファンク、ニューオリンズのサウンドとミックスし、まったくユニークなハイブリッド音楽を生み出した最初のバンドである。彼女らはニューヨークのメトロポリタン歌劇場で演奏した最初の同時代黒人音楽であった。彼女達の音楽の上昇は、アメリカにおける生活の迫害や偽善を乗り越え、音楽の力によるラブ/セクシーの解放という思いやりに満ちた世界観へ昇華していった。

「Lady Marmalade」はその時代には過激な歌であった。1974年の11月にリリースされ、ビルボード・シングル・ポップチャートの1位となりアルバム「Nightbirds」もそれにつれて売り上げを伸ばした。シングル、アルバムともにゴールドディスクとなった。「Nightbirds」はゴスペルのそれまでの低迷を将来の興隆へ導いた。ニューオリンズ・スタイルのファンクとR&Bにグラム・ロックのエッジを加えた力作で、ヴォーカルの妙技が冴え渡り、エンパワーメントと超越をテーマにした歌詞を盛り上げている。グルーブの中に、黒人女性として新しい感性を生み出す3人の女性の美声を聴くことができる。

「Lady Marmalade」は多くのアーティストによってカバーされた。クリスティーナ・アギレラ、Mya、映画「ムーランルージュ」のリル・キムとピンク。しかし、ラベルのバージョンを超えるものはない。

音楽と友情の16年のキャリアの上で、歌に共感する声が加われば、音楽の力がいかに高まるかをラベルは示した。彼女達の音楽は、音楽の中に内在する創造性、最も想像力に富んだ表現により、自由な創造性による個人の解放の可能性を、私たちに示してくれたのである。

脚注
アデル・バーティ―は歌手、シンガーソングライター、ミュージシャン、パフォーマーそして作家である。このエッセイは彼女の著作である「Why Labelle Matters」(2021 テキサス州立大学出版会)のまえがきの要約である。


Why Labelle Matters


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?