カープダイアリー第8268話「G7広島サミットの終わりに…筋書通りやってきたゼレンスキー大統領がマツダスタジアムのマウンドに立つ日」(2023年5月22日)

G7サミットが閉幕した翌日の広島市内は好天に恵まれた。午前8時ごろ、ヘリの音とともにおそらく最後の首脳関係者が広島をあとにしたはずだ。米国のバイデン大統領が宿泊していたヒルトン広島にはおびただしい数の警官が配置されていたか、午前9時には人っ子一人いなくなっていた。

市街地ポイントに配備されていた県外の警察車両も時間の経過とともに少なくなった。主会場のグランドプリンスホテルがある宇品島では各地に戻っていく警察車両の列に向け、地元の小学校の児童や町民らが手を振り、感謝の言葉を記した手作りボードで見送った。
 
主要7カ国首脳とEU首脳計9人、オーストラリア、韓国、ブラジル、インドなど招待国の首脳8人、そしてウクラウナのゼレンスキー大統領。
 
トップだけでも18人が広島の地に集った。1945年8月6日の原爆投下以降、広島が背負ってきた絶望と復興と平和の時間軸に新たな足跡が記されたことになる。
 
インパクトのある動画や写真が次々にメディアによって全世界に発信された。
 
瀬戸内海をバックに円卓(広島県廿日市市のマルニ木工製作)を囲み笑顔の9首脳、高速クルーザーで瀬戸内海を移動する様子や宮島の大鳥居を背に笑顔の首脳たち。
 
そして原爆慰霊碑に献花して祈りを捧げるその姿…
 
サミット2日目土曜日の午後3時30分ごろ表向き「電撃訪問」(最初から入念な準備があったことミエミエ)が報じられ午後4時ごろ広島空港に降り立ったゼレンスキー大統領は最終日、日曜日の午後5時過ぎに平和記念公園に足を踏み入れた。
 
平和記念資料館を見学後、岸田首相とともに原爆慰霊碑に献花した。
 
「私は戦争で歴史の石(原爆投下の時、腰かけていた人が熱線で蒸発して影だけ残されたとも言われた石段のこと、人影の石)に影を残すのみになったかもしれない国から来た」
 
「ウクライナの英雄的な人々は戦争そのものを“影”にするために歴史を巻き戻そうとしている」
 
「広島は今復興を遂げている。私たちは瓦礫と化したすべての街の復興を夢見ている」
 
さすが元テレビ界の人気者。わずかな時間での見学でも「人影の石」を題材にして強烈なインパクトのメッセージを発出した。岸田首相の官僚用語の話やサミット期間中ほとんど存在感なしだった湯崎県知事、松井市長の定型コメントより遥かに重みがある。
 
そりゃそうだろう。今この瞬間にもウクライナでは人々が殺し合いの最中にいる。おとなもこどもも爆撃の日常に生きている。
 
一方で戦争被害者である被爆者の声をG7サミットに届けようとする様々な試みは、外務省の“検閲”などにより、水泡に帰したと報じられている。
 
平和を希求する被爆者らの立場からすれば「広島」の名を実入りのないプランに使うな!ということになる。
 
核保有国と日本に代表される核の傘の下にある国同士で話し合うのだから、核廃絶の理想は言えても具体的な話にはならない。増してやまさに今、ロシアが核でウクライナや欧州を威嚇し、中国が秘密裏のうちに核弾頭の大量生産を始めようとしているのだから、自由諸国だけが核を放棄すればプーチンや習近平の思うつぼだろう。

実際、核を全廃したことが誘因となり、ウクライナはロシアの侵攻を許した。
 
まさに理想と現実のギャップ。
 
被爆者が怒りの声を上げる中、今回の広島サミットでの動きに一定の評価を与える専門家も多い。核をこの地上から消すための「第一歩」だと…
 
サミットはわずか3日間であったが、世界の目がすでに知名度抜群だったHIROSHIMAの名をいっそう深いものにした。
 
きっと新たな時代が広島にやってくるはずだ。
 
そんな広島の顔でもあるカープがサミット期間中、まったく何も発しなかった。チームが2週間の遠征に出たのをこれ幸いにと、完全に殻の中に閉じこもったかっこうだ。
 
英国のスナク首相がわざわざ赤いカープソックスを大のカープ推し岸田首相に披露したにも関わらず…
 
さすがは一度も原爆慰霊碑に献花したことのない球団だけのことはある。サンフレッチェ広島や広島ドラゴンフライズは幾度となく慰霊碑に手を合わせ、折り鶴を原爆の子の像に捧げている。
 
いかにも球団が発してきたかのように思われる「ピースナイター」もひろしま生協主催イベントで、カープ球団が主体的に開催している訳ではない。

この一番肝の部分に触れるメディアは広島には存在しない。そのため、この極めて重大な事実に気付いている市民もほとんどいない。
 
いつの日かウクライナに平和な時間が流れるようになり、その時まだゼレンスキー大統領が元気でいるならば、岸田首相の地元、マツダスタジアムにウクライナ旗がたなびき、グリーンのパーカー姿のヒーローが始球式のマウンドに立つことになるのだろうか。(あるいはこの12月に完成する新サッカースタジアムで、平和を希求する森保ジャパンとウクライナ代表が国際親善マッチを戦うことになるのか、こちらの方が可能性としては遥かに高い気もするが…)
 

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