カープダイアリー第8582話「九回にヒーロー田村が呪縛零一掃、だがそれだけじゃない栗林の悪夢を断ち切ったのは…」(2024年4月11日)

「その前の打席で、チャンスで凡退してしまっていたので、ほんと最後は絶対自分が決めてやるという、そのひとつで打席に入ってました」

左手でマイクを持ち、初めてのインタビューに臨んだ田村俊介がそう言った。九回に決勝の中越え三塁打を放ち、最年少のそのバットで前夜、完封負けを止めたチームに貴勝をもたらした。

1対0決着の接戦はどちらに転んでもおかしくない展開だった。

初回、先頭の近本に二塁打を許した大瀬良の立ち上がりを救ったのは、レフト秋山だった。不振に喘ぐトラの主砲、大山の、渾身の一振りで舞い上がった大飛球をスーパーキャッチした。

阪神先発・西勇輝の出来は素晴らしく、気が付けばまた”両軍セロ行進“の見慣れた展開になった。

七回の大瀬良は、途中出場の久保修に助けられた。先頭の佐藤輝明の大飛球は右中間へ。フェンスに激突してその場に倒れ込んだ56番はボールを掴んだグラブを胸の上で保持した。虎ファンからも惜しみない拍手が送られた。

久保修は六回の打席で打球を目に当てた秋山に代わってセンターに入っていた。そういうところに打球が飛んでくる。

曾澤のリードに頷きながら、カットボールを多投しながら阪神打線を向かっていった大瀬良。その軸になる球をかち上げた佐藤輝明は、おそらく“手ごたえあり”だったはずだ。

西勇輝の方も、右打者、左打者の内外角への投げ分けで失点とは無縁の投球になった。ただ球数が嵩んで8回120球。

阪神は九回のマウンドにここまで無傷のゲラを送ってきた。先頭の小園が初球を叩いて右前打。四番堂林が送って久保の代打には松山。

初球から5連続ファウルで粘った“師匠”は、6球目の快速球もファウルにしたあと、最後にインスラで三振に仕留められた。

ネクストでその様子を見守った田村俊介が打つとしたら、そのスライダーか真っすぐ。

ゲラをリードする梅野とは、すでにこの日3度の対戦でチェンジアップ、外角へ逃げていくシュート、それに食い込んでくるスライダーを見せられていた。案の定、ゲラの1、2球目もスライダーで、空振りとボール球でカウント1―1…

そろそろ投げてくる…

予感的中”真ん中高目にきた155キロを一振りで前進守備のセンターの頭上へ打ち返した。そうファウルにせずに一振りで。快速球に強い。100キロ超えの重厚なボディが成せる技でもある。それが一番の持ち味だ。

だが、もしかしたらその殊勲打のあと、まだひと波乱、ふた波乱あったかもしれない。

最少リードのセーブシチュエーション任されたのは、もちろん栗林。だがここでもまた先頭打者のバットから快音が発せられた。

その打球に突っ込んだのは松山に代わってセンターに入った上本だった。もしヒットになっていたら走者を背負ってノイジー、大山、佐藤輝明…

それだけではない。

栗林は昨季、4月4日のマツダスタジアムで九回、大山に決勝二塁打を許した。さらにその2週間後、18日の甲子園球場では、中野にサヨナラ2点タイムリーを打たれて苦しいシーズン幕開けとなっていた。

新井監督が目指しているチーム作りは「全員で戦うこと」がモットーとされている。切り札のはずの38歳が打ち取られたあと、20歳が“敵討ち”する。32歳の失投(佐藤輝明の好きな真ん中低目)は23歳がフォローする。27歳が見かけた悪夢は今度は年上33歳が強制終了してくれる。

1点も取れない、1点しか取れないなら守りを固めるしかない。この3連戦は両軍とも失策ゼロだった。


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