カープダイアリー第8352話「名残の夏の攻防戦Ⅳ…マツダスタジアムパラレルワールドの主役たち、森下翔太に続いて浅野翔吾」(2023年8月18日)

マツダスタジアムにはパラレルワールドが存在するらしい。ただひとりの“独裁者”のジャッジメントにより、本来とは別の世界が広島の空の下に広がっていく…
 
この日の試合前全体練習スタートは午後2時。すでにその前に外野の芝生の上には中村奨成の姿があった。
 
連日熱戦の続く甲子園では2日前、母校・広陵が慶応のハイクオリティ野球の前に涙をのんだ。早いもので中村奨成が大舞台で6発の柵越えを披露してからもう6年が経つ。
 
前日17日の阪神との第3戦で左ハムストリングスを痛めた上本が首脳陣の判断で戦線離脱となった。本人はテーピングなどによるプレー続行が可能であるとアピールしたが、動きに制約が生じるし、症状を悪化させてしまえばあとあとまで響く。
 
二軍メンバーの中に今の上本に匹敵するような人材はいない。しかし、だからと言ってまた中村奨成?
 
7月22日に今季初の一軍昇格を果たした中村奨成は2度のスタメンを含む8試合に出場して11打数で内野安打1本、空振り三振6個。8・6ピースナイターでは代打出場して3球三振に終わり翌7日に出場選手登録を抹消された。
 
そのあと二軍戦6試合で17の7、4割を超える打率は特筆すべきものだが、たった6試合で、一軍で浮き彫りになった課題を克服できるはずもない。変化球はボール球に手を出し、真っすぐには差し込まれる。
 
本来なら起こるはずもなかった8・6ピースナイターでの巨人戦0対13の大敗劇。チームの苦しみはそこから始まり、前夜の床田の完封劇で立ち直るきっかけをつかんだはずなのに、また元の世界に引き込まれてしまった。
 
この日の予告先発は森翔平と、最多勝争いを床田と演じる戸郷。誰が見ても戦前の予想は厳しいものだった。
 
それでも三回、スタメン出場の特番矢野が左前打を放って突破口を開くと、菊池、龍馬のタイムリーなどで10勝右腕から3点を先制することができた。
 
ところが五回のマウンドでは森翔平の課題が瞬く間に浮き彫りに…。先頭の中田翔へ投じた初球まっすぐを左中間への二塁打されると、続く浅野翔吾には2球目のカットボールをレフトコンコースの先まで運ばれた。
 
「センターから逆方向へつなぐ意識で打席に入ってました」

引っ張ることを意識から消したそのスイングは実にスムースで軽くヘッドを振り抜いているように見えた。飛ばす能力とは天性のものであり、もちろんプロだから木製バットで、の話だ。
 
香川県・高松商出身のスラッガーは巨人からドラフト1位指名されてプロの世界に飛び込んだ。さらに1指名で競合した阪神は、外れ1位で森下翔太を指名した。
 
鈴木誠也が海を渡り、その後継者指名を急ぐチームの現場を考えれば、なぜ浅野翔吾や森下翔太をスルーした?という声が上がらない方がおかしい。3日前にも、大瀬良がその立ち上がりで森下翔太に2ランを打たれている。
 
これは決して結果論ではない。
 
例えば浅野翔吾は独自のトレーニングなどにより左打ちも左投げもできる高い身体能力を誇る。しかも171センチで86キロというパワフルな肉体に強い精神力を宿している。
 
「一軍でやらしてもらっている以上、18歳だからしょうがないとか、そういったのはないと思うので、しっかり勝利に貢献できるようにがんばっていきたいなと思います」
 
試合後のインタビューで堂々とそう語る浅野翔吾の姿を、事前に情報をキャッチしていたカープスカウト陣はどんな思いで見ているのか?

もちろん先のことは誰にも分からない。その将来性を見越して獲得した内田湘大。今は二軍戦打率がその身の丈にも及ばないようなレベルでも、5年後には浅野翔吾の上を行っているかもしれない。

だが、少なくともこの日の試合を見る限りでは8月6日を境にして新井監督以下、一塁側ベンチの面々がもうひとつの世界に引き込まれたのは明らかだ。

8・6のマツダスタジアムで飛び交った放物線は岡本和真の3ホーマーと中田翔、長野のソロ、合計5発。岡本和真の3本目と中田翔の代打ホームランを配給したのは、ピースナイター登板の演出を球団側から用意された河野佳で、それがなければ余分な2発は存在しない。

その中田翔がそのまま浅野翔吾の2ランをお膳立てしたことによって森翔平は五回降板となり、継投策は正にピンチの連続に…

六回の栗林は一死一、二塁とされ代打丸を併殺網にひっかけて反撃を何とかかわした。

七回のターリーは二死二塁から吉川に左前打されたが龍馬のナイスバックホームに救われた。

その裏、相手のバッテリーミスに乗じて4対2としても、悪い流れは変わらなかった。

八回の島内は28球も投げるハメになり、岡本和真、秋広、門脇の3連打で同点にされた。

そして九回の矢崎。3試合連続失点中の右腕は岡本和真にあっさりとセンターオーバーの決勝タイムリーを許したのである。

ピースナイターでの惨敗は単にその日だけのことではないことがこの日14安打を放った巨人打線によってまた証明された。

五回、森翔平の代打で打席に立った中村奨成の打球はまた当たり損ねの内野安打になった。何度でも同じことが繰り返される。だが、それは本来の赤の魂をかけた崇高な戦いの世界とは別次元の話である。

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