ドラフト指名で残念ながら地元球団カープと縁がなかった三次市出身の宗山塁、府中市出身の渡部聖弥の未来(10月24日)
午後5時を過ぎて、広島県北に位置する拠点都市の日も傾いた。三次市街地から車で20分、市内を流れる馬洗川に沿って広がる三良坂町では宗山塁の実家に、元日本ハムの杉谷拳士の姿があった。ドラフト関連中継ではメディアがしのぎを削る。
運命のドラフト会議、1位指名選手が都内の会場で読み上げられた。西武、楽天、そして1位指名公表の広島、さらに日本ハム、ソフトバンク…。自分の名前が2度、3度、4度と聞こえてきても、表情を変えない宗山塁の後ろで、明治大のチームメイトたちのアクションがどんどん大きくなった。
今ドラフト最多の5球団競合の末、西武に続いて2番目にクジを引いた楽天が交渉権を獲得した。3番目だった新井貴浩監督には空クジしか残されていなかったことになる。午後5時10分、「10年先までショート安泰の、カープの宗山塁」がこの日、誕生する道は途絶えた。
中継では同じく三次市内にいた宗山塁の父・伸吉さんの表情も映し出された。ドラフト指名を受ける日までが自分の役目だから、と小学生時代から練習を共にしてきた。その特別な思いを言い表すのは簡単ではないだろう。ただ、巨人ファンでもあり、広陵高での3年間を親子で共有した広島の地に根付く市民球団にも愛着がある。赤いユニホームに袖を通し活躍した三次出身選手たちのことを思えば、その心境は複雑だったかもしれない。
明治大が用意した都内の会見場にはおよそ40のメディアが詰めかけていた。テレビカメラの前で、仙台での挑戦を決めた宗山塁が語り始めた。
「きょう、こうしてドラフトの日を無事迎えられ5球団の方々、そして東北楽天ゴールデンイーグルスの方々にここまで評価していただいたことをまず嬉しく思い、感謝の気持ちでいっぱいです」
「きょう、この日を迎えるために、ここまで野球を頑張ってきたので、その成果がまずはひとつ、こういう評価として表れたことは自分としても非常に良かったかなと思います」
「ですが、まだまだ学生野球も続いていきますし、スタートラインにまだ立ったばかりだと思うので、これからもっともっと自分の技も心も磨いていきたいなと思います」
流暢に自分の言葉で感謝の気持ちや今後について語る。その守備力、その打撃力、その野球脳と一緒で実にスマートな印象が強い。広陵高での3年間で中井哲之監督の話にしっかり耳を傾けた経験が大きいという。そして「開幕一軍」や「新人王」を目標に掲げた。さらには「やるからにはショート」にこだわると同時にプロでのハイレベルな競争を見据えて「出場機会を得るためにほかのポジション、の可能性はある」と客観的な見方も口にした。
ただ…
「ファンの方から愛される選手っていうのを目指していきたいな思いますし、試合に出続けられる息の長い選手になっていきたいというのはあるので、そこから日本代表のチームだったりとか、ほんとトップレベルのところでプレーし続ける選手を目指してやっていきたいなと思います」
…という意気込みを耳にすれば、やっぱり赤ヘルかぶって欲しかった…と思うファンや関係者はたくさんいそうだ。
1位指名で4球団が競合した金丸夢斗(関西大)は中日が引き当て、広島は外れ1位でサードを守る右のスラッガー佐々木泰(青学大)を単独指名した。
広島県東部、福山市に隣接する府中市の町並みを美しい夕焼けが照らす頃、中心地の大型集客施設内にある集客施設i-coreFUCHUに用意された大型モニター2台の前で歓声が上がった。
午後5時52分、ドラフト2位指名最初の西武の指名で「渡部聖弥・大阪商業大学」が告げられたから、だ。渡部聖弥は府中市内の小・中学校で野球をやり、広陵高に進んで宗山塁と同部屋で寮生活を過ごした。
佐々木泰を優先した広島とは縁がなかった渡部聖弥だったが、西武からはその走・守・攻のレベルの高さを評価された。
この日、大型商業施設二階に設けられたドラフト視聴特別会場は小・中時代を渡部聖弥とともにした地元有志らの手によって用意された。会場費や85インチの大型モニターレンタル料もかかるが、地元期待の星の大一番を前に黙ってこの日を迎えるわけにはいかなかった。
事前告知は簡単なポスターなどに止めていたが、予想より遥かに多い地元の人たちがやってきた。その中には府中町立南小学校でクラスメートだった、という女性もいた。「小1のころの思い出ですか?とてもやさしい男子でした」
府中市街地を見渡せる高台にある南小の校庭ではこの日も子供たちが運動する姿があった。渡部聖弥が同小学校の校庭でバットを振っていた当時は8つの地元少年チームがあったのに、児童数の減少に伴い今は4つに再編された。西武からの2位指名は野球を愛する子供たちへの大きなプレゼント…
南小学校の隣に、やはり渡部聖弥が3年間、勉強や野球と向き合った府中市立第一中学校もある。毎日、20分近く坂道を歩いて通い、その高台から見下ろす風景の中を芦田川が流れる。
西武からの指名について渡部聖弥はテレビカメラの前でこう話した。
「すごいドキドキしていて、呼ばれた瞬間ほっとしました」
「サードも外野も自信があるのでチームに求められるポジションで活躍したいと思っています」
そして「3拍子揃ったトリプルスリーを狙える選手」を目標に据えた。
三次の馬洗川とともに、子どものころボールを追いかけて走った河川敷の思い出が甦る。ふるさとの懐かしい風景を大切にその胸にしまって宗山塁と渡部聖弥のプロでの挑戦が始まろうとしている。
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