カープダイアリー第8561話「ユニコーン夢物語とリアルな世界の境界線…大谷翔平口座から約7億円を“盗んだ”ドジャース通訳解雇の衝撃」(2024年3月21日)

“MASSIVE THEFT”

現地時間20日付ニューヨークポスト紙面に印刷された大見出しを、大谷翔平と、長らく行動を共にしてきた水原一平通訳はどう訳すのか?

とんでもない規模での他人の財産に対する窃盗…

ワシントンポストも「野球界最大のスターに渦巻く驚愕のスキャンダル」のヘッドラインで記事を同20日早朝から配信した。

報道によれば、ロサンゼルス・ドジャースは違法賭博で巨額の借金を背負った水原氏を窃盗疑惑で解雇した、という。

折しもドジャースは韓国シリーズ真っただ中。日米韓のファンが注目する中での大事件は今回のアジア市場開拓イベントに大きな影を落とし、この日午後7時過ぎにソウル・コチョクスカイドームで始まったサンディエゴ・パドレス戦のドジャースベンチから水原氏の姿が消えていた。

この試合、日本球界の頂点にいた山本由伸が初回43球5失点でKOされたこともショックではあった。死球あり暴投ありでバックの守備のリズムまでも乱した。だが原因はそれだけか?

マウンド上で顔面蒼白の右腕を見つめる大谷翔平は、おそらく自分の横のスカスカな空間を砂を噛むような思いで感じていたはずだ。長年の話し相手がいない。10歳年上の“相棒”とは北海道日本ハムファイターズに入団した時期同じなら、海を渡ったのもいっしょ。しかし水原氏自身が告白した「ギャンブル依存症」が仇となり突如としてピリオドが打たれた。

日本国内にも様々なギャンブルが存在する。合法とされていても、のめり込んでしまえば人生は破滅する。

例えばカープのキャンプ地、宮崎県日南市。時代とともにその数は激減したが数10年前までの現地パチンコ店は大盛況!カープ関係者や選手も息抜きの場として休日には足を運んできた。

しかし地元でよくよく話を聞いてみると、せっかく漁で手にした収入をパチンコで湯水のごとく使うケース、家を守る家族もパチンコにのめり込むケースが多々あったという。県外資本が日南界隈に次々と出店してきたのも、その財布目当て、さ一緒に乗り込んできた大手キャッシング業者もしかり…

この散財ループにひとたびはまれば、待っているのは借金地獄。「店のトイレで首を吊っていたって話は聞きますね」(現地タクシー運転手の話)。たとえ最悪の結末を迎えても、この手の話はニュースにならない。

戦後の日本復興とともに活況の道を歩んできた公営ギャンブルの数々。また特殊な存在でもあるパチンコ産業はバブル期にその勢いを加速して、1995年には年間3000万以上の集客があったとされる。ちょうどガラケーが世に広まり始めた頃だ。ほどなくガラケーからiモードなどの画期的情報サービスが登場することとなり、それがスマホ全盛期へとつながっていく。

昭和から平成へ。通信・ネット事業の拡大・拡散に伴い、国内外のユーザーの興味・関心は“オンラインゲーム”の類へと移行した。昨今の大学生は、授業そっちのけでスマホゲームに傾倒し、大麻には手を出しても⁉パチンコはやらない。

次々とパチンコ店が街角から消えているのは、新たな顧客の供給網がストップしたためだ。地方などにいくと、品のないパチンコCMがテレビ・ラジオで垂れ流しされているが、あまり効果はなさそうだ。代わりにオンラインカジノなど、24時間ギャンブルKOの、新たなアリ地獄空間がぱっくりと口を開けて獲物を待っている。

水原氏は、その中のひとつ、「ドラフトキングス」にはまってしまったようだ。

「ドラフトキングス」は2012年、米国ボストンで設立されたモバイルアプリ企業。小規模ベンチャースタートだったが、投資家たちの注目を集め2013年にはメジャーリーグが投資して同企業の支援に乗り出した。現在は、ファンタジースポーツ(自分の知識で理想のチームを作り、リアルマネーで戦う)などのプラットホームとしては全米ナンバーワンの地位にある。
 
水原氏は多忙な日々を過ごす中、ドラゴンキングスが頭の中を占める割合が徐々に増えていったはずだ。そして2021年、大谷翔平がロサゼルス・エンゼルスの3年目で46本塁打、9勝を挙げたその偉業達成のシーズンと並行して、サンディエゴで違法ブックメーカーを運営するマシュー・ボウヤー氏と出会い、違法ギャンブルにのめり込んでいく。
 
アリ地獄だからもがくほどに谷間に落ちる。2022年末の時点でおよそ100万ドル、1億5100万円のマイナス計上。そして2023年9月には、とうとう大谷翔平の口座から50万ドル(7550万円)が業者側に電子送金された。その事実を米国スポーツ専門チャンネルESPNが今回報じている。
 
さらに10月にも同額が送金(ESPN確認済)され、一方でマシュー・ボウヤー氏側が連邦捜査当局から家宅捜査を受けて、パソコンなど関係資料から芋づる式に顧客の存在が明らかにされるという流れになった。
 
現地時間の3月19日夜(ソウルでのドジャースーパドレス開幕戦プレーボールのおよそ半日前のタイミング)、ESPNでは水原通訳にインタビュー(場所不明)を行い、その場ではこの件いついて“もう2度とギャンブルしない”ことを条件に大谷翔平が借金の肩代わりをしてくれたこと、しかもその送金をネット上で操作してくれたことを“告白”したこととなっていた。
 
ドジャースの広報担当も、当初はそうした事実を確認した上で、水原通訳をESPNに紹介して90分間のインタビューをさせたとされる。
 
しかし話はそこから一転する。広報担当はそれまでの説明を全否定。20日(日本時間21日)になって、大谷翔平の弁護士を務めるバーク・ブレトラー法律事務所の担当者の出番となり、最近になって大谷翔平が大規模な窃盗の被害者だったことが判明したので、捜査当局に問題を引き渡す、との声明を出したのである。その際、窃盗を働いた人物の特定はされなかったという。
 
一方のドジャース側は大谷翔平の銀行口座から業者に電子送金されていることに関して、メディア(おそらくESPNを指す)から質問されたことで水原氏を解雇した、とリリースして、即座に公式サイトなどから水原氏の存在を削除した。
 
大谷翔平を象徴する代名詞のひとつ、ユニコーン。どんな相手をも恐れぬ獰猛勇敢な一角獣のことであり、その角は毒をも無力化する力がある。ただ、時としてその角を獲物とは別のところに突き刺したがために身動き取れなくなる。また、美(少)女のそばにいる時にも、大人しくしていることが多いらしい。
 
新たな活躍の場に選んだドジャースとの契約は10年1015億円。ユニコーンの住む世界と同じような、その天文学的数字に行き着くまでの道のりを、誰よりも近くで見てきたのが水原氏だった。
 
だが大谷翔平はリアルな世界のキャラクターであって、ユニコーンのような不思議な角など持ち合わせてはいない。そして水原氏が抱え込み、大谷口座での帳消しが図られたとも言われる7億円近くの借金もまた紛れもなく現実の世界の話だ。
 
報道によれば水原氏の通訳としての稼ぎは日本円して4500万円から7600万円程度にも上る。それだけあれば自身の守備範囲で十分、娯楽費も賄える。
 
それなのに、どんな“難題”も突き通す「角」が身近にあると、どこかのタイミングで勘違いしてしまったのではないか?現実と非現実の世界の境界線は、生成AIの目覚ましい深化と進化に伴いますます見えにくくなっている。
 
そこを越えるという禁じ手を犯したその瞬間に、夢のような時間は終わりを告げ、同時に当局による捜査継続という厳しい現実のみが残された。報道によれば、大谷翔平自身にまで捜査(事情聴取)の手が伸びる可能性もあるという。
 

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