カープダイアリー第8338話「1点ビハインド九回無死一塁で野間センター返し、そういうマインドを持たせる新井カープっていうのが今年の強さじゃないですかね(黒田博樹アドバイザー)」(2023年8月4日)

二回にマットの2ランで先制して、三回に逆転され、そのあと両軍無得点。縁日ナイター開催中のマツダスタジアムは最後の最後でサマフェス状態になった。

九回、巨人のマウンドは5人目の中川。先頭の菊池がライト前に落として打席には野間。中継局広島テレビの放送ブースで試合の行方を見つめる“大御所”ふたりの言葉にも熱がこもった。

「はい、まず送ってくるでしょうね」(山本浩二さん)

「山本浩二さんのお話のように、どうやって同点にするか…」(実況アナ)

スタンドからは、あの調べが聞こえてきた。

「赤い心見せ 広島を燃やせ 空を打ち抜く 大アーチ」
 
中継カメラが抜く新井監督は何を考えているか読みづらい表情。サードコーチャーズボックスの赤松外野守備コーチは両手をせわしなく動かした。

「黒田さん、まさに1点を争うゲームでバントがその行方を決めるという…」

「そうですね、セオリーで行けばバントですけども…」(黒田博樹球団アドバイザー)

初球は野間の顔の前を通過した。「バントの構えを見せません…」(実況アナ)「ハハハ…」(山本浩二さん)「一気に逆転という感じなんでしょうかね…」(黒田博樹球団アドバイザー)

2ボール1ストライクから野間の一撃はセンター前へ。目の前を打球が通過した左腕は反射的に身をすくめた。サヨナラゲームの幕が上がった。

「さあ、今度はどう?」(山本浩二さん)「ここはバントでしょうね」(黒田博樹球団アドバイザー)

「絶対勝つぞカープ、絶対勝つぞカープ」

秋山の初球バントは1-5犠打野選となりわずか8球でノーアウト満塁。打席には上本…

野球とはよくできたスポーツで「流れ」が大きく勝負を左右するし、個々のプレーに関してはミスを取り返すチャンスがどこかでやってくる。

上本は三回の守りで一塁悪送球のタイムリーエラー。そのあと野村祐輔も踏ん張りきれず適時打されて試合をひっくり返された。

新井監督の父のような存在と、兄のような存在としてチームを俯瞰するふたりは、上本についてもこうコメントした。

「非常にがんばってますね。ただ四番っていうのがね、これはね、よく考えましたよ。普通四番っていうのはパワーヒッターかそういうイメージで四番に据えますけどよく上本四番にしたなと思って…。打順は関係ないって感じですよね、四番目ということでね。西川が離脱して(打順を)変えたくなかったというのがあるらしいんですけどね。その前に菊池が四番を打ちましたよね、ほかを変えたくないんでという形だと思うんですが、それにしても思い切った選択をしましたよね」(山本浩二さん)

「チャンスメークもできますし、足を使った攻撃もできますし、そういう意味ではオールマイティ、そういう選手が四番に座っている感じでしょうか」(黒田博樹球団アドバイザー)

九回、ノーアウト満塁のチャンス。一塁ベンチでは八、九回無失点投球の大道や六回を3人で片付けた中崎、さらには七回を抑えたターリーが一カ所に集まり上本の打席を見守っていた。5回自責ゼロの野村祐輔も、だ。

だが、現実はマンガのストーリーのようにはいかない。「こういうところでしっかりこういうパフォーマンスを出せる選手ですよね」(黒田博樹球団アドバイザー)という5連続ファウルのあと浅いレフトフライ。ベンチに戻る上本と入れ替わるようにネクストバッターズサークルに松山が入り、打席には小園…「1球で仕留めるつもりのバッティングが欲しいですね」(山本浩二さん)

初球打ちはライト前へ。「カープが追いつきました!初球を捉えたという小園、ミスショットはしませんでした」(実況アナ)

一塁で小園が両手を突き上げ、ベンチのスタンドも同じポーズになった。

「六番大道に替わりましてバッターは松山」

「代打では31打数の13安打、4割1分9厘」(実況アナ)

「これもいっしょなんですね、ひと振りの気持ちの方がいいですね」(山本浩二さん)

カーン!

「初球打ち!」

一二塁間の打球にファースト岡本和真が飛び込んでミットからボールがこぼれたあと、手につかなかった。「ホームに投げられない、カープサヨナラー……」

「これをファウルにしたりすると、ボール球を振るようになるんですね、見事ですねふたりとも…」(山本浩二さん)

「やっぱり野間選手の、あのセンター前ヒットっていうのは今年の新井カープを象徴するようなシーンで、本来ならあそこは…」「送ってくるよね」(山本浩二さん)「打てのサインが出ても進塁打の意識で引っ張りにいくんですけど、それを思い切ってセンターに返すっていう、そういうマインドを持たせる新井カープっていうのが今年の強さじゃないですかね」(黒田博樹球団アドバイザー)

ヒーロー松山はウォーターシャワーをめいっぱい浴びて、飛びついてきた菊池には蹴り?も入れられた。

すぐにベンチ裏へと入って行った原監督は宿舎でも真夏の悪夢にうなされるかもしれない。好投する横川を4回60球で下げてそのあと船迫、今村、鈴木康、高梨のリレーは8・8・7・7球しか要せず漏れのない展開になっていた。

勝利監督インタビューの新井監督は実り多き一戦をこう振り返った。

「ほんとによく打ってくれましたね。小園もそうですし最後松山さんも、はい。でも先頭のキクが出て、アキもしっかりと送ってくれてみんなで最後勝ったと思いますね」

-送らずに強気な采配。

「うん、あそこで送る選択肢もあったと思うんですけど、仮に送っても相手が中川君がいいピッチャーですから、送ったとしても(アウトカウントがひとつ増えて)選手が打つのを待つだけになるので、それがちょっと嫌だったので。野間はフォアボールも選べますし、あそこはもう野間に賭けました」

-中継ぎ陣が頑張りました。

「いやほんと、頑張ってくれましたね。強力な調子のいいジャイアンツ打線相手にほんとによく粘ってくれましたね。ザキもそうですし、特に大道もイニングを跨いでほんとによく投げてくれたと思います」

-打線ではデビッドソン。

「うん、ケガもだいぶん状態が良くなってきましたのですぐ結果を出してくれて頼もしいですね、ホームランっていいですね、ははは…」

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