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「俺が親なら根尾は…」サカナクション山口一郎の父とドラゴンズ談義

 人気バンド・サカナクションの山口一郎氏といえば、大の中日ドラゴンズファンとして知られている。とりわけ今年に入ってからは、ナゴヤ球場への広告掲出や在名ラジオ局での応援コーナー開始など“推し活”も精力的。その想いが結実しているようだ。

「(札幌の)円山球場で一度だけ、一郎を連れて観戦したな。確か鈴木孝政か、与田(剛)が投げとったはず。細かい事は覚えとらんけどね」

 実父・保(たもつ)さんの回想である。岐阜県飛騨地方の出身で、幼い頃からドラゴンズひと筋。今も毎日テレビやネット中継でドラゴンズ戦を観戦する。一郎氏はこの父親の影響でドラファンになったのだ。

「木彫工房 メリーゴーランド」は小樽駅から急坂を登った住宅街にある


 6月上旬、私は北海道小樽市にある保さんの木彫工房を訪ねた。「メリーゴーランド」と名付けられた真っ白の建物は、一郎氏の実家でもある。

 軽く挨拶をしつつ、事前にオーダーした家の表札を受け取る。我々の他に客はいない。意を決して「少しお話してもよろしいですか? 野球談義をしたくて」と切り出すと、保さんは「少しくらいなら、ええよ」と応じてくれた。なかなかない機会なので、本当に有り難い。色々教えを請う気持ちで、ドラゴンズの現状を聞いていった。

立浪監督の手腕はどう見る?

 まずは、監督1年目の立浪和義監督について。

「立浪監督はよう頑張っとると思うよ。若手を使うから面白い。星野(仙一)監督みたいに、我慢して使う人は使うわね。自分もそういう境遇だったのもあるのかな」

 指揮官はドラフト2位ルーキー・鵜飼航丞や、高卒3年目の岡林勇希を積極的に使いながら、近未来のチーム構築に苦心している。彼らを含めた若手については、こう語る。

「(二軍の)ナゴヤ球場では打てるのに、バンテリンドームでは打てなくなるのは何でなんだろうな。だからこそ、鵜飼はすごい。このまま一軍定着するんじゃないか」

 まさか、この直後に鵜飼が9打席連続三振を喫して、二軍でやり直すとは思わなかった……石川昂弥はいかがでしょう?

「石川は今はケガでいないけど、いずれレギュラーになる。断言する。広角に打てるのが魅力よね」

 はい、それは100%同意です!今回のケガが野球人生最後の長期離脱になることを祈るばかりだ。

「球団にお金がないのは分かってる。でも…」

 次に、チーム全体のことも聞いた。

「球団にお金がないのは分かってる。それでも選手たちには、年俸1億とはいかなくとも、頑張れば7~8千万稼げるようにはなってほしいわね。選手寿命は短いのだから」

 ドラゴンズが“持たざる者”になってから久しい。今季の平均年俸(3118万円)は12球団中10番目。セ・リーグでは最も低い数値だ。命を削り、魂を燃やしながらプレーするのはどこも同じで、頑張れば報われる世界であってほしいという願いにも聞こえた。

「選手もフロントも頑張って、また優勝争いする時期が戻ってくるといいですね」と水を向けると、「たまに優勝するくらいでいい」と返された。その真意とは。

「現状は選手層が厚くないし、無理して優勝すると、(翌年以降に)すぐ落ちるかも分からん。2位~3位を常にキープできるといいわね」

 1950年の2リーグ分裂後から、2000年代まではAクラスの常連。落合博満監督の時代には8年間で4度のリーグ優勝、53年ぶりの日本一も味わった。ただ、今は状況が違う。身の丈に合った方法論で強くなっていくといい、ということだろうか。

根尾への目線にハッとした

 そして、どうしても聞きたかったのは根尾昂のこと。

 話を伺ったときは野手登録でありながら投手起用も何度かされていて、二刀流をさせるべきか否か? という議論が盛んにされていた。同郷の若きスターについて、保さんの見解はどうだろうか。

「根尾はどっちつかず。俺は今の岡林のような活躍を見たかった。去年、たくさん使ってもらっても打てなかったのが良くなかったのかな」

 確かに、もっともな意見だ。投手・根尾については?

「投手をやるにしても、変化球を増やさないとな。150キロは今や誰でも投げるで」

 これについても、評論家を中心によく指摘される話だ。ただ、この後の発言が重かった。

「打つのは4年間やってこう(結果を残せなかった)だから、もう十分。俺が(根尾の)親ならもう一度大学に行かせたい」

 私はハッとした。「ああ、親目線だとそう思うんだな」と痛感。本人は野球の道を極めようと舵を切ったけれど、親としては別の道も用意してあげたい、という考えなのだろう。

 話を伺った約1週間後、根尾の投手転向が発表された。登板するたびに内容が良化し、ボールの質も上がっている。なにより根尾本人がマウンド上で躍動している。その姿を見て、保さんはどう思っているのか。また、折を見て小樽を訪ねる理由ができた。

「メリーゴーランド 」のテラスから見た小樽の風景。6月の小樽はカラッとした天候で気持ちよかったです

 最後に、休養中である一郎氏の快復を祈ります。

参考資料

「木彫工房 メリーゴーランド」webページ http://otaru-merry-go-round.com/index.html

『日刊スポーツ』今季の年俸調査結果 1位はソフトバンク、平均7002万円 最下位日本ハムと4185万円の差(2022年5月17日web版)
https://www.nikkansports.com/baseball/news/202205170000064.html

カバー写真について

「小樽運河プラザ」内のサカナクションに関する展示。月刊ドラゴンズも飾ってありました

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