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振り返れば俺がいる(90)音楽について(その32)28~30歳 モータウン

――前回は『スコラ 坂本龍一 音楽の学校』で、’60~’70年代のソウル、ファンクを知ったところまで、伺いました。ちなみに、この番組では、具体的にどのようなことがわかったのでしょうか。

「シンコペーション」というものを、この番組の「ドラムズ&ベース」の回で学びましたね。

簡単に言うと、リズムのズレのおもしろさですね。

――リズムのズレですか?

リズムというのは、弱い音と強い音で構成されているんですけど、音楽によって、このアクセントの付け方が違うんですね。

例えば、白人のやっていたカントリーでは、強い音が先にくるんですね。

ー弱ーー弱

というリズムで、アクセントが前にある感じです。

一方、ブラックミュージックでは、おもに強い音が後にくることが多いので、アクセントが後ろにあるですね。

弱ーー弱ー

しかも、リズムが微妙にズレていく感じがおもしろいんですよ。

――ドラムとベースはリズム隊ですが、それらの音がズレているということですか?

そうなんです。ドラムもベースもリズムをキープする役割があるので、一定の間隔で音を出しているようでいて、それぞれが互いにズレていて、それがブラックミュージックのリズムのおもしろさにつながっているんですよ。

――ドラムやベースはブラックミュージックの方が特徴的なんですね。

この番組で言われていて知ったのは、’60~’70年代のソウルやファンクのレコードでは、ボーカルと同じくらいベースの音が大きく鳴るように調整されているという話です。

それくらい、ブラックミュージックにとってベースもドラムも重要な要素だったんです。

白人のミュージシャンでも、リズムのおもしろいバンドは、大体、ブラックミュージックに影響を受けています。ビートルズしかり、ストーンズしかりですね。

――この番組を観て、さらにソウルやファンクに興味を持った、いっき82さんは、その後、どんな音楽を聴くようになったのですか。

ここから、私は何年かかけて、’60~’70年代のソウルやファンクを聴くようになっていきました。

ほとんどが『スコラ』で挙げられていた、細野さんや幸宏が影響を受けたアーティストです。

たくさんあるので、カテゴリーごとに紹介していきましょう。

まずは、モータウンからですね。

『Where Did Our Love Go』The Supremes(’64)

『Four Tops' Second Album』Four Tops(’65)

『Dance Party』Martha and the Vandellas(’65)

『Diana Ross Presents the Jackson 5』The Jackson 5(’69)

モータウンだけでも、結構あったので、ここで一回区切りましょう(^^;

’60年代のモータウンは、作曲家、演奏者、歌手がそれぞれチーム分けがされていて、その組み合わせを決めるのは、レコード会社でした。

このように、明確な区分けがされていたのは、創業者のベリー・ゴーディがモータウンを創業する前に、フォードの工場で働いていて、そこのパーフェクトな管理体制に感銘を受けたからだとされています。

――モータウンは車の工業地帯でもあったんですよね。そして、そこにあったフォードの工場の生産体制を音楽の制作に転用したのですね。

そうなんです。’60年代までは、そういった厳格な管理体制がモータウンの大きな特徴です。

そして、マイケルのデビューのきっかけになった、ジャクソン5もモータウンが発掘した逸材でした。この‘69年からモータウンの移転がはじまり、’72年には、モータウンの所在地がデトロイトからロサンゼルスに移転して、制作体制も大きく変わることになります。

――たくさんのスタジオミュージシャンが事前の告知もなしに解雇されたのは有名な話ですよね。

そうですね。彼らにとっては悲劇でした。

優秀なミュージシャンばかりだったのですが、モータウンも大きくなってきて、いろいろ変わってしまったのでしょうね。

そして、ここからは’70年代のモータウンの作品です。

『What’s Going On』Marvin Gaye(’71)

『Talking Book』Stevie Wonder(’72)

『Innervisions』Stevie Wonder(’73)

『Fullfillingness' First Finale』Stevie Wonder(’74)

ほぼ、スティーヴィーの作品ですが、この辺のアルバムは、音楽好きならば必聴のアルバムですね。特に、この時代のスティーヴィーは、作曲、演奏、歌、どれをとっても神がかっています。

モータウン的には、この辺からアーティストがセルフプロデュースをするようになったのが大きな変化ですね。

その先駆けとなったのが、マーヴィン・ゲイの『What' Going On』です。

マーヴィン自体は、’60年代からモータウンで歌手活動をしていた大スターでしたが、このアルバムではじめて自分のやりたい作品を作ったんですね。

――マーヴィン・ゲイは、どういった動機からセルフプロデュース作品を作りたいと思ったのでしょう?

弟が戦争に行っていたんです。ベトナム戦争の頃ですね。

戦争から帰ってきた弟から戦地での話を聴いたマーヴィンは、ものすごく心を痛めたんですね。それで、次の作品は「反戦」をテーマにした作品にしたいと思ったんですね。

――それまでのモータウンの曲はラブソングが中心だったんですよね?

そのとおりです。モータウンは誰もが共感できるようなラブソングをポップに歌い上げたからこそ、はじめて白人も楽しめるブラックミュージックになったんですよね。

そこへきて、社会的なテーマを掲げたアルバムを出すのは異例のことでした。きっと、最初は社内でも反対の声も大きかったんじゃないでしょうかね。

しかし、これが商業的にも見事に成功して、スティーヴィー・ワンダーもセルフプロデュースの作品を作ることができるようになったんですね。

この時代のソウルやファンクを聴くと、人種問題とか、戦争のこととか、いろんな勉強にもなりますよ。それを抜きにしても、音楽として最高におもしろいのですが。

ビートルズ、ストーンズ、YMO、ダフト・パンクにいたるまで、多くのアーティストに多大な影響を与えたのが、モータウンなんです。

(次回に続く)

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