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参議院『国民生活・経済に関する調査会』で海外ルーツの子どもの就学課題についてお話ししました。その時の資料とスピーチ原稿など。

参議院・国民生活・経済に関する調査会に参考人として出席しました。
調査会については、こちらのリンク https://www.sangiin.go.jp/japanese/kaigijoho/shitsugi/204/s805_0217.html をご参照いただければと思います。追って、議事録も公開されるかと思います。(いつになるか不明)

当日の様子:インターネット審議中継のアーカイブでご覧いただけます。
https://www.webtv.sangiin.go.jp/webtv/detail.php?sid=6141

さて。
この調査会が取り組んでいるテーマ、「誰もが安心できる社会の実現」のうち、困難を抱える人々への対応(外国人をめぐる課題)について、今回は私を含む3名の参考人が呼ばれました。

・「共生社会に向けた環境整備」についてNPO法人移住者と連帯する全国ネットワーク代表理事の連の鳥井一平さん
・「外国人労働者」について弁護士の指宿昭一さん
・私は「外国人の子供の就学問題」についてお話をさせていただきました。

委員会に参考人として出席することが最終確定してから当日まであまり時間がなかったのですが、せっかくの機会なので最新の子どもたちの状況や現場の声をお伝えしようと思い、各地で海外ルーツの子ども支援に携わっておられる支援者の方々、関係者の方々に急きょ、ヒアリングをさせていただき当日に臨みました。(急なお願いに快くご対応くださった皆様、本当にありがとうございました)

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(画像はインターネット審議中継の画面よりキャプチャしました)


5年ぶりに一言一句のスピーチ原稿書くくらい緊張。

ふだん、私は講演などで話す内容を事前に原稿にまとめることはほとんどありません。基本的に、海外ルーツの子どものことであればだいたいの数値だったり、言うべきことや言いたいことなどが頭の中にあり、一通りは何も見ないで話せるから。(この10年間、この問題にしか取り組んでこなかった・・・海外ルーツの子ども”オタク”とでも呼ぶべき私。)

でも今回は、さすがに、と思い立ってスピーチ原稿を作りました。せっかくヒアリングさせていただいた現場の声も、与えられた20分間の中でなんとか伝えたい!と思って。不安もあったし、緊張しすぎでソワソワしていたので、自分を落ち着かせる意味合いも含めて。

以前スピーチ原稿をここまできっちり作ったのは、資金調達に係る場面で人生初のピッチ(5分間の短いプレゼン)を、誰もが聞いたことがある会社の人たちの前ですることになった時だと思うから、たぶんかれこれ4~5年前とかかな。

もちろん当日は場の空気感とか、その場の流れとか含めてスピーチ原稿をそのまま読んだだけ、というわけではないのだけど。やっぱりちゃんと作っておいてよかったです。少なくとも今どんなことが必要か、はお伝え出来たと思う。

2019年文科省による「外国人の子供の就学状況等調査」では、不就学・不就学の可能性がある外国籍の子どもが約2万人(!)いることが明らかに。学齢期の子どもについて「学校に通っているかどうかすらわからない」という現状。避けては通れない問題なんだけど、単純に「学校に入れればいい」(≒学籍作ればいい)というだけでは解決に至らない。現場から見て、そのあたりもやもやしてたので、5つの発生要因に分けて、わかりやすくお伝えできるようにとあれこれ考えたりして作った資料とスピーチ原稿です。

当日、実際にスピーチをして、参議院議員の皆さんとの質疑応答を通して感じたこととか、なるほど!と思ったこととかいろいろあるのですが、このあたりを文章でまとめるための時間がないので、これについては何らかの形(配信イベントとか、clubhouseとか)で、お話しメインでお伝えできたら。

ということで、当日、議員の皆さんのお手元に配布した資料(pdf)と、私のスピーチ原稿(原文)をこちらに掲載しておきます。(長文ですが💦)

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(画像はインターネット審議中継の画面よりキャプチャしました)

(資料1ページ)義務教育化への言及

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お手元にあります、A4横長の配布資料をご覧ください。表紙にはSDG’sが掲げる「誰ひとり取り残さない」というメッセージを記載しました。私たち支援者が日常的に目の当たりにする、外国籍の子どもたちや海外にルーツを持つ子どもたちやその家族が日本社会の様々な場所で取り残されている現状を変えていくために、何が求められているのか。そんなことも併せて本日はお話しをさせていただきます。

私たちはこれまでに1,000人以上の子どもや若者をサポートしてきました。彼らが私たちの事業を利用する際に、必ず「今後、日本以外の国に暮らす予定はあるか」といったことを尋ねていますが、約97%のご家庭が、日本以外の国への移住は考えていないと回答しています。つまり子どもたちの多くが日本の中で基礎的な教育を受け、自立し、新たな家庭を築いていく、日本社会の子どもたちであると言えますが、こうした子どもたちが教育機会へのアクセスもままならず、じゅうぶんに学べない状況の中で成長している現状は、社会全体で考えて行く必要があることを、改めて強調いたします。

そのうえで、海外にルーツを持つ子どもたちに係る支援者・関係者からは、外国籍の子どもたちの教育をめぐる諸課題を解決し、学ぶ権利を真に保障してゆくためには義務教育の対象とすることが最も有効であるという意見が多数あることを、併せてお伝えしておきます。

(資料2ページ)地域間格差の是正について

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先ず、全体として海外にルーツを持つ子どもたちへの取り組みについては、外国人住民が多く集まって暮らしている自治体や地域と、外国人がゼロではないけれど、割合として1%に満たない自治体や地域との間に、様々な面で格差が存在しているという現状があります。資料には外国人集住地域と、外国人が少ない散在地域それぞれの特徴などを記載いたしましたのでご確認ください。

海外にルーツを持つ子どもたちは、日本人の子どもたち以上に、どの自治体、どの地域で生活しているかによって受けられる支援や環境が100となったり、ゼロとなっているような状況にあるのが現状です。

この傾向は様々な施策や取り組みが充実し始めている近年、より顕著になっていると感じます。海外にルーツを持つ子どもたちに関連する施策や取り組みを検討・推進していく際には、この自治体間格差、地域間格差をどのように是正していくのかといった視点や配慮を必須としてください。

(資料3ページ)文科省就学状況等調査結果について

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3ページに掲載の表は、文部科学省が令和2年3月に公開した「外国人の子供の就学状況等調査結果」の確定値より、私が作成したものです。すでにこの表の内容についてはご存じの方も多いかと思いますが、この調査によって義務教育年齢の外国籍の子供の内、不就学またはその可能性がある子供が約20,000人いるということが明らかとなりました。この数値の注意点については、資料に記載させいただきました。また、この調査では短期滞在の在留資格の子どもや非正規滞在の子どもなどは対象となっていないという点を付け加えておきたいと思います。

(資料4ページ)海外ルーツの子どもの就学問題発生要因別の整理①

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第1に、これは行政の課題となりますが、入学・編転入等の手続きに起因する不就学の発生です。就学の案内が多言語されていないこと、説明不足など、まだ対応できていない自治体があります。細かな状況は文科省の就学状況調査でも明らかとなっており、詳細はそちらをご参照いただければと思います。また、それに対する必要な施策については昨年2月のこの委員会において小島祥美先生が明らかにしてくださった通りです。

1点、私の方から付け加えさせていただきたいのは、小学校入学、中学校進学、自治体への転入手続き時の対応のみではカバーできない子どもたちの存在です。例えば保育園や幼稚園に就園していない未就園の家庭や、外国人コミュニティからも孤立しているような家庭の場合、誤解や情報不足などから就学案内が届いたとしても、手続きに至らないといったケースもあります。

こうした孤立リスクの高い家庭に対しては妊娠出産時や予防接種のタイミングなど、子育て上のタイムラインに沿って、保健、医療、福祉等の連携の下、家庭との社会的接点を生かした情報提供を粘り強く続けていくことが必要です。

2番目に、タイミングに起因して不就学となるケースがあります。資料にはよくある事例を記載しました。その中でも、特にお伝えしたいのが学校側の都合により「就学待機」となっているような状況です。具体的には、例えばその学年度の1月に来日した場合、年度終了間際なので4月まで待つようにと言われたり、運動会等の練習が始まってしまったため、それが終わってからにしてほしいと言われるなどのケースです。その対応が同じ自治体内にある学校であっても、学校ごとに異なってしまっている場合もあり、問題です。

少なくとも、就学を希望している場合においては、100%学籍を作り学校とのつながりやその責任を明確にするということが徹底されるよう、必要な体制や規定などの整備を促進していただくようお願いします。

3つ目は受け入れ体制の欠如に起因するものです。
事例として2つのケースを記載しました。上のケースは学校都合にも通じるところがありますが、外国人保護者が就学を希望し自治体の窓口へ行ったところ、「どこかで日本語を学んである程度できるようになってからまた来てほしい」と言われ就学手続きをしてもらえなかったといったケースです。

これについては、文科省も現在施策を拡充しているように学校内での日本語教育等の受け入れ体制の整備を一層促進していくことが重要です。

一方で、そのための人材や予算を常時確保できるような自治体は限られていることから、広域でICTを活用した遠隔教育機会の提供や通訳等制度の導入などより、学校の先生方にとっても「これがあれば受け入れできる」と感じることができるような、きめ細やかな受け入れ体制を整備していくことも視野に、施策を推進していただきたいと思います。

もうひとつは、外国人コミュニティ等の中で「日本の学校に入ると外国人はいじめられる」といった情報を耳にし、怖くなってしまい就学を見合わせたというような事例です。私たちのところにやってくる海外にルーツを持つ子どもたちも、その多くが学校の中でいじめを経験しています。その情報が、外国人コミュニティでまわった結果、就学させないという判断を引き起こします。

今後、共生社会の一員として生きていくために必要な態度や力を、マジョリティである「日本人の子ども」こそが身に着けていける機会を、学校教育の中で十分に設けていただくようお願いします。

(資料5ページ)海外ルーツの子どもの就学問題発生要因別の整理②

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4つ目に、移動やトラブルに起因する不就学の発生についてです。外国籍の子どもたちの中には、日本と外国との間を行ったり来たりする子どもたちがいます。その過程の中で、就学・転入のタイミングを逃し、学校に通わないままとなるケースがあります。これについては、出入国や転出入時の情報提供を徹底するなどの対応でリスクが低減されるのではないかと考えています。

もう一つのケースとしては学校側とトラブルとなり、除籍となる場合です。公立中学校に在籍していた外国籍のある生徒が、非行や家出などを繰り返し、中学校に出席しない時期が続きました。それに対し、学校と保護者との間のコミュニケーションがうまくいかず、中学校を「除籍」とされたケースです。また、中学3年に在籍する生徒の来日時期や出席状況等により、学校長の判断で卒業証書を出してもらえないといったケースもあります。

これらの対応も、学校単位、さらに言えば学校長によって対応が異なってしまうというのが現状です。少なくとも「属人的な判断」による対応格差を是正・防止するために、国や都道府県等による原則的な対応基準を定めること、研修による啓発・意識改革などの取り組みを推進していくことが重要です。

最後に5つ目となりますが、複合的困難に起因する不就学状況の発生です。これは例えば外国人保護者が精神疾患や、貧困やネグレクトによるもの、出身国社会の考え方の影響により保護者が「女子に教育は必要ない」と考えるようなケースを含みます。これらの困難を有する家庭の場合、いくつもの課題を複合的に抱えていることも少なくありません。

このような複合的困難による「不就学」の子どもたちは実は、私たちのような教育を中心とした支援団体にとっても容易に「発見」できない存在です。一方でこうした子どもたちこそ、社会から取り残された、真に支援を必要とする存在であり、社会全体で手を伸ばしていかなくてはない子どもです。

自治体による家庭訪問等の取り組みの実施に加え、地域住民による情報提供窓口を設置することや、啓発キャンペーンの展開なども、発見の目を増やすための取り組みが重要です。

さらに、複合的な困難に十分に対応していくために重要な点が教育と福祉の接合です。資料では「多文化ソーシャルワーカー」の導入・育成と記載しました。
 
外国人の子どもや家庭に対する十分な知識やノウハウを持ったソーシャルワーカーを積極的に育て、安定的に雇用し、その知見を蓄積していけるよう、必要な施策の創出と予算措置をお願いします。多文化ソーシャルワーカーの存在が、家庭・子ども・保護者の困難に適切に寄り添い、必要な専門性を持つ関係機関との連携を推進し、結果として子どもたちの学ぶ権利を保障することにつながります。

(資料6ページ)教育と就労の外側で

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こちらには、海外にルーツを持つ子どもたちのライフステージごとに、いくつかリスクの高い局面を記載しました。海外ルーツの乳幼児年齢子どもたちの未就園(あるいは不就園)率は、両親ともに日本人家庭と比べ1.6倍となるといった研究がある他、学齢期では不就学の可能性がある子どもに加え、海外にルーツを持つ子どもの不登校出現率の高さも全国の支援者間で指摘されているところです。

また、海外ルーツの子どもの高校進学率の低さは日本学術会議が昨年8月11日に公開した提言書などでも言及されています。例えば高校進学率が70%であったとした場合、端的に残る30%の生徒は進路未決定のまま中学校を卒業していることになります。その30%の子どもたちが卒業後、どこで何をしているのかについ、自治体が把握する術がない状況です。

この状況は、高校中退や高校を進路未決定で卒業した若者についても同様です。これら教育や就労の外側にいる海外ルーツの子どもたちに対して、義務教育年齢の子どもの場合はボランティア、NPOによる支援が存在するわけですが、セーフティネットとしての機能は限定的です。

また、15歳以上の若者の場合、日本人あるいは日本語がわかる若者については、厚生労働省による地域若者サポートステーションなどをはじめとした自立・就労、学びなおし当のセーフティネットが存在しています。一方で、海外にルーツを持つ若者や日本語がじゅうぶんでない若者にとって、これらのセーフティネットは機能していません。

(資料7ページ)多文化対応の推進について

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こうした課題を、今解決してゆくために今提案させていただきたいことが、7資料の7ページ目に記載しました、社会資源の多文化対応の推進です。ここで言及する「多文化対応」とは、外国人も裨益者であるという視点に基づいてお紺われる必要な配慮や方策のことと定義しています。

福祉や教育等の行政サービスや、子ども食堂やフリースクールといった民間による公益的活動について、これまで日本人を主たる対象者・受益者としていたところから、外国人も対象者の一部として位置づけて行き、既存の社会資源へのアクセスを確保してゆくことが重要です。

具体的な取り組みとしていくつか挙げていますが、保育士や幼稚園教諭、児童指導員や保健師など子供と家庭に係る資格取得者や実務者について、その養成課程や免許更新時に多文化対応スキル習得の研修を実施してください。

また、国や行政が委託事業等として公益活動団体などに発注する事業の内、子供や家庭に対する事業については、その受益者の多様性に配慮することを求め、通訳翻訳など配慮に必要な予算を計上できるようにすることなどを併せて行っていただきたいと思います。

(資料8ページ)新型コロナウィルスの子どもたちへの影響

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最後に、新型コロナウィルスの影響が海外にルーツを持つ子どもや家庭に及ぼす影響についてお話をさせていただきます。
資料は8ページをご覧ください。

まずは支援現場から見ても、明らかに外国人保護者の経済状況が悪化し、回復していません。特に労働条件通知書や給与明細書を出してもらえず、休業給付金ができなかったり、情報が多言語化されていても実際の申請行動が難しい家庭があることを各地の支援者から耳にしています。今は特に時期的に進学への影響を懸念します。

高校入試が各地で本番を迎えていますが、入学前に必要となる制服や学用品購入などの資金のめどが立たないまま、受験を迎える家庭もあります。日本人家庭にも通じる問題であり、中学3年生や高校3年生のいる家庭に対し、安心して進学できるよう緊急の支援が必要です。

また、コロナ禍の中で改めて私たち支援者が直面したのは、子どもたちの健康と安全上のリスクです。政府無認可の外国人学校等でまなぶ子どもについては、学校保健の対象外となっています。感染予防対策や健康管理の徹底などが運営者に一任されていて、クラスター発生時に行政が踏み込みづらいといった課題が指摘されています。

感染予防も含め、日本国内で学ぶ子どもたちの健康と安全確保の必要性を強く感じており、学校保健安全法の適用等、体制の整備について検討をお願いいたします。

最後に、新型コロナウィルスの感染拡大に伴い、海外にルーツを持つ子どもたちの学習支援機会が減少しています。昨年春の緊急事態宣言時には日本語や学習支援を行う団体の57%が活動休止となりました。その後も高齢ボランティアの感染リスクなどの理由から活動を再開していない団体もあります。子どもたちがいかなる事態におてもじゅうぶんに学ぶことができるよう、学校の中の体制整備に加え、地域の中の受け入れ体制についても、ボランティア任せにしないよう体制整備を推進していく必要性を感じています。

2018年を境に、海外にルーツを持つ子どもや外国人住民の存在の可視化が進み、子どもの日本語教育大事だよね、不就学は問題だよね、と理解を示してくれる方々も本当に増えています。

この変化の流れを逃さず、子どもたちが誰ひとり取り残されない環境を実現するために社会全体で歩んでいけるよう、ご協力をお願いいたします。

お読みくださり、ありがとうございます!みなさまからいただいた応援は、私たちがサポートする困窮・ひとり親世帯の海外ルーツの子ども・若者が、無償で専門家による日本語教育・学習支援を受けるための奨学金として大切に使わせていただきます!