あの夜

信頼できるはずの人に囲まれているのに、誰にも助けを求められなかった。自分で自分を守るためにもがいたあの夜のこと。自分のために、綴る。

私は、逃げたのだ。どうやってだったか覚えていないが、携帯電話を握りしめて、ひっそりとバルコニーに出た。友人に電話をした。自分でもよくわからないのだが、なんともへらへらとした口調で話したような気がする。さらに、その時の友人の言葉などなにも覚えていない。

私は、平静を装ってリビングに居座った。なに食わぬ顔でテレビを観た。しばらくすると、それはやってきた。私は避けた。その時何か言った気がする。それも曖昧である。リビングからぞろぞろと人が出ていく頃、私も仮の寝床に帰った、のだったか。寝たのか、寝ていないのか、覚えていない。

朝、それはやってきて、私の頭を撫でた。確実に、私は目覚めていた。寝たふりをした。

あの夜のこと、私はほとんど覚えていない。ある日ふっと抜け落ちてしまった。ある日突然思い出せなくなった。それなのに、私は今も夢を見るのだ。月に1度は確かに、それより多いことだって多々。夢の中で、私は逃げている。もうすでに逃げている。いつも周りに沢山人がいて、私だけが緊張している、怯えている夢。夢をみた日は具合が悪くなる。1日生きづらさが増すのである。何もかもに怯えつつ過ごさなければならなくなるからだ。

忘れていくことが怖い。あの夜はほんとはなくて、全部私の夢だったのではないかと思ってしまう。自分は強い被害妄想癖のある人間なのかと自己嫌悪する。怖い。忘れたいのだが、忘れられない。忘れることが正しいのか、これもわからない。

ああ、まただ。うまく言葉にならない。今日はこれで終わりとする。

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