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吉岡聖恵「まっさら」、HIROBA『OTOGIBANASHI』の「ステラ2021」で初タッグ! アレンジャー・トオミヨウさんに訊く ソロ活動から広がるいきものがかりの新たな可能性

2021年にリリースされた吉岡聖恵のソロ初のオリジナル楽曲「まっさら」、そして水野良樹が主宰するHIROBAの『OTOGIBANASHI」に収録された楽曲「ステラ2021」。この2曲のアレンジを手掛けたのが、近年のJ-POPシーンをリードし続けるトオミヨウさんだ。
これまで数多くのアーティストと関わってきたトオミさんの目に映った吉岡、水野の魅力とは?
それぞれの楽曲制作のポイントから今後のいきものがかりへの期待まで、存分に語ってもらった。

-吉岡さんのソロ初のオリジナル曲「まっさら」、水野さんが主宰するHIROBAの「ステラ2021」のアレンジを手掛けたトオミさんですが、いきものがかりのメンバーと曲を制作するのはこの2件が初めてだったんですよね。

はい。共通の知り合いがすごく多いんですよ。本間(昭光)さんや島田(昌典)さん、亀田(誠治)さんのようなプロデューサー陣であったり、サポートミュージシャンのみなさんやレーベルのディレクターさんであったり。人づてにいろいろな話は聞いていたので、お二人とちゃんとお会いしたことはなかったものの、何となく近くにいるような感覚はずっとありました。

-いきものがかりに対してどのような印象を持っていましたか?

「水野くんはすごくキャッチーな曲を書くなあ」というのがグループとしての最初の印象だったと思います。あと、かなり前の話ですが、音楽番組でご一緒したことが一度だけあったんですよ。僕は他のアーティストのバックで演奏していたんですけど、その時初めて聖恵さんの歌を生で聴いて「すごくいいなあ」と感じた記憶があります。

-そんななかで、今回いよいよ交わる機会がやってきたということですね。

「まっさら」は秦(基博)さんプロデュースの曲で、近年、僕が秦さんと一緒に制作をさせてもらっている流れで一緒にアレンジをすることになったんですけど、お話をいただいた時はすごく嬉しかったです。で、その少し後に「いきものがかりの水野さんからのオファーです」という連絡をいただいて。お二人とご一緒する機会が偶然続いたことにすごくびっくりしましたが、水野くんから直接指名されたのはやっぱり嬉しかったですね。

-ということは、先に着手したのは「まっさら」の方だったのでしょうか?

そうですね。「まっさら」のレコーディングの翌々日くらいに「ステラ2021」の打ち合わせがあって、その時初めて水野くんと会った記憶があるので。

-では、初めに「まっさら」についてお話を聞かせてください。アレンジを作るにあたって、どのようにイメージを膨らませていきましたか?

ソロの吉岡聖恵として曲を作るということは、いきものがかりとは違うことをやりたいんだろうなあと思ったし、聖恵さんも当然違うモードで来るだろうということで、秦さんとは「違うところを模索していこう」という姿勢で制作に臨みました。スタジオに入って、秦さんからの「ここをこうしたい」というオーダーに応えたり、僕の方でもいろいろと音を入れていったり、それに対して2人でジャッジしていったり……というふうに進めていきましたね。サウンドに関しては、ロック感、バンド感を前面に出して、特にこだわったのはドラムのニュアンスやサウンドの大きさで、そのあたりは細かくやりとりした記憶があります。

-制作の進め方としては、トオミさんと秦さんで作ったものを「こんな感じでどうでしょう?」と吉岡さんに渡して、修正の必要があれば戻ってきて……という感じでしょうか?

そうですね。だから僕は聖恵さんとは直接やりとりをしていないんですけど、聖恵さんと秦さんの信頼関係はすごく感じました。

-というと?

秦さんのモードが普段とは明らかに違っていたというか。すごく気合が入っていたんですよ。聖恵さんのソロ一発目の曲をどういう感じにしたらいいのか、秦さんはすごく考えていたと思うし、僕としてはそれをしっかり読み取るよう心掛けていました。あと、僕は歌詞には関わっていないんですけど、スタジオでお二人が歌詞についてやりとりしている様子をちらっと見た時、アーティストとプロデューサーの関係がしっかりできあがっているように感じられて。付き合いも長いそうですし、ミュージシャン同士、アーティスト同士お互いのことをすごくリスペクトしているんでしょうね。そういうふうに、2人の信頼関係を垣間見る瞬間が多かったです。

-おそらく、いきものがかりでの吉岡さんは、水野さんや山下さんの曲の世界観をしっかり届けようという歌い方をされていると思うんですよ。

はい、そうですね。

-だけど「まっさら」での吉岡さんの歌は、確かに吉岡さんだけど、いきものがかりの時とはまた違うように感じられて。

歌詞をご自身で書かれているから、「自分の歌を表現しよう」というようなモードがあったんじゃないかと思いますね。吉岡さんのボーカリストとしての突き抜けたすごさは僕ももちろん以前から感じていましたし、「まっさら」でもやっぱり聖恵さんの歌が真ん中にドンとありますが、歌詞には、その裏にある葛藤やちょっとした迷いが書かれていて。それがすごく面白いなあと思いましたし、僕はこの曲を聴いて「ここまでポップな声を持っているからこそ、抱えているものもあるんだろうな」と勝手にいろいろと想像しました。

-続いて、「ステラ2021」についても聞かせてください。「ステラ2021」は「OTOGIBANASHI」というプロジェクト内の楽曲ですが、このプロジェクトについて水野さんから話を聞いた時、トオミさんはどう思いましたか?

面白い企画だなあと思いましたし、すごく大変なことをやっているなあとも思いました。僕がオファーをいただいた時点では歌い手さんがまだ決まっていなかったんですけど、多分、作家さんにオファーして、アレンジャーを決めながら歌い手さんも決めていって……というパズルのようなことを水野くんはしていて。曲を書くだけではなく、プロデューサー的なこともするなんて、相当大変だろうなあと。

-それこそトオミさんは普段、プロデューサー的な仕事をされていますよね。例えば、アルバムの収録曲の編曲を行うだけでなく、そのアルバムをトータルでプロデュースするなど。

そうですね。逆に言うと、今回のプロジェクトに関しては水野くんに最終的なジャッジを任せられたので、僕はプレイヤーとして自由にやらせてもらえました。アレンジに関しても「生楽器っぽい方向で」というようなオファーはいただいたんですけど、細かい指示はなくて、どちらかというと「自由にやってほしい」という感じだったと思います。

-「ステラ2021」は同じヴァース(サビに至るまでの歌を伴った導入部分)が繰り返され、連なっていく構成ですよね。そのうえ7分もある大曲で、「最後まで飽きずに聴かせるにはどうしたらいいか」という視点で工夫する必要があったんじゃないかと思います。

そうなんですよね。同じヴァースが繰り返されるとはいえ、歌詞の物語はどんどん進んでいくから、同じセクションに戻る感じにはしない方がいいなと思ったし……「この繰り返しをどう見せればいいだろう?」というのは最初に曲を聴いた時から考えていました。これは水野くんにも話していないんですけど、実はこの曲には明確なリファレンスがあって。「ヨイトマケの唄」ってあるじゃないですか。あの曲も同じヴァースが繰り返される曲なんですけど、槇原(敬之)さんがカバーしているバージョンを聴いた時、繰り返しの中でドラマティックに盛り上がっていく感じが歌詞にリンクしていてすごくいいなあと思ったんです。それで今回「ステラ2021」のお話をいただいた時、「あ、あの感じをやってみよう」と「ヨイトマケ」を思い出して。上手くできたかは分からないですけど、自分なりにそれをやってみました。

-また、ピアノなど鍵盤楽器の演奏もトオミさんによるものだそうですね。

プレイヤーの立場で言うと、こういう曲ってめちゃくちゃ楽しいんですよ。自由度が高いし、バンド全体で盛り上がっていく感じ、高揚感もあって。アレンジの段階では「聴いている人が長く感じないように気をつけよう」ということを意識していましたけど、レコーディングの時はみんなで楽しみながらやれました。

-柄本佑さんの歌が入り、完成した曲を聴いた時、トオミさんはどう思いましたか?

めちゃくちゃいいなあと思いました。柄本さんは俳優さんなので、歌をずっと歌われている方ではないじゃないですか。自分が一番得意なことではないものを一生懸命やっている人の強さ、表現者としての想いのようなものが歌にすごく出ているなあと感じました。

-トオミさんから見た水野さんの魅力についても伺いたいです。

もともと「やわらかそうな人だな」というイメージを持っていたんですけど、実際に会ってみると、もっともっとやわらかくて。最初の打ち合わせの時、水野くんの事務所に伺ったんですけど、一人で伺ったこともあり、僕は少し緊張していたんです。だけど話し始めると、その緊張が一瞬で解けていったので、場をやわらげる空気を持っている人だなと思いました。だから、アレンジのやりとりをしていても、こっちから何かボールを投げたくなるような感じがある。水野くんはいきものがかりのメンバーだし、プレイヤーですけど、プロデューサーとしての資質をすごく感じました。今回の「OTOGIBANASHI」というプロジェクトでは、特にそういう部分が求められたでしょうし、存分に発揮されていたと思います。

-「まっさら」と「ステラ2021」の制作を通じて、トオミさん自身、発見や刺激は得られましたか?

聖恵さんや水野くんの人となりが感じられて、自分の中に何となくあったいきものがかりに対するイメージがより明確になって。やっぱり面白いグループだなあと思いましたね。あと、僕はEPICのアーティストとの関わりもたくさんあるんですけど、EPICを代表するアーティストであるいきものがかりとは一緒にお仕事をする機会がなかったので、バリバリと活躍している姿を後ろから見ているような感覚がずっとありました。だけどこのタイミングで聖恵さんと水野くんと一緒にお仕事できたので……「後ろからではなく、ようやく前から会えたなあ」という感覚があるんですよね。なので、すごく嬉しかったんです。

-そのうえで、「今後いきものがかりのこういう曲を聴いてみたい」というようなイメージはありますか?

「いきものがかりっぽくない曲」を歌ってみたら面白そうだなとは思いますね。水野くんって他のアーティストに曲提供もしているし、すごくいろいろな曲を書くじゃないですか。なので、いきものがかりでもいろいろな曲を聴いてみたいです。あと、僕は、最初に名前を挙げた本間さんや島田さんに亀田さん、そして田中(ユウスケ)さんに江口(亮)さんといった最強軍団でアルバムを制作している感じがすごくいいなあと思っていて。いきものがかりは昨年2人体制になったじゃないですか。その状態で今までのプロデューサー陣と組んだ時、どう変化するのかも楽しみですね。

【PROFILE】
アレンジャー/キーボードプレイヤー/プロデューサー
トオミヨウ

尾崎豊、浜田省吾らのプロデューサーとして知られる須藤晃を父に持ち、幼少期に習っていたピアノをきっかけに音楽の道へ。尾崎豊トリビュートアルバム『"BLUE" A TRIBUTE TO YUTAKA OZAKI』に収録された「15の夜」を尾崎裕哉と制作したことをきっかけに、槇原敬之から声が掛かり、アルバム『悲しみなんて何の役にも立たないと思っていた。』のストリングスアレンジ、ツアーサポートメンバーに抜擢された。そうして2007年頃からアレンジャー/プロデューサーとしての活動が本格化。あいみょん、菅田将暉、石崎ひゅーい、土岐麻子、槇原敬之、玉置浩二など、幅広いミュージシャンのアレンジ/プロデュースを手掛ける。また、Tomi Yo名義でソロ作品を発表し、グループ・Markov Chain Montecalroのメンバーとして活動するなど、自身でもアーティスト活動を行っている。

取材日 : 202201月 
取材/文 : 蜂須賀ちなみ (@_8suka) 
編集 : 龍輪剛 
企画 : MOAI inc.

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