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「ブルーバード」「ホタルノヒカリ」に続く三度のタッグ! アレンジャー・江口亮氏が語る「BAKU」

2月24日にリリースされるいきものがかり33枚目のシングル「BAKU」。
メジャーデビュー前からの付き合いとなるアレンジャーの江口亮氏に、制作の舞台裏から、聴く楽しさがグッとアップするこだわりのポイント、そして成長を続ける3人への熱い想いまで、余すところなく語ってもらった。

-最近のご活躍、拝見しています。ここ数年はかなりお忙しいのではないでしょうか。

40歳になり、自分が年齢的に一番上という現場が増えてきまして。最近はアレンジャーの仕事だけではなく、アーティストによっては、原盤制作ディレクター業務もやっているんですよ。どういう曲を作るのか、どの曲を録るのかなど、より幅広く携わる仕事が増えてきました。最近の仕事で言うと、崎山蒼志くんの「Heaven」はアレンジャーとして、LiSAの現場においてはディレクターのような仕事をさせてもらっています。


-いきものがかりとは、メジャーデビュー前からの付き合いですよね。

はい。アレンジャーというのは基本的にレコード会社から発注があります。僕は、いきものがかりがEPICレコードジャパン(以下、EPIC)からメジャーデビューすることに決まった段階で、当時のEPICのディレクターからお声掛けいただいて参加させてもらった感じですね。


-メジャーデビュー前のいきものがかりは3人ともまだ学生で、ディレクターにビシバシ鍛えられていたと伺っています。水野さんの著書『いきものがたり』には、江口さんについて「良き先輩、お兄さんのような存在」「心配して気にかけてくれたのか、ずいぶん優しくしてもらった」と書かれています。

当時は僕が名古屋から東京に車で通っていたので、3人を海老名まで送ったりしていたんですけど……確かに心配はしていましたね(笑)。だけどその頃から、「J-POPを担っていこう!」という気概が楽曲から感じられたのは覚えています。


-江口さんはこれまで、数々のいきものがかりの楽曲の編曲を担当されています。その中の一つ、2008年にリリースされた「ブルーバード」は、テレビ東京系アニメーション「NARUTO -ナルト- 疾風伝」のオープニングテーマに起用されたこともあり、国内にとどまらず海外でも非常に人気が高い楽曲となりました。Spotifyから発表された2020年年間チャート「海外で最も再生された国内アーティストの楽曲」でも、4位にランクインしています。12年経った今でもこれだけたくさんの人に聴かれているという状況は、当時は想像していなかったのでは?

まず、Spotifyのようなストリーミング配信サービスが出てくることすら当時は想像していなかったですね。それに、「海外でも日本のアニメが人気」という話を聞くようになったのもここ10年ぐらいなので。
Spotifyのその年間チャートでは、「海外で最も再生された国内アーティスト」でLiSAが1位を獲っていますし、「JAPAN EXPO」というイベントもあるように、今やアニメソングは日本の文化として受け入れられています。そんななかで、いきものがかりは10年以上前に「NARUTO -ナルト-」と出会っていて、「NARUTO -ナルト-」シリーズもいきものがかりの活動もこうして続いていて……というのは、やっぱり出会いの妙ですよね。
いきものがかりってメキシコでライブやったことありますか?

-まだないですね。

いや~、これ、メキシコに行ったらヤバいと思いますよ。「NARUTO -ナルト-」「BORUTO-ボルト-」シリーズで言うと、僕はBrian the Sunの「Lonely Go!」という曲のアレンジもしているんですけど、彼らがメキシコでライブをしたとき、すごい人気だったらしいです。


-そうなんですね。今やアーティスト自身が「どの土地でどの曲がよく聴かれているのか」を把握できる時代なので、ライブのセットリストを国ごとに変えてみるというのも面白いかもしれないですね。海外では「ブルーバード」に4番バッター的なポジションを与える、みたいな。

そうですね。それに、いきものがかりは4番バッターにできる曲をたくさん持ってますからね。海外に行くうえでは一番デカいパスポートになるのではないでしょうか。


-いきものがかりの新曲「BAKU」は、アニメ「BORUTO-ボルト- NARUTO NEXT GENERATIONS」のオープニングテーマとして現在オンエア中です。いきものがかりが「NARUTO -ナルト-」シリーズに曲提供するのは、「ブルーバード」「ホタルノヒカリ」に続き3度目で、3曲とも江口さんが編曲を担当されています。「ホタルノヒカリ」以降も江口さんがアレンジャーとして参加された楽曲はありましたが、それを踏まえてもいきものがかりとの制作は久しぶりですよね?

水野くんとは、2019年に藍井エイルさんの「今」という曲を一緒に作ったんですけど、いきものがかりとは6~7年ぶりになるのかな? その間には放牧もあったし、かなり久しぶりという感覚でした。


-水野さんから「BAKU」のデモを受け取ったときの印象は?

よりミュージシャンライクになってきたなあという印象はありました。「自分はこういうものが作りたい、こういうことがやりたい」という方向性をどんどん明確に伝えられるようになっているなあと。水野くんのデモは、昔はアコギと歌で作られていたんですけど、今はリズムトラックやピアノの音も入っている。音でもらうと、「あ、こういうふうにしたいのかな」というのがよく分かるんですよね。水野くんは、放牧期間中もたくさんの楽曲提供をしていて、自分たちのことを深く知っているわけではないディレクターと仕事をする機会も多かったと思います。その経験から、伝えるという面においてもスキルアップしていったのかもしれないですね。


-なるほど。アレンジはどのように考えていかれたのでしょうか?

「BORUTO-ボルト-」は少年向けのアニメで、いきものがかりは30代半ば。だけど、彼らだからこそ提案できるオープニングがあるんじゃないかなと考えました。その考えを元にリズムのベーシックを作っていたところ、ディレクターの岡田さんから「ブラスを入れよう」というオーダーをいただいて。イントロからブラスが印象的な曲になりましたが、実は最初からブラスありきで作っていたわけではないんです。


-ブラスを入れるにあたって、具体的な指示はあったのでしょうか?

「こういう感じのブラスを入れたい」というかなり明確な指示をいただきました。いきものがかりは、ブラスが入っている曲がそんなに多くないんですよね。だから僕自身も「面白そう!」と思って取り組めました。
あと、もう一つ興味深いところが、ブラスチームの人選です。ブラスを入れるという流れになったとき、僕が普段から弦のアレンジを頼んでいるEGクリエイションというチームに話を持って行ったんですよ。


-管編曲は、EGクリエイションの野々村昌樹さんですよね。

はい。その野々村くんが「ALIでサックスを吹いている萩原優さんに頼もうと思っているんですけど、どうですか?」と提案してくれました。
アレンジャーは、一緒にバンドをやるような感覚で、年の近いミュージシャンをレコーディング現場に呼ぶことが多いのですが、ベテランのミュージシャンではなく若いミュージシャンを呼ぶってのも、新しい道へと踏み出した今のいきものがかりにプラスになればなあ・・と思いました。
他にも、ドラムには諸石(和馬)くんに入ってもらっています。彼はShiggy Jr.というバンドをやっていたんですよ。ドラマーを彼にお願いした一つの理由として「キューブへの恩返し」的な裏テーマもありました(笑)。


-バンドメンバーが若手メインだからこそ、これだけ勢いのある音がするんですね。細かすぎて気づかれないかもしれない、だけど江口さんご自身がすごくこだわったというポイントがあれば、この機会に教えていただきたいです。

イントロとアウトロに「♪テレテテッテ― /テレテテッテ―/テーテテッ」というキメがあるじゃないですか。イントロとアウトロでは「♪テーテテッ」のリズムが微妙に違うので、そこは味わってほしいですね。……って、細かいな(笑)。
1曲を通して疾走しっぱなしだと疲れるので、「行ったあとには戻ってくる」という作りにしているのですが、その「行き」と「戻り」を均一のバランスにしない方がテンションが保たれてスリリングになるというか。そういうことを4分間やり続けている曲です。「BAKU」に限らず僕のアレンジする曲にはそういう要素があるからなのか、水野くんやライブのサポートメンバーの方からは「演奏しづらい!」というクレームがよく来ます(笑)。


-あはははは。吉岡さんのボーカルに対してはどう感じましたか?

出会った頃の聖恵ちゃんは、多分2人(水野と山下)が書いた歌を表現するのに必死だったと思うんですよ。だけど、ボーカルが運転手、歌が車だとしたら、車をしっかり乗りこなせるようになったうえに、ちゃんと主張もし始めたなあと。「これは私の歌だ!いきものがかりは私だ!」という感じがボーカルに表れていると思いました。


-1月18日に公開されたMVのコメント欄には多くの感想が寄せられていて、やはり外国語のコメントが多いなあという印象があります。制作にあたって、海外まで届く可能性について意識されましたか?

スカパラ(東京スカパラダイスオーケストラ)が中南米でかなり人気ですよね。そういうところに向けたら人気が出るかもしれないな・・?とは思います。……まあこれは、後付けですけど(笑)。そういえば、いきものがかりがYouTubeでフルサイズのMVを公開するようになったのって結構最近でしたよね?


-はい。2020年8月にこれまで制作されたMVが公開されました。

つまり、今回の「BAKU」は海外の人もリアルタイムで一緒に聴ける新曲だったと。他のアーティストと比べると(YouTubeでのMVフルサイズ公開が)遅かったかもしれませんが、みんな観たくて待っていたと思うし、ある意味このタイミングでよかったかもしれないですね。


-確かにそうですね。2月24日リリースのシングル「BAKU」のカップリングには、「ブルーバード」と「ホタルノヒカリ」のリマスター、そして「ブルーバード」のリミックスが収録されます。

リマスターはEPICさんの方で制作を進めていただいていて、先日音源を聴かせてもらいました。自画自賛になっちゃいますけど、「十数年ぶりに聴いてもカッコいいな」「そりゃあ聴かれるわ!」って思いましたね(笑)。リミックスは、斬新で面白かったです。全体的に、新しいいきものがかりが出ている作品ではないでしょうか。


-江口さんから見たメンバー3人の成長や変化、また15年前から変わらない部分について教えていただけますか。

まず、変わらないのは作品に向かう力。今回も「相変わらずすごい熱量だな」と感じることが多かったです。
「変わってきたのかな?」と思っているのは「立場」。彼らって、昭和から続くJ-POPの最後の担い手だと思うんですよ。フィジカル(CD)が170万枚売れていて、世の中を席巻する立場に立ったことがあって、しかもまだ30代半ばなので令和に入った今でも体力がバリバリある。そんな人たちって他にいないです。だから、これからの音楽業界を引っ張っていかないといけない。そういう先導としての役割を担っちゃったんだろうなあ、担わざるを得ない立場だったんだろうなあ、大変そうだなあ……と思っています。


-まさに水野さんがよく考えていることですね。

今の世界では、CDをちゃんと作ることよりも他の価値観――例えば、ストリーミングで1億回再生されること――を必要とする向きもあるかもしれません。高音質じゃなくても別にいい、という人のことも無視できない。だけど、いきものがかりは、これまでの音楽業界を作ってきたレジェンドから愛されて、その血をもらって、J-POPの担い手として守ってもらってきた。その恩恵を受けられた最後の存在だと思うんです。
だから、若い人たちがポンと提示した新しい音楽にただ乗っかるだけではなく、昔の良さも今の良さも分かったうえで進まなきゃいけない。その経験をもって新しい世界にどうアプローチしていくか、というかけ算をやっていかないといけない。レコード会社のような、以前からある音楽を作る組織の在り方も、彼らのアプローチ方次第で変わってくるんじゃないかとさえ思います。
そう考えると、すごく大きなものを背負っているなあと。その大変さは、一度世の中を席巻していく存在になった人じゃないと分からないものだと思います。
だから、僕としては「音楽」のことだったらいつでもサポートできるように、第一線で居続けようという気持ちがありますね。「彼らが走ってくれているんだから、こっちももっと頑張って走り続けないと!」と。だからこそ、いきものがかりの現場はとても緊張します。「ここでちゃんと成長した結果を見せたい」という想いがどうしても出ちゃうんですよね。


-今後のいきものがかりに期待していることはありますか?

これからも変わらず、どの世代にも届く曲を出し続けてほしい、ということですかね。僕には6歳の娘がいるんですけど、幼稚園で「笑顔」を唄ったらしいんです。小さなこどもから僕ら世代、さらにその上の世代にも愛される楽曲を作り続けてほしいです。


【PROFILE】
ミュージシャン/アレンジャー/プロデューサー
江口亮(えぐちりょう)

2003年、Stereo Fabrication of Youthのメンバーとして東芝EMIよりデビュー。2009年よりSchool Food Punishmentのプロデュースに携わる。同バンド解散後、2014年には、la la larksのメンバーとしてビクターエンタテインメント・フライングドッグよりデビュー。バンド活動を行いながらも、LiSA、ポルノグラフィティ、坂本真綾、さユりなど様々なアーティストのアレンジャー/プロデューサーとして活躍中。
いきものがかりとは、2005年リリースの「月とあたしと冷蔵庫」(インディーズ3rdアルバム『人生すごろくだべ。』収録曲)でサウンドプロデュースをして以来の仲。「ブルーバード」「ホタルノヒカリ」「気まぐれロマンティック」「夏空グラフィティ」「ハルウタ」など多数の曲の編曲を手掛ける。
https://twitter.com/RYO_EGC
取材日   : 202101月
文     : 蜂須賀ちなみ (@_8suka)
取材/編集 : 龍輪剛
企画    : MOAI inc.


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