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幸運は巡る!おかねの女神💖さきこさん〜税理士さきこさんの万華鏡的生き方のススメ〜第4話 さきこさんの恋愛物語~恋のパワーはキラキラ☆彡

#創作大賞2024 #オールカテゴリ部門 #キラキラ終活 #ハートのパワー

第4話 さきこさんの恋愛物語~恋のパワーはキラキラ☆彡

・恋したい!むかし乙女、今も心はおとめ?!

初恋は中学校時代、その人はスポーツマンだった。学校の帰り道に待ち伏せをして告白した。その返事はどうだったのだろうか。朧気な記憶しかない。
その時から数十年の時がながれ、彼と思いがけず再会した。その後のストーリーの展開はない。

大学時代、テニスコートで、にっこり笑った白い歯に恋した。でも、その恋は叶わず仕舞い。

姉の死が辛すぎて、当時傍にいてくれた人の手に縋りついた。両親と直接対面するのもできなくて、彼を盾としていた。愛があったのか?と聞かれると、愛は確かにあったと思う。

姉のことを考えると、悲しくて、苦しくて、死んでしまいたいと思っていた。それは、自分自身の生きづらさのせいだと思う。そんなさきこさんが母になってはいけなかったのだと後悔していた。その後、離婚。子どもたちには、迷惑をかけたと思っている。

しかしながら、生きているうちに恋したい!との願望があった。
けれど、シングルマザーとして二人の子どもを育てていたので、そんな余裕はなかった。
次男が、大学を卒業した年の3月31日には、ひとりで乾杯した。親としての役割はめでたく終了!かんぱーい!

・ひと夏の狂想曲、思いは、空回りの38日と2日

少し余裕ができた私に、恋の予感か。次の物語が始まった。
怒涛のような38日間であった。それは、ひと夏の狂想曲?狂騒曲
ひと夏の狂想曲~思いは、空回りの38日と2日

序章・・・「彼」を訪ねて、北の国へ

「彼っていいんじゃない?頭もいいし、私も好き!」という彼女の一言で、物語は幕を開けた。彼は、今は転勤で北の国に住んでおり、少しシニカルなところがあるが、日本最高峰の大学を卒業したキャリア官僚である。容姿は淡麗とまではいかないが、彼女の好みであり、彼に対して好意を抱いたのだった。

その一瞬が、ひと夏の狂想曲のプロローグとなった。

これから登場する人物は、ひと夏の狂想曲のコンダクター兼主役の「彼」、オーディエンスの私税理士のさきこさんと友人のフーさん・フーさんの夫は東欧の出身。そして、まいちゃん。まいちゃんは、ゆるキャラ着ぐるみで、ひと夏の狂想曲のもう一人の主役。
 
ゆるキャラ(ゆるキャラクター)は、日本で地域振興や観光促進を目的として作られた、親しみやすいデザインのキャラクターのことを指します。彼らは地方自治体や企業などが地域の魅力や特産品を広めるために活用しています。この当時は、ゆるキャラ選手権などもあり、盛り上がっていた。
この物語の背景には、ゆるキャラを地域に活性化の可能性を信じ、行動する「彼」とまいちゃんという存在がいる。まいちゃんはゆるキャラではあるが、その中身はある女性である。
 
「ゆるキャラロイスさん」は、ある地方都市のゆるキャラである。故郷は、東欧の国。日本に来日したときはロイス中佐、そして、その後在日中に大佐に昇進している。
東欧の国との交流を目的として設立した交流協会があり、その協会のイベントでの講演のため、その東欧の国の日本大使館の大使が地方都市を訪れている。
日本においては東欧の国における国立のオペラ団との交流を続ける活動が続いている。
 

第一楽章

20××年6月17日・・・北の国にて、「彼」と再会

二人は早速、空の人となった。二人の住む町から直行便が出ていたものの、乗る予定だった飛行機が機材故障を起こし、別の航空会社の飛行機に変更となった。一時間遅れで北の国に到着。このトラブルは、これから起こる狂信的な出来事を暗示していたのかもしれない。しかし、このときの二人には予想することなどできなかった。

到着後、二人はまず北の国の有名なビール園に向かい、空腹とのどの渇きを癒した。外は雨模様で、嵐の予感が漂っていた。ビール園では、ビール会社が国策であることや、レトロなポスターに感心し、「限定」という誘い文句に惹かれて開拓史ビールを満喫した。

北の国で、旧東欧出身のヤナさんと出会う。彼女は北の国の大学で教鞭をとり、日本人の夫と子どもたちと共に暮らしている。日本に住んで20年になる彼女は、東欧からオペラを招致する活動を実行委員会方式で行っており、その活動は今年で10年目を迎えていた。東欧の小さな国のオペラは非常に魅力的で、多くのファンがいる。

実行委員会のメンバーはおおらかで気持ちの良い人たちであった。北の国は壮大で、個人が保存している蒸気機関車が十数台あり、栄華を誇った頃の名残が感じられた。実行委員の中にはその町の人もいて、話が盛り上がり、スケールの違いを感じさせた。遺したいものが地域にはたくさんある。失ってしまえば取り返せない。けれど、現実問題として誰がそれを担うのか、資金はどうするのかという課題があった。

そんな中、彼は救世主がいると言った。それは何なのか、何を意味するのか?
それは、徐々に明らかになるが、「ゆるキャラまいちゃん」の活用による活性化策のことを意味していた。
ひと夏の狂想曲が本格的に始まろうとしていた。もう誰にも止めることはできなかった。

オペラを上演することは、いずれ二人の地元でも開催できそうだった。実行委員会の彼女たちとの出会いには、これからの可能性を感じさせた。
食事を共にし、交流を深めた後、二人はホテルに戻った。そこには彼も一緒であり、ここから「まいちゃん」の物語が始まる。

まいちゃんはゆるキャラか、少なくとも人ではない。何とか表現するのであれば、着ぐるみを着たひとである。それも普通の若い女の子で、話もできる。しかし、顔は作り物であるため、瞳は閉じることがなく、常に開いている。彼女はその開いたままの瞳で何を見つめ続けるのだろうか。
一方、彼は、この「まいちゃん」効果に大いに期待をし、彼が「まいちゃん」のことを話すときに、口角は泡を吹いていた。しかし、その夜、話はとりあえず入り口で終わった。夜の帳が下りる中、彼は自宅へと戻っていった。そのときの二人にはその後の長い狂想曲を想像することはできなかった。

二人の部屋は十分な広さがあり、眺めの良い位置にあった。北の町の夜景は美しく、二人の心に深く刻まれた。

20××年6月18日・・・「彼」に北の国を案内してもらう

翌朝、彼は車で迎えに来た。茹でたアスパラガスを差し出しながら、「新鮮ではない」と言い訳を付け加えた。二人は昨日ビール園で食べた新鮮なアスパラガスを思い出しながら、一つだけ口にした。

車中で飛び交った言葉の数は数えきれないほどだった。私はその瞬間、言葉がきら星のごとく輝いていると感じた。もしかしたら彼に対して脈があるのかもしれないと期待を抱くほど、心地よい旋律のような会話だった。

最初に着いたのは、運河とガラスの町。人力車、運河、お土産、海鮮、地ビールと、魅力が山のように詰まっていた。彼の笑顔もそこにあった。「太陽に吠えろ」のロケに使われた倉庫、蛇行する運河、廃線になった線路、楊貴妃が愛した昆布、鯱が乗った巨大な倉庫、そして往時を偲ばせる煉瓦の建物。楽しい時間があっという間に過ぎ去った。

人力車の車夫は北の町出身で、普段は京の都で働いているとのこと。会話も楽しく、短い旅を終えた。観光を楽しむには、現地のストーリーを語るガイドが重要だと感じた。

次に向かったのは、今回の目的地である有名な動物園。動物園は想像していたよりも狭く、少し拍子抜けしたが、動物たちの見せ方は興味深かった。到着が遅かったため、多くの動物を見逃してしまった。

前日にビール園でエゾ鹿を食べたことを思い出し、目の前には仲の良さそうなエゾ鹿のファミリーがいた。少し感傷的になりながらも「エゾ鹿、おいしかったよね」と話す二人。昨今エゾ鹿が増え過ぎ、それが問題となっていた。

絶滅危惧種を守る一方で、増え過ぎたら食用にする人間のエゴを感じつつ、彼が撮っている動画を見て「動画だね」と声をかけると、彼はすぐさま怒っていた。私の声が動画に入ってしまうことに嫌気が差していたのだと思う。しかし、些細なことに苛立つ彼の姿が、私の心に小さな違和感を残した。

カバを見ていた時、彼は「下でも見れる」と言ったので、下から覗こうとしたら、実際には下の階からのことだった。私が「ひどい」と冗談で叩くと、彼は声を荒げた。彼の行動に対する過剰反応が、二人にはさらなる違和感を与えた。この時、彼の極端とも言えるこだわりに気づいていれば、狂想曲は始まりもしなかっただろう。

北の国の空港には、彼が尊敬する「ゆるキャラロイスさん」のモデルとなったロイス大佐の銅像がある。この時点では、彼は中佐から大佐に昇進していた。時間がないにもかかわらず、彼には見ないという選択肢はなかった。お土産についても、地元ならではのものを買うように執拗に言われた。

話題の進撃の巨人のグッズを二人が見逃したことを、彼は自慢げに、そして皮肉を込めて話した。この時にもこの狂想曲の終焉のチャンスはあった。

その日の宿は有名な山奥の温泉ホテルで、到着はなんと夜の8時過ぎだった。この時点で二人は今回の旅の計画の無謀さをようやく思い知らされた。北の国は壮大であり、移動には多くの時間が必要なのだ。それなのに・・・その配慮もなく疾走していた。

夕食は9時までという時間制限があった。そのため着いた途端に温泉に浸かることもなく、慌ただしく食事をとった。夕食はバイキングで、飛び交う言葉は中国語、台湾語、韓国語。後で聞くと、宿は台湾人観光客で持っているらしい。もしかしたら、日本人は私たち二人だけだったのかもしれない。北の国の温泉ホテルは、外国人観光客で大いに賑わっていた。そのホテルは、雄大な自然に囲まれ、四季折々の美しい風景が訪れる者の目を楽しませていた。
外国人たちはその壮大な景色に感動していた。日本の温泉文化に触れることで、彼らの旅行体験がさらに豊かになることを期待しているようだった。
 
温泉に浸かる外国人たちの姿も見られた。彼らは温泉の効能を堪能しながら、自国の文化とは異なる日本の風習に興味津々だった。壁には温泉の入り方が英語で表示されていた。北の国の温泉ホテルは、温泉は源泉掛け流しであり、外国人観光客にとっても特別な場所であり、異文化交流が日常化していることが感じられる素晴らしい場所だった。

一方、私たち二人にとっても、そんなことで感慨に浸っている時間もなかった。
部屋は広く、ゆったりと過ごせる筈であった。
その夜は、ホテルの近くの川音が響いており、雨音かとも紛うような激しい音であった。この激しさはこれからの日々を予測させるものであったが、二人は長旅の疲れと彼の異様なパワーに圧倒され、すぐに眠りに落ちた。

20××年6月19日・・・北の国から日常にもどる

彼の指示には従わず、私たちは列車で次の目的地へ向かった。彼の指示通りに動かず、さらには話をよく聞いていないこともあり、何度も責められた。しかし、この時点ではそれも親しくなった証だと勘違いしていた。

ホテルから駅までは想定外に遠く、公共交通機関がある訳もなかった。バスの送迎だけが頼りであるが、その送迎があるかないか、で、ホテルのフロントではひと騒ぎはあったが、何とか駅まで送ってもらえた。車中から見た景色は素晴らしく壮大であり、野生のエゾ鹿を見ることができた。切り立った岩がとても美しかったが、二度と訪れることはないだろうと思った。それでも次回は早起きして散歩でもしようと思いつつ、空港へと移動した。

彼は、昨夜遅くに食事も取らず、4時間の道のりを帰っていった。この異常なまでの行動力、こだわりが常軌を逸していることに気がつくのが遅すぎたのだった。

空港では、出発まで時間があったのでスカイパークで楽しんだ。いろんなイベントやコンテンツがあり、とても楽しく、童心に帰ったようだった。帰りの飛行機では、未だに彼に対する期待で胸を膨らませた乙女満載の夢見る私がいた。LINEのメッセージが届き、いつものように少し皮肉を含んだ文字列までもこの時点では、好ましく感じられた。

あのときに戻れるなら、狂想曲を聴かずに済んだかもしれない。ひと夏の狂想曲第一楽章はすでに始まっており、次の楽章へと進んでいた。

第二楽章・・・「彼」との出会いからの盛り上がり、狂騒へ

非日常の旅から日常に戻ったつもりだったが、それは全くの錯覚だった。彼に火をつけたのは私たち二人。そして、さらに油を注いで燃え盛らせたのは私だった。思えば、きっかけは、あるお茶会だった。まさか彼にお茶の心得があるとは知らなかった。お茶会で同席し、お正客の席に着かされたことから始まった不可思議な縁(えにし)であった。
税理士のさきこは、日々の業務に追われながらも誠実にクライアントと向き合っていた。彼女の生活は数字と書類に囲まれて、いつも仕事に追われていた。しかし、ある日、友人の美香さんと「彼」に誘われて参加したお茶会で、思いがけない出来事が彼女を待ち受けていた。

その日は春の陽気な日で、さきこさんは友人の美香さんと彼、そして他の参加者たちとともに茶室に集まっていた。彼女はお茶を嗜む程度の知識しかなく、特に深く学んだことはなかったため、お茶会ではただ座っていればいいと思っていた。

お茶会が始まり、茶室の静謐な空気の中で参加者たちはそれぞれの席に座った。茶道教室の主宰者がいつも通りお正客の席に座るものだとさきこは思っていたが、突然、「彼」が立ち上がり、にやりと笑いながらさきこをその席に押し上げた。

「さきこさん、今日は君がお正客だよ。」彼は悪戯っぽく言った。

「えっ、そんな…無理よ!私、お正客なんてできる訳ないわ!」さきこさんは驚き、焦りの色を隠せなかった。しかし、彼はにやにやと笑みを浮かべたまま、さきこを席に座らせた。

「大丈夫、大丈夫。ただ座って、お茶を受け取って飲むだけだから。」彼はあっさりと言ったが、さきこは全く安心できなかった。

さきこさんはお茶室の上の席、お正客の席に座らされ、周囲の視線を感じながら心臓がドキドキと高鳴るのを感じた。茶道具が整然と並び、茶室には静謐な空気が漂っていた。亭主が登場し、さきこさんに一礼をする。

「今日はご参加いただきありがとうございます。どうぞ、お茶をお楽しみください。」亭主は丁寧に言った。

さきこは何とか微笑み返し、目の前で繰り広げられる茶道の所作に目を奪われた。全てが静かで優雅で、しかしその中に緊張感が漂っている。彼女は必死に正座を保ちながら、心の中で「どうか失敗しませんように」と祈っていた。

お茶が点てられる音、茶筅のかすかな響き、全てが新鮮だった。やがて、さきこさんの前に一碗のお茶が差し出された。彼女は深呼吸をして、心を落ち着けることにした。これが自分の番だ。

「お先に失礼いたします。」さきこさんは緊張しながらも、他の人たちの所作を思い出しながら言葉を口にした。一口口に含むと、その抹茶の深い味わいが口の中に広がった。さきこさんは驚いた。今まで経験したことのない風味が広がり、その瞬間、緊張が少し和らいだ。

しかし、ここで終わらなかった。次は茶碗を返す時だ。彼女は茶碗を持ち上げ、返し方を考えていると、手が滑りそうになった。慌てて持ち直し、どうにか返すことができたが、内心では冷や汗をかいていた。
さらには、お茶道具、設え、お茶名、お菓子のことなどを亭主にお聞きしなくてはないない。さきこさんは何とかお茶会を乗り切ったが、心の中では「もう二度とお正客なんて無理!」と思っていた。しかし、周囲の人々はその頑張りを微笑ましく見守り、彼女の勇気を称えた。

お茶会が終わった後、美香さんが言った。「さきこさん、すごく良かったよ!初めてなのに、ちゃんとできてたし。やっぱり、税理士の冷静さが役に立ったんじゃない?」

そして、「彼」は笑いながら付け加えた。「いやぁ、さきこさんの奮闘ぶりが面白かったな。でも、本当に頑張ってたよ。次はもっとリラックスして楽しめるんじゃない?」

さきこさんは苦笑しながら答えた。「もう二度とお正客はごめんだけど、少しだけお茶の世界がわかった気がするわ。」そして、彼女は少しずつ茶道の世界に興味を持ち始めたのだった。お茶会のドタバタ劇は、彼女にとって新しい扉を開くきっかけとなったのだ。それが、「彼」に対して、好感を持つきかっけとなった。

日常に戻ってからの毎日、「彼」からの夥しい数の発信・・・。
それは刺激的でもあり、面白くもあった。「まいちゃん」は人間なのか?ゆるキャラなのか?着ぐるみなのか?「まいちゃん」を通して、もっと人と人、地域が広がる可能性があるのか?つながることができるのか?発信力があるのか?そんな疑問に答えを見つけ出せないまま、怒涛のように巻き込まれていった。

たくさんのLINE、長い電話、遅い時間の会話。何かを問い掛けたら返ってくる答え。そんな暮らしを忘れていた。
東欧の国、ゆるキャラロイスさん、ガタケット、お茶、日本画、落語、篠笛、総踊り、浴衣、結婚式、エトセトラ。今後の可能性は無限大のように思えた。
最初は刺激的で興味深かったが、すぐに辟易していた。彼の行動は勝手すぎて、疲れをしらずパワフルすぎた。眠ることなく何時間でも話せるなんてナポレオン並みなのか?私は眠くなり、寝ると言って電話を切った。そんな繰り返しの中で私は疲弊していった。

彼とは共感できない。それでも、つながることができるのか?ほんとうに?それが現実になる日が来た。

さきこさんのオフィスの2階にあるホワイトボードは、彼の声が電話口から流れる度に、次々と埋められていった。その白い板面には、書き留められた言葉が羅列され、時間が経つにつれて次第に密度を増していく。彼の指示や要望、急な変更、そして時には緊急の対応が求められる事態に対する戦略が、一つ一つ文字によって刻み込まれていく。
 
深夜の静寂の中、彼の指示は絶え間なく電話を通じて届けられる。時には緊急性を要する案件に追われ、寝る間も惜しんで作業が続けられる。彼の声が絶えることなく響き渡り、そのたびにホワイトボードは新たな言葉で埋められていく。
 
しかし、ホワイトボードが一杯になったとしても、それだけでは足りない。裏面も、時には机や壁にも、彼の言葉が書き留められる。彼の指示は限りなく多く、それらをすべて処理するためには、時間を忘れて努力しなければならない。
 
常人には到底理解できないような、彼の仕事への執着心や責任感が、その日々を支配していた。深夜の時間が過ぎ、朝が訪れる頃には、事務所の2階には彼の汗と努力の跡が残されている。
 
彼の考えによれば、「まいちゃん」というゆるキャラは地域に貢献するはずだと信じていた。彼は周囲を元気づけ、何かを伝えることができる存在であると確信していた。しかし、実際に目の前に立つ「まいちゃん」の姿は、彼の期待とは異なるものだった。
 
「まいちゃん」の姿は、何も物語らない。その大きな瞳は虚空を見つめ、何かを伝えようとしているようには見えない。ゆるキャラとしての役割を果たすためには、もっと活気や表情の豊かさが求められるのではないかと彼は感じた。
 
彼の考えと実際の「まいちゃん」の姿とのギャップに、さきこさんは戸惑いを覚える。彼は「まいちゃん」の持つ可能性を信じつつも、その実現に向けて努力し続けることに疑問を持ったことはないだろう。
 
その前々日。

第三楽章・・・「彼」がまいちゃんとともに現れる

20××年7月11日・・・まいちゃん出動

地元の大学、ある研究部の部会にて。登場人物は、「まいちゃん」、男子学生二人、女子学生一人、そして私。そして、LINEの彼と彼女。「まいちゃん」は表情も変えずそこに存在していた。LINEの二人は声高に叫んでいた。隣の部屋、研究部の部会から怒号が聞こえてきた。何かがあったのだろうか。

そんな中、私は耐え切れずスマホのスイッチを切った。「電波が悪くてごめんなさい」とだけトークを送る。疲れ切って家路に着き、これから先のことを憂えながら、その前日を振り返った。

20××年7月12日・・・交流会前日

ゆるキャラロイスさんを借りに行くために、着ぐるみ申請書を提出する。やはりゆるキャラロイスさんは着ぐるみだった。説明書には着ぐるみ、ゆるキャラロイスさんの動かし方が記載されていた。ただの着ぐるみだと分かると、当たり前のこと、了解済みのこととはいえ少しがっかりした。

翌日のために借りた会場には、会場の責任者というお目付け役がいることが分かった。苦虫を噛み潰したような表情で、苦情の電話を受けていた。その姿は苦々しく立ちはだかり、「苦」のつくことにはいいことがないと改めて感じた。

夜は予行練習をした。意外にも「まいちゃん」を楽しいという関係者の言葉に、何とかなるかもしれないと希望が湧いた。ゆるキャラロイスさんの充電器は重く、扱いが大変そうだった。

20××年7月13日・・・交流会当日

大切な交流会の日であった。そして忘れることができない日となった。本当は記念すべき日になる予定だった。朝早く、学生が三人でやってきた。ゆるキャラロイスさんは面白げにやり遂げていた。「まいちゃん」も何とかなりそうで、意気揚々となるはずだった。

しかし、最初のつまずきは撮影機材だった。機材の確認手配を忘れていた。急いでカメラの開店時間を確認し、購入することにした。どうなることか、この先の波乱が予想された。

次に、待ち合わせた井沢氏が行方不明になった。井沢氏の講演を待ちわびる多数の人々に、どう収拾すべきか冷や汗が流れた。
 
そうした中、講演会の開始時間が迫ってくる中、正しい場所を確認することができるのか、参加者たちは不安を募らせていた。果たして、この波乱の中で交流会は無事に開催されるのか、その行方に多くの期待と不安が渦巻いていた。
何とか間に合ったが、ほっと一安心する暇もなく、精も根も尽きそうだった。しかし、二人の主催するイベントはまだ始まったばかりだった。

講演は思ったより好評で、その後のまいちゃんの登場はどんな効果があるのか理解できないまま、ただ流れに身を任せた。その流れは激流となっていった。

懇親会の会場に向かうバスの中、人は自分の口がかわいい。お腹もペコペコで、喉も渇いていた。やはり、待っていられない。「ふっー、これもまいちゃんのせい?」と思いながら、若い女の子たちは誰かを待たせても平気なのだと感じた。

バスの中の喧騒、ざわめき、胃袋と喉の渇き。東欧に関するお話、どこにある国なのか。フーさんとフーさんの夫との縁がなければ、つながれなかった。出会うことのなかった人々。

懇親会会場のキャンプスペースは、広大な敷地に、個性ある威風堂々とした社長が迎えてくれる。バーベキュー協会のイケメン紳士たちが美味しい料理とワインを提供してくれる。笑顔満開のひとときだった。

しかし、来年からは午後からの開催に、そして限定人数に、さらに現地集合にするとのこと。帰りのバスでは、飲み尽くし、食べ尽くし、あとは帰るしかない。無事に新潟に戻るが、消耗しきっていた。それでも井沢氏をひとりにはできず、ホテルの中華で眠い目を見開きながらご相伴に預かる。夜は更けていった。

20××年7月14日・・・大使の視察に同行

井沢氏は視察の予定がいろいろ詰まっていた。朝、ホテルまで迎えに行くと、井沢氏は前夜の飲み過ぎで朝食も食べていない様子。海岸で朝の一服を楽しんでいた。日本海の雄大さに、佐渡は姿を現さなかった。

その後、大学、県庁、ランチ&プレゼン、経済団体、地元の新聞社、新潟市と、視察は続いた。井沢氏を駅に送り届けたときの安堵感は計り知れなかった。行政の論理は不可解であり、階級意識が垣間見えた。井沢氏は「閣下」と呼ばれる存在であり、外国の大統領や首相に使われる敬称だったが、彼に対してもその格が上がるようだった。

井沢氏は気さくな人で、単身赴任しているとのこと。東欧の国の大使公邸に招待されるらしい。東欧の小さな国だが、富裕層がかなりいる。旧共産圏は、富と権力が独裁的に集中しているためだ。

行政の論理では「格が違うから対応できない」という。しかし、ここには「お・も・て・な・し」の精神が欠けていた。仕事だから、そしてそれも余計な仕事と感じているのかもしれない。民間の小さな団体からの要請には、どうしてもそのような態度が出てしまうのだろう。

それでも何とかしようと思えば、何とかなるものであり、何とかできた。大使の顔も立ち、精も根も尽きたという実感があった。
第四楽章・・・この暮らしは日常か?

20××年7月15日・・・さきこさんの父倒れる

日常に戻ったつもりだったが、まだ非日常の名残が続いていた。彼とのLINEのやり取りが、次の展開を予感させていた。

しかし、この日は静かに過ごすことにした。自分を取り戻すための時間が必要だった。次に訪れる狂想曲の幕開けに備えながら、心の中で静かな旋律を奏でていた。

この静かな時間が、次の狂想曲への助走となることを知らずに。

退院後、父の具合が悪く、玄関で倒れていたらしい。母が巻き込まれている新興宗教団体のありがたいお経が始まろうとしていたが、息子が阻止してくれた。父が死ぬことを想像できずにいた。

動けない父の枕元に、パックに入った生寿司が置かれていた。食べられるはずもないのに、母の中にはいつものような時間が流れていた。

20××年7月16日・・・父入院、「彼」はあいかわらず

夕方、実家に行く。夜になり、父は緊急入院。親が、そして人が死ぬことを意識し、悲しさと辛さが押し寄せた。

郊外の病院へ向かう。そこは、死に場所のような場所だった。今の時代は、人は家では死ねない。ベッドの顔ぶれが変わっている。会話の声は看護師さんたちのもので、患者の声はない。古く狭い病室で、ここで人生を終わらせるなんて哀れでどうしようもなかった。闇の中、郊外の病院に向かったせいかもしれない。人は、こんなとき何を感じるのだろうか。人が死ぬということは、どういうことなのだろうか。

その夜遅く、彼女と話す。すでに翌日になっていた。彼とは2時間、堂々巡りの議論のあとであった。それも真夜中、執拗に、何をしたいのかと問われた。何を結論は、まいちゃん。まいちゃんは、思いなのだろうか?

第五楽章・・・最終章

20××年7月17日・・・まいちゃんとは何ぞや?

父の容態は安定しない。病院のベッドの上で、彼の顔は痛々しいほどにやつれていた。母は病院に付き添いながら、新興宗教の教えに頼っている。自分の無力感に苛まれる。

その夜、彼からのLINEが届く。まいちゃんの存在が話題に上る。まいちゃんとは何なのか?ただのゆるキャラの着ぐるみなのか、それとも何かもっと深い意味を持っているのか。

考えを巡らせながら、眠りにつく。

20××年7月18日・・・まいちゃんは何をいう?

日常に戻る努力をするが、心は病院の父のもとに置いてきたままだ。彼との会話も続く。まいちゃんについての話は尽きない。彼の意図は何なのか?まいちゃんを通じて何を伝えたいのか。

母は相変わらず、新興宗教の教えにすがっている。父の容態は一進一退を繰り返す。病院の冷たい空気が、家族の心を冷え込ませる。

20××年7月19日・・・まいちゃんとは???

父の容態が急変。病院から緊急の呼び出しがかかる。家族全員が病院に駆けつける。医師からの説明を聞きながら、心の中で父の無事を祈る。

その夜、彼からのLINEが再び届く。まいちゃんの話題に触れることすら辛い。しかし、彼は執拗に問いかけてくる。何をしたいのか、何を伝えたいのか。

父が亡くなるのではないかという恐怖と、まいちゃんについての謎が交錯する。頭の中は混乱し、心は疲弊していた。

20××年7月20日・・・まいちゃんとは????

父は依然として危険な状態にある。母は祈り続けているが、医師の言葉は厳しい。自分自身も何もできない無力さを痛感する。

夜、再び彼との会話が続く。まいちゃんについての議論が続く。まいちゃんはただのゆるキャラなのか、それとも何かもっと深い意味を持っているのか。彼の執拗な問いかけに、答えを見つけることができないまま、夜が更けていく。

ひと夏の狂想曲は終わりを迎えることなく、次の楽章へと続いていく。その結末が何をもたらすのか、まだ誰にも分からない。

20××年7月21日・・・家族の歴史とは?

朝、息子と話をしているうちに、涙が溢れてきた。両親の姿に、老いの影と長年の関係が浮かび上がる。仲良くしてほしいと願っても、叶わないのだろうか。昔、サザエさん一家のようになれないかと思ったことがあるが、今はそれすらも望んでいない。

両親は誰かが悪さをしに来ると怯えている。そんなはずはないと言っても聞かない。そのために引っ越しをしたが、その疲れが原因か、それとも元々体調が悪かったのか。あのゴミ屋敷ではどうにもならない。どこを見てもゴミの山が地層のように積み重なっている。何年もの間、放置されてきたのだろうか。

20××年7月22日・・・噛み合ってる?噛み合ってない・・・

彼は言った。「盆と正月が一緒に来たと思うしかない」と。盆と正月が一緒に来ることは、おめでたく賑やかで忙しいことだが、人が死ぬかもしれないことが盆と正月なのか。大使の来県と彼女と結婚式を指しての言葉だろうか。

私の思いには応えていない。とんちんかんな答えが返ってくる。噛み合わないやり取りの末、彼のこれからの予定を確定させた。これ以上の不毛な言葉の応酬には嫌気がさしていた。父の病院へ行くからとLINEを送った。さらに病院に行ってくるという私に、「いってらっしゃい!」と返信する彼。「!」は何?死ぬかもしれない父のもとに行く私に、「!」はおかしいと感じた。

20××年7月23日・・・「彼」がまいちゃんと現れる

朝、豪雨。LINEの二人は北の国から、西の国からやってきた。二人仲良くハンバーガーと珈琲の朝食を楽しんでいた。ホテルは取れたのかと聞くと、取れたという答えが返ってきた。よかったね、どこ?と尋ねると、微妙な空気にたじろいだ。

20××年7月24日・・・友人フーさんの結婚式

彼女とKの結婚式。二次会のスーツを忘れ、ネクタイと靴はあるが、Tシャツと短パンも。まるでコメディのようで、大笑い。このドタバタ劇の終章にはふさわしい。しかし、人生は何とかなるもので、実際に何とかなった。

結婚式は10時半からの予定だったが、始まったのは15分遅れ。ギリギリ間に合ったのは、彼女の長年の友人だった。

最終章

20××年7月25日・・・

人前結婚式では、誓いの言葉が英語で交わされた。外国人の彼は日本語ができないが、彼女の喜びが彼の喜びだった。幸せのお裾分けに感謝し、1ヶ月の慌ただしさを思い出して歓喜の声を上げた。

式は滞りなく終わり、入場の際の篠笛の響きが弱った心に染みた。アメージンググレースが流れる中、神よ、傷ついた心を癒したまえと祈った。

披露パーティーでは、彼の母国の民族衣装に身を包んだ彼女の隣にいつも彼がいた。外国人であることと彼の人柄と愛情が、彼らを特別に見せていた。

この結婚式と披露パーティーが二度目であり、三度目はいつだろうと羨ましさが募った。
38日間の狂想曲は終わりを告げた。

そして、プラス2日、すべては終わった。

20××年7月26日・・・「彼」はまいちゃんと帰っていく

彼は11時のバスで東京へ向かうと言っていたが、オフィスの鍵の確認をするためにLINEを送った。タイミングの良さに驚かれたが、数分後に鍵を戻し帰路につくと連絡があった。しかし、その後すぐにバスの予約が午前ではなく午後であるとLINEが届いた。

「お疲れさまです。気をつけてお帰りください。」とだけ返信した。

父の病院へ行くため、そして仕事のために、彼と関わることを避ける理由は明確だった。

浜では花火が上がり、彼がまだ新潟にいるかもしれないと思い誘ってみたが、彼は東京に向かっていた。花火は夏の夜を彩り、喧騒が終わったと感じていた。

その後

20××年7月27日・・・夏の終わり

まいちゃんを送り、ほっと一息ついたその日、バームクーヘンと手紙が届いた。手紙にはメールアドレスが記されていたが、何も答えずにいた。

このタイミングは何か?まいちゃんは誰で、何のために現れたのだろうか?バームクーヘンの送り主は誰で、何のお礼なのだろうか?

LINEや電話はピタリと止み、静けさが戻ったが、38日間の出来事が心に残っていた。バームクーヘンは皆のお腹の中に消え、跡形もなくなった。

こうしてひと夏の狂想曲は終わりを告げた。

・5人のインパクトのあるイケメンと出会ったか?

ある先輩女性税理士が言っていたこと
人生には大きな影響を受けた5人の男性がいた。
きっと、みなさまもそんな男性と出会っていると思うと。

その5人の男性は誰なのだろうかと考えている。
一人目・・・
二人目・・・
三人目・・・
四人目・・・
五人目・・・
次の物語は、そのたぶん、五人目だろうと思われるイケメン人との出会いの物語です。

・「バリへ行かない?」、そして、バリには神様が住んでいた

友人に誘われてバリに行きました。初めてのLCCでした。
友人は2回目で、フィリピンで英語スクールに行った帰りにぜひ、バリへ行きたいとのことでした。

急な誘いに他の友人たちは行けない。私はたまたま別の要件で電話をしたら、いきなり「バリに行かない?」と誘われました。

「えっ、何?その日程は空いているから行けるよ!」なんて、ノリで行くことになった。彼女は行きたいところがあるようで、全て段取りをしてくれました。

ウブドに2泊、アヤナリゾートに1泊したような…短い旅であった。
でも、そう、バリには神様が住んでいると思えた旅でした。

さきこさんは人間関係のモヤモヤを抱え、彼女は嫁ぎ先のあれこれで悩んでいるようだった。お互いに結論は分かっていて、それを確かめたくてバリにいるような気がしていた。

ウブドでは、山のホテルに宿泊、お部屋の真ん中にバスがあった。カートで、ホテルマンが駆けつけてくれるホテルだった。それぞれの部屋にプールもついていた。

アヤナリゾートもエクセレントなホテルで多国籍な人々が行き交い、それぞれに楽しんでいた。太平洋を望みながら、ヨガのレッスンを受けた。


このことが、この旅がのちのさきこさんの人生に大きなきっかけを与えることになろうとは、その時のさきこさんには知る由もない。
 
行きの飛行機ものんびりし過ぎて、乗り遅れそうになった。飛行機に乗るのにあんなに走ったことはなかった。


そして帰りの飛行機は、お説教がましいさきこさんに辟易した彼女とまたもギリギリになりながらの珍道中であった。
 
あっという間に日々は過ぎ、成田空港に朝7時に到着した。
その後、会議に移動、懇親会、そして、銀座での日本酒の会に参加し、ここで、後の人生に大きく関わる人と出会った。

バリは本当に神様が住んでいる島だった。人間関係に結論が出すことができ、断ち切ることができた。


そして、ヨガと出会い、その後、さきこさんの人生に大きな影響を受ける人とも出会えた。
 


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