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星集めの儀式【ゼロとシャウラのものがたり】

今晩、よみがえりの力を持つトトと自殺者の罪を量るぼくは、星集めの儀式を執り行う。いやだいやだとだだをこねていたら、シャウラがお昼に、とろとろたまごのデミグラスオムライスを作ってくれたので、すぐに機嫌がなおった。
「おいしすぎる。シャウラは天才だ」
「いえいえ、そうたいしたものでは……王子はほんとうに、おいしそうにごはんをたべますよね。スイーツもですが……作るわれわれも充たされますよ。なんて愛らしい。ずっと眺めていたい」
「後半心の声が聞こえた気がするけど気の所為?」
「さあ、どうでしょう。それでは、わたくしは執務にもどります」
「嫌だ、そばにいて」
ダークスーツの袖を掴む。シャウラはためいきをついて困ったように微笑んだ。ぼくはこの人の、この表情も好きで、たびたびこまらせることにしている。
「甘えんぼうモード発動。こうなるともう王子は絶対譲りませんよね。わかりました。それなら、机と椅子を魔法でここの部屋へだしてもらえますか?」
「いいよ!ちょっと待ってね」
杖を手にし、くるくる空中に円を描く。しゃぼんだまのようなにじいろのふわふわがだんだん明確な形になっていきおおきな机と立派な椅子が現れた。シャウラが仰天して、わあ!と声を上げた。
「パイプ椅子とか組立式の机でよかったのに、こんなに重厚な机と椅子、わたくしにはもったいないです」
「そんなこと言わないで。きみはぼくの大切なダーリンだよ、大事にするにきまってる。当然でしょ」
「王子……ありがとうございます」
「それにぼくのわがままにつきあわせてしまうのだから……ほら、ふかふかのクッションももってきたよ。座って一緒にお仕事しよう」
ぼくは自殺者の頭をぽんぽん叩いて裁きながら言う。
「君は右、ちょっと業をつみすぎたね、来世土ぼたる。がんばって。さて、その後ろの君は左。つらかったね。でもぼくは君の死を全肯定するよ……しっかりまた人間に転生できるようにしておくからね、え?つらい?だったら蝶々にしておこうか」
などと言いながら仕事をしていると、シャウラが瞳をぱちぱちさせた。
「王子が立派です」
「この裁き方もぼくのオリジナルだから合ってるか分からないけど……」
「王子の裁き、三年待ちらしいですよ」
「ええっ?!なんで!早く隠居したいのに」
ぼくは裁き終えた自殺者の書類に判子をついてシャウラに手渡す。
「というか、いまおもったんですけど、この距離で直接書類を下さればわたくしの執務の効率もあがりますよね?宮仕えの宿命ですが、色んな手続きをなんどもするのは面倒です」
「それならぼく特例で君がここで仕事ができるようはからうよ」
「本当ですか?!王子を眺めながらお仕事ができるなんて、最高じゃないですか」
「逆に効率下がったりしない?」
「その可能性はありますね、あくまで可能性、可能性、たとえばのはなしですよ、そう!もしかしたら!可能性のはなしです」
ぼくはその言葉を聞いて首を横に振った。
「シャウラ、嘘がつけないのは君の美しい性質だと思うけど、もう少し、胸に秘めておいた方が有利に働くこともあるとおもうよ」
「でも、真面目に仕事します、約束します」
熱っぽく訴えるシャウラをみて微笑んだ。
「それならいいか。今日から君の執務室はここだよ。もう少し、机と椅子、ゴージャスにしてあげる。扉にも、シャウラって、そうだな、ぼくとおなじタングステン製の名札をつけておこう、……召喚」
ぼくがとんとん机を叩くと、シャウラの机がものすごく大きくなった。椅子にも肘掛が着いた。背中のクッションも人をダメにするビーズクッションになった。
「王子、ありがとうございます!頑張って職務を全うします。星集めの儀式が終わったら、わたくしとすこし、良いお酒を飲みましょう。いいのを仕入れてきたんですよ」
「いいね!呑もう呑もう。ごほうびがあるなら、星集めも憂鬱だったけどもう大丈夫。ありがとう、シャウラ」
ぼくらは連携プレイで自殺者たちを裁きまくった。
「明らかにこの方が効率いい。五倍速くらいの進捗。ねえ、そう思わない?」
「そうですね、これは他の部署にも提案してみるか……」
「ゼロ、部屋に入れて!」
トトがやってきて、ぞろぞろ並ぶ亡者たちのはるか後列から声を上げた。
「トト様、お疲れ様でございます。如何されましたか」
「トト!お疲れ様!仕事はどうしたの」
「面倒になっちゃってサボってるの。側近に追われてる。匿って」
「えー!いやだよ、ぼくらまでしかられるもん。真面目にやりなよ」
「あ、そういえば二人で仕事してるんだね。仲良くて羨ましいな」
「そう。今日からシャウラの執務室はここ。だからなにか用事があったらここに来てね」
「トト様!トト様!」
「やばい!見つかった!」
「逃げても無駄です!!」
「うわーん!!」
トトは、モルフォという青い蝶の名前の側近に抱えあげられあっさり帰っていった。
「面倒なことにならずにすんで良かった、はいこれ次の判決。ファイリングしておいてくれるかな」
「了解です。王子とは何してても楽しいですね。立派な机と椅子を喚んでくださったので、これからは毎日、六の刻のベルを待たずとも、一緒にいられますね、嬉しいです」
無邪気に、嬉しいことを素直に表現してくれるシャウラが大好きだ。言わないけど。
あっという間に六の刻が訪れる。ぼくは城中に派手なベルを鳴らした。終業時間の合図だ。レティクル座はホワイト企業なのが売りだ。めったなことがなければ残業はさせないシステムになっている。
「さて、星集めのために英気を養いましょう。社食に行きましょうか」
「そうしよう」
「何か食べたいもの、ありますか?」
「油淋鶏!」
「ではわたくしはアサイーボウルを。昨日接待で調子に乗って食べすぎてしまったので。星集めの後のお酒の時間のこともありますし……社食のアサイーボウル、すごく美味しくて、即売り切れてしまうこともあるとの事です」
「じゃあ急ごう……っていうか、接待の話、きいてないよ」
制裁としてほっぺたを掴んだ。
「そういうと思いまして、わたくしからプレゼントがあります。これもお揃いのもので、二人だけのものですよ……そのすねたふくれっつらもかわいいんですけどね。王子、そのプレゼント絶対喜んでくれると思うんです」
「たのしみにしてる!あ!アサイーボウル、りんごとシリアルのがあるよ!おいしそうだね!」
「ではわたくしはそれを。食券買いましょう。王子は油淋鶏でしたね、ぽちっ」
シャウラがご飯を持ってきてくれると言うので、ぼくは机上をととのえた。トーションを可愛い形に折って、シルバーを並べる。そこへ両手に料理を持ってきたシャウラのために椅子を引き、座るように促す。
「助かりました。ありがとうございます。テーブルの上がめちゃくちゃ整ってる!これ、王子がやったんですか?」
「そうだよ、いつもシャウラがやってくれてるのをよくよく観察して覚えた」
「凄いです、王子!ありがとうございます!」
「油淋鶏ー!!こちらこそ持ってきてくれてありがとう」
「好きですねえ、王子。社食で食事をとる時は、ほぼ油淋鶏かオムライスかハンバーグですよね」
「やめてよ、なんかこどもっぽくてはずかしいから」
「好きなものを腹八分目、食べればいいんです。はずかしいことなんて、なにもありませんよ」
「シャウラ、優しい!大好きだよ、愛してる」
「わたくしもですよ。愛しています」
「ふふ、じゃあいただきますしよう」
「いただきます!」
「うん、アサイーボウル、全く癖がなくて美味しいです、これは体にも良さそうですね」
「油淋鶏あつい!食べられない」
「運良く揚げたてのを盛り付けてくださったので。サラダから食べると良いでしょう。ドレッシング、何にします?いっぱいあって楽しい!」
「ごまがいいなあ」
「はい、ではこちらをかけて」
「ドレッシングはごまこそが至高」
「わたくしは、カレー屋さんのサラダにかかってる、ちょっとスパイシーなサウザンアイランドドレッシングが一番好きです」
「今度連れて行って!」
「ぜひ一緒に行きましょう!サグチキンカレーがおすすめです」
「さぐ?」
「ほうれん草のカレーなんですけど、まろやかでとても美味しいんですよ」
「ぼくほうれん草大好き!」
「そういうと思いまして。あと、ナンっていう巨大なひらべったいパンみたいなのと一緒に食べるんです。あまりの美味しさに一瞬で消え去ります。バターが塗ってあって、ほんのり甘くて幸せの味……」
「明日お休みだから行こうよ!そのお店!」
「是非。大好きなお店を最愛の方に紹介するのって、どきどきしますね。きにいってもらえたらいいな……方舟が完成するまではスペースシップに乗って片道四時間かけていっていたんです」
「そこまでして食べたい!って思える味なんだね。たのしみだなあ。星集めをさっさと終わらせるよ」
「そうしましょうか、デート嬉しい!王子、独り占め!」
「まあそうたいしたやつじゃないんだけどね」
「ほらー!卑屈っぽい顔しない!」
銀匙でアサイーボウルの美味しそうなところを掬って食べさせてくれた。たしかに美味しい。
「油淋鶏もたべる?」
「もうあつあつではないですか?それならいただきます」
いちゃいちゃしていたらとおくのほうから、王子とシャウラ可愛いー!と黄色い声が飛んできた。ぼくはほっぺたをぽっぽとさせながら、油淋鶏を食べ終えた。
「ごちそうさまでした」
「さあ、星集めの儀式、頑張りましょうね」
金星が瞬き出す頃、ぼくはきらめきの杖を持って、儀式を行う壇上に上がった。遅れてトトがやってきて、隣に立った。僕にかなうはずないじゃんと言ってくる。ぼくはなんだかお腹が痛くなってきた。
トトが、さっと杖を振る。星の形をした透明な鞄にどんどん星屑を集めていく。
ぼくもきらめきの杖で一生懸命星を集める。ものすごく大きな流星が飛んできて、それを必死でとらえた。
「やるじゃん、ゼロ。それ僕が狙ってたやつ。ああでももうかばんがいっぱいになっちゃった。というわけで僕の勝ち」
シャウラがやって来て、ガウンをかけてくれた。
「王子、健闘しましたね。えらいえらい。この後ご褒美があるので、そんなにしょげないで。そもそも、王子の杖は自殺者をさばくためのものであって、星集めに向いていないんですよ。それなのに、こんなに大きな流星をあつめたじゃないですか、すごい!」

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