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Happy New Year!①【チョコレートリリー寮の少年たち】

クリスマスが慌ただしく過ぎ去り、いよいよ年末、そして年明けだ。家に帰らないいつものメンバーたちが集い、ちょっとしたパーティーを催している。僕たちは式典用のローブに身を包んで、デイルームに集まった。
「あけましておめでとうございます」
「今年も、どうぞご指導ご鞭撻の程、よろしくお願い致します」
「あっはっは!そんなに固くならずに。こちらこそ、宜しくね」
「かわいいなあ、本当にこんなに素敵な後輩たちがいて、さらに懐いてくれるなんて、僕たちしあわせだね。今年もよろしく。どーんと頼っていいから。甘えて欲しいな」
「しかし……エーリクのおうちみたいにりっぱな実家があったら、僕しっかり帰っちゃうかもしれない」
蘭がとんでもないことを言い出す。
「そんなあ、見たでしょ、鳳の態度を。過保護なんだよ。毎日あんな目にあってごらんよ、たまにだからいいんだ。お父様はあのテンションだし……」
「ミルヒシュトラーセ家の人たちは皆さんとてもかわいいよ、かわいいというのは失礼かなあ」
「ううん、たしかに可愛いと思う。でも僕はみんなと一緒にいる時の方が心穏やかに過ごせるんだよね。楽しいことがたくさん起こるし」
「あはは、エーリクも可愛い」
スピカがフォームミルクがたっぷり乗っている冷たいアナスタシアを飲みながらからかってくる。彼は暑かろうが寒かろうが、冷たい飲み物を飲むのがいつものことで、体が冷えてしまうんじゃないかと思った。指をひと振りして、レグルスからトーションを呼び寄せた、膝にふわっと乗っかる。
「ありがとう、エーリク。最近きみ、本当にすごいね」
「うん、何となくわかってきた。逆上がりとか一輪車みたいなものだよね、魔法って。コツを掴めばなんとかなる」
「例えが面白すぎます」
ロロが静かに笑って、ロイヤルミルクティーを一口飲んだ。
ティースタンドに、たくさんのお菓子が乗っている。ノエル先輩が拵えてくれたものだ。スコーンはまだ暖かい。クロテッドクリームを塗って、もぐもぐ食べた。ホワイトチョコレートとほろ苦いビターチョコレートが練り込んである。さくさく、ほろほろした食感だ。
「ノエル先輩のお菓子は初めて食べた時、あまりの美味しさにものすごく感動しましたが、最近ますますお上手になっている。すばらしいですね。レグルスに卸してみたらいかがですか」
「いやいや、とんでもない事だよ。そこまでの品じゃない。でも、褒めてくれてありがとう」
メロン曹達を飲みながら、ティースタンド一番下のキューカンバーのサンドイッチを手に取っている。
「これはリュリュが早起きして作ってくれたんだよね、とっても美味しいよ」
「エーリクとロロはどんなに揺すっても起きなかったので」
「ごめん、リュリュ。僕爆睡してた」
「ぼくも。ごめんなさい」
「ううん、作るのすごく楽しかったよ。楽しすぎて、このバスケットにまだ沢山入ってる。はい、エーリク、君にはたまごサンドを愛をこめて作ったよ。あとハムとレタスのもある」
「ほんとう?!食べたい!!」
「はい、どうぞ」
「なんでかわからないけど俺たち、エーリクをあまやかしがちだよね、何だかふわふわしてるからかな、見てると可愛くて叱るつもりになれない」
「僕の取り柄ですか?それって」
「本当はちゃんと叱らなきゃ!って思っても、なんだかこちらまでふわっとしちゃうんだ」
「わかる」
一同みなわかるわかると言うので、僕はにこりと笑った。それだよそれ!と喝采が上がる。
「じゃあ僕はこれからも、ハムとかたまごとかそういうサンドイッチを食べていきたいと思います」
「……あの、みなさん……もしやることがなければ、なのですが、明日辺り、ちょっと街に繰り出してみませんか?きっとたのしいとおもうんです」
スピカが懐中をがさごそとあさっている。
「これを見てください」
チケットケースからフライヤーを取りだし、ひろげてみせた。この区画の新春市のおしらせだ。
「今日から、星屑駄菓子本舗と〈AZUR〉が合同出店しているんだって」
「なにか新作あったりするのかな」
「うん、えっとね、300Sでスーベニアのバスケットをかったら、お菓子詰め放題なんだって」
「嘘でしょ?安すぎないか、ゼロ一個少なくない?」
「新年だから特別なんじゃないかな」
「大変だ、これは。行かなきゃ」
フライヤーをみる限り、三賀日にわたって開催するらしい。僕は拍手をして、賛成!と声を上げた。
「三日目はレグルスのアルバイトだから、それも楽しみ」
その時、フライヤーをずっと熱心に眺めていたリヒトが僕の腕をぎゅっと掴んで立ち上がらせて、デイルーム中をまわる。
「最高じゃない?ぼく、鉱石べっこうあめと、ゆめみるプチタルトをすごい量入れちゃおうかな。きっとバスケットも可愛い」
「鉱石べっこうあめ美味しいよね、綺麗だし。光に透かすとアルゴ座のホログラムが浮き上がるの、どんな仕掛けなんだろう」
「サミュエル先輩もそう思われますか?新年だからきっと、ここに書いてありますが、おめでたい感じの……黄金色と赤いの、売るみたいです。可愛いラッピングがされているんじゃないかなって思うんですよね」
「よし、リヒト、それ狙おう」
「僕は黒蜜店長が人気がないと言っていたぱちぱちシュトゥルーデルが欲しいな、あれ、あたためてたべるとすごくおいしい。生地にくるんである林檎がもうだめになっちゃうくらいあまくて、アイスクリイムを添えて食べるとおいしい。ほっぺたが落ちる。みなさんにご馳走します。でも、あんなに美味しいのに、どうして売れないんだろう」
「彼処が駄菓子屋だからかなあ。駄菓子ほとんど取り扱ってないじゃないか、店名改めたらいいのにね」
「でも一応管理人さんに駄菓子屋をやりませんかとお声がけ頂いたって聞いてるから、これからも変えないんだろうな」
「おとなのじじょう……」
「まあそんなこんな色々あるけど、たべていけてるし昼酒あおれるくらいは儲かっているようだし、だからいいんじゃないか」
「うん、深くは考えないようにしよう」
くるくるまわっていたリヒトがノエル先輩の膝に座った。僕はおとなしく自分の席に戻り、ロロとリュリュと蘭のティーカップにロイヤルミルクティーを注いだ。ママ・スノウのティーコジーはすごい。全く紅茶が冷めない。どんな魔法がかかっているのか、不思議で仕方がない。
「ありがとう、エーリク」
「いえいえ、お茶がいつまでたっても温かくて美味しいね、僕ら四人、今日はおそろいだ。うれしい」
「ぼくもです。とっても、嬉しい」
「美味しいね、ああ、ごめん蘭、シュガーポットをもらえるかい」
「はい、どうぞ」
「この三温糖がまた、美味しいんだよね」
「うん!本当にいい感じ!」
スピカは姿勢を真っ直ぐに正し、ママ・スノウが作ったフランボワーズのバウムケーキを、見事なシルバー捌きで食べている。いつもの事ながらその指先に注目してしまう。桜貝のような、つやつやひかる指先。仔猫のしっぽのような、リボンで結い上げた髪。優しく凛とした輝きを持つひとみ。ファンクラブができるわけだ。『スピカくんによろめき隊!』のその後の活動はどうなったのか僕にはわからない。でも、彼の所作がいちいち美しいのは確かだなと思った。
「うん、美味しかった。ごちそうさまでした。アナスタシアとの相性抜群」
「きみ、寒くないの?」
「うん、全然。猫舌だから熱いもの飲めないんだ」
「スピカ、そういえばそうだね、いつもつめたいもののんでる」
「アナスタシアは、華やかな香りがして美味しいよ。良かったら、ひとくち味見をどうぞ」
「うん!ありがとう!」
ストローで吸い上げてみた。ベルガモットの香りがいきいきと、いきなりやって来て、爽やかに香る。勢いのある味をしているけど決してくどくはなくて、夏にごくごく飲みたいお茶だなあと思った。
「わああ!!これはおいしい!はまってしまいそうだ。僕も頼もう……おかわりもらいに行くけど、誰か飲み終わっちゃったらついでにお願いしてくるよ」
「じゃあ、メロン曹達をお願いするね」
「はい!……リヒトは?」
「オレンジジュースください!ありがとう、エーリク」
「ロイヤルミルクティーはまだたっぷりあるな……スピカもおかわりのむ?」
「うん、お願い。もう最近すっかり、アナスタシアのとりこだよ」
僕はメモにそれを書いて、ママ・スノウが目まぐるしく働いているカウンターへと置いた。
「エーリク、今日はちゃんとリボンタイが結べていますね。優秀です」
「はい、ママ・スノウ。親友に直してもらいました。オーダー、お願いします」
「はい、すぐにもっていきますから、ソファに戻って待っていてくださいね」
「お願いします」
今日はお咎めなしですんだ。ロロが結び直してくれたからだ。
「ロロ、助かったよ」
「ふふ、よかった!ご褒美に、エーリクのお膝に座っても、いいですか」
「いいよ、おいで」
「わーい!」
「いいなあ、ロロ」
「うらやましい」
「かわりばんこね!」
優しくロロの髪を撫でる。
 「エーリクがすっかり、お兄ちゃんだなあ」
「天使たちにせがまれたら、断れません」
「俺もそうだな、ね、リヒト」
「あらあら、今日も仲睦まじいですね、お飲み物ここに置いておきます」
「ママ・スノウ、ありがとうございます。スピカ、ちょっと配膳してくれないか」
「了解、」
「あ、あと……じつは、僕、夏からずっと今日までみんなに秘密にしていたことがあって」
僕がもじもじとしつつ、呟く。
「あ、もしかしてあれの事かな」
「リヒトは知ってるよね。悲しい話とか急なお知らせ、とか、そういう事じゃないんです。ハッピーニューイヤー!皆さんにささやかながら、プレゼントがあります」
僕はまずノエル先輩へ、拙いながら頑張ってくるんだ包みを手渡す。
「なんだ、なんだ。今ここで見ていいの?」
「はい、是非」
「次、サミュエル先輩へ」
「ありがとう!」
手を差し伸べて受け取ってくださった。
「天使たち三人に、どうぞ」
「エーリク、うれしい!なんだろう、ふわふわしてる」
「リヒト、どうぞ」
「完成を楽しみに待っていたよ」
「はい、スピカ」
「うわ!!!!すごい!!!!」
「夏から、こつこつ編みました。リヒトにはうっかりばれてしまったんですが、黙っていてくれてありがとう」
「親友だもん、秘密は守るよ」
「すてき!!マフラーと手袋とイヤーマフだ。このピーコックブルー、きっと僕の瞳に合わせて編み上げてくれたんだね。エーリク、ありがとう……」
サミュエル先輩が胸にぎゅっとマフラーを抱きしめて、泣きそうな声で僕の髪を撫でた。
「すごいな!エーリク。この編み込みとか、どうなってるんだ。微妙に淡い色から濃色へ、グラデーションがかかっているんだね。美しい」
「いえいえ、同じことの繰り返しなのでそんなに大したものではなくて」
「嬉しい。大好きです、エーリク」
「僕も!だいすき!!」
「ありがとう。そんなに喜んでもらえるだなんて思わなかったよ」
瞳をぱちぱちさせると、天使たちが膝に乗ってきた。
「言ったでしょ、僕すごい貧乏家庭出身で、マフラーも、見て、こんなにボロボロなのを使ってて、今年こそ買わなきゃって思っていたんだよ」
「うちも。何しろ兄弟が多い」
「こんなに素敵なお年玉をいただけるなんて思わなくて、俺びっくりしてる」
「すごく、すごくきれい。エーリク、ありがとう」
「えへへ……喜んでもらっちゃった。ついでに邸宅の人たちの分も作ってあるんだ」
「転送してみたら?」
「お父様や鳳、レシャとファルリテのテンションに耐えられる?」
僕がにやにやしながら言うとみんな顔を見あわて、小さく笑いをこぼした。
「どうぞどうぞ。レシャさん、ファルリテさんとも先日ぶり!」
ロロが薄い青と柔いグリーンの混ざった毛糸でできたマフラーとイヤーマフ、手袋を装着してわらった。
「天使だ……」
感嘆の溜息が所々からあがる。
「ちょっと三人とも、膝から落ちないようにじっとしていてね」
僕はミルヒシュトラー家へと空間を歪めた。ふわふわ杖をうごかすと、だんだんと、輪郭がはっきりしてきた。苦労していると、ノエル先輩が僕のかたに手をぽん、とのせて、さっと杖をふった。
「ああーっ!!!!!!坊ちゃん!!!!」
「みなさまも!!あけましておめでとうございます!!」
ワックスをかけていたモップを投げ出し、レシャとファルリテが駆け寄ってくる。
「旦那様!!鳳さん!!」
「坊ちゃんが!!!!」
「こんにちは!今年もよろしくお願い致します!!」
「そして天使さん、器用に坊ちゃんのお膝に!僕も、乗りたい、いいなあ」
「あけましておめでとう!!エーリク、そしてご学友の皆様!!」
バターンと大きな音を開けて、執務室からお父様が飛び出してくる。手を振り、最前列へやってきて、押し合い圧し合いだ。
「旦那様!!なりません!!サインして頂きたい書類をクリスマスあたりから溜めに溜めましたことを私はよく存じ……ああ!エーリク坊ちゃん、みなさま、あけましておめでとうございます。今年もどうぞ、よろしくお願い致します」
「こちらこそ!鳳!」
「旦那様はご挨拶が終わり次第、執務室へ」
「だって、嫌なんだもん」
「文句を言わない!!!!」
鳳の雷は新年から容赦なく落ちる。
「あ、あの、お父様たちに……実は、えっと、見てもらった方が早いと思います。今送ります!」
僕はノエル先輩に手伝ってもらいながら、プレゼントをどんどんと転送する。
「わー!!なんだろう、可愛いリボンがかかってる」
「本当はクリスマスまでに間に合わせたかったんだ。遅くなっちゃった。ごめんね」
「うわあ!すごい……マフラー、あ、手袋やイヤーマフまで……きれい!!」
「坊ちゃんが編んだのですか?!」
「うん、昔、編み方をお母様に教わって」
「この漆黒の毛糸の、本当にあたたかそうです。すごい、つやつや、ふわふわですね。ありがとう、ございます……家宝に致します……ささやかですが坊ちゃん、私からもみなさんで召し上がるためのお茶菓子を手配しておきます。なんて美しい品を私のために……私、鳳は……」
イヤーマフを引っ掛けて、白手袋の上から手袋をはめ、泣きそうになっている鳳をながめて、ミルヒシュトラーセ家のみんなは泣いたり笑ったり忙しいなあと思った。
「鳳、そんなに泣かないで」
「エーリク、俺たちのぶんも編んでくれたんです」
全員がマフラーをまきつけて、手袋とイヤーマフをつけた。
「なんて愛らしい!!」
「坊ちゃん、本当にありがとうございます」
「いえいえ、使ってやってね……まあ、それだけなんだけど……また良かったらティーパーティでも開きましょう。どこか気の利いた店を探しておくね」
「ミルヒシュトラーセ家でやってもいいと思ってるから、招待状をおくるね」
「その招待状も書かねばなりませんよ」
「分かったよ。鳳はいじわる」
「いじわるなんて一言も言っておりません」
「鳳、もしお父様が書ききれなかったら、ちょっと助けてあげてね」
「筆跡を真似するのは私の特技です。坊ちゃんが心配なさることは御座いません。旦那様!!ソファの上を転がり回らない!!」
「新年から仕事したくないよ、この前エーリクが買ってきたお菓子をだして。いちごのブールドネージュがいいな」
「……旦那様……大変申し訳ございません……残りの3つ、私が食べてしまいました……」
「えーっ!!鳳!!ひどいや、ひどい!!」
お父様がソファの上で手足をばたばたさせた。
「お父様、明日僕たち街にいくんです。だから、また買ってきます」
「うん!お願いするね」
けろっと機嫌が治ったようで、ソファに座ってにこにことしている。
「旦那様、さあ、執務の続きを」
「やだやだやだやだ」
「では、お夕飯にサーモンのガレットをお出しする、という交換条件はいかがでしょう」
「仕事する……美味しいサングリアもお願い……みんな、そんなわけで私は仕事に戻るね。またね!」
「私もがんばります」
「僕らもワックスがけ、一生懸命やります!」
「はーい!みんな頑張りすぎないでね」
「坊ちゃんたちも!」
「またねー!」
通信がそこでとだえた。僕はソファによりかかる。
天使たちが三人、ふわりと僕の両腕と真ん中に降り立ち、僕の髪を撫でたり抱きしめたりしてくる。
「疲れて、ないですか」
「大丈夫。ノエル先輩にかなり助けてもらっちゃった」
「上達したな、本当に」
「ありがとうございます!」
ノエル先輩が僕の髪をくしゃくしゃと撫で回した。
「すごいと思うよ、エーリク。めきめき力をつけてる。俺が一年生だったときを超えてるよ」
「ノエル、問題児だったもんなあ」
意外だった。こんなになんでも出来る、ノエル先輩が。
「俺の実家は洋菓子屋でさ、でもあとを継ぎたくなくて、魔法の世界に無理やり飛び込んだ。親族たち、もうそれはそれは大反対。半年かけて説得して、家へもう帰らない覚悟でマグノリア、そしてチョコレートリリー寮に来たんだよ」
「ああ、だからあんなにお菓子作りが上手いんだ……」
「お菓子作り自体はすき。でも、それで一生実家に縛り付けられるのは嫌だった……来て大正解。大切な仲間に出逢えた」
「そんな経緯があったのですね」
「うん、新年らしくない話はもうやめようか。面白いものをオールドミスに頼んである」
「なんだろう」
「蘭が喜ぶんじゃないかなと思う」
「えっ?!僕が?」
「ママ・スノウ、例のものを」
「わあ、なんだかいい香りがする……」
「お待たせしました。これは私も作ったことがなくて、ノエルのレシピですけれど、」
「あっ!わかった!」
「なんだろうこれ」
「すごーく熱そう」
「やけどに注意。蘭、みんなに教えてあげて」
「はい!」
蘭が瞳に星を降らせながら、嬉々として立ち上がった。
「これは、東の国のお雑煮、という食べ物です。新年になると、大体どこのうちでも作ります。これは、田舎雑煮ですね。おすましみたいな上品なのもありますけれど、こういう具だくさんなお雑煮は実家を思い出します。美味しいですよ。地方によっては丸いお餅を使ったり、味噌仕立てにしたりもします」
「これは四角いおもちですね」
「柔らかそう。ロロのほっぺたみたい」
「えへへ」
「いただきます、しようか!」
「いただきます!!」
今日も蘭は器用に箸を使いおもちをたべている。僕はどうしてもお箸が上手く扱えない。仕方なく、フォークで食べる。温かくて優しい味わいだ。野菜が沢山食べられるのがうれしい。おもちもびよんと伸びて、やや苦労しながら僕はお雑煮を食べた。
「このピンクと白の具はなんですか」
「ん、それはね、なると、っていうの。こっちのは、かまぼこ」
「このいい香りのする葉っぱは」
「それは、三葉っていうんだよ」
「にんじんがたくさんはいってる。鳳泣かせだよこれは」
「そういえば、鳳さん、にんじんが嫌いだった」
「おいしい、しあわせ」
ロロがあまりにも美味しそうに言うので、みんな目を細めて小さな王子さまを眺めた。
「そんな、みんな見ないでください」
「いや、可愛いなあと思って」
「いつもかわいいけど」
「ほっぺた食べたい」
「あついものをたべるときは、テーブルにつこうね。こぼしたらやけどしちゃう」
「はぁい」
「わかりました」
「一旦降ります」
お父様もこのくらい素直だったら、鳳たちの気苦労も減るだろうにと思った。お父様はよく言えば若々しくて元気はつらつなんだけど、どうにもそれを通り超えて子どもっぽい。
そういえばお父様、プチトマトは食べただろうか。明日、きいてみようと思った。

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