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スピカの写真集⑤【チョコレートリリー寮の少年たち】

「すごいなこれは、完全にモデル撮影の機材じゃないか」
「触るなよノエル次触ったら追い出すからな」
「いいじゃん、ちょっとくらい」
「部費で落としたとはいえど、素人が触っていいものじゃない」
小鳥遊先輩が必死にカメラを庇っている。
「はいはい、じゃあ俺たちはちびっこたちと壁に張り付いてるよ、スピカ、頑張れ!」
背中をどんどん力強く叩いて激励して、ノエル先輩が壁の方へやってきた。
「スピカ!かっこいいところ見せてよね」
「頑張ってください!」
「ファイト!」
一段高くなっている台に乗ってスピカが手を振っている。
「尊い……」
「さあ、ささっと撮っちゃってください」
「あの……肩をちらりと見せてもらうのはアウトですか?」
「まあ、いいですよ。せっかくの写真集ですし」
ローブのボタンを外しちらりと骨ばった肩を出した。絶叫が上がる。
「後ろを向いて、目線、ください!!素晴らしいです、嗚呼!!お綺麗ですよ!スピカ君!!!!」
「美しすぎるにも程がある」
悠璃先輩がぷるぷるふるえながら手を組んでいる。
激しく焚かれるフラッシュとよろめき隊!の隊員たち、そして写真部の方々の悲鳴が止まらない。
「はい、お疲れ様です。肩はもうしまってください。死人が出ますので」
小鳥遊先輩がデータをチェックしながら仰る。
「ジュド、どれがいいと思う?」
「ああこのモノクロームのいいねカラーのはトレーディングカードにしようぜひ小鳥遊すごいじゃないかさすがだね」
「うん、トレーディングカード賛成。スピカ君、髪を下ろしたところ、数枚お願いできませんか?」
「いいですよ、」
モスグリーンのリボンを解く。最前列で固唾を飲んで見守っていたよろめき隊!の隊員が三人ばかり倒れた。
「おい邪魔だろうちょっとちょっと皆さんこの困った人たちを奥の方に引き摺るのを協力してくれませんか」
「大丈夫ですか?」
優しく声をかけながら立夏が体を起こしてあげている。本当に僕のパートナーは優しい。僕もすぐに動いた。
「二人で運ぼう」
「そうしよう」
「それではスピカ君、後ろに花を飾りますので少々お待ちください」
「花?!わかりました。ちょっとスツールお借りしますね」
そんなこんなで上がる、絶叫。ばたばたと倒れる人たちを立夏と僕が一生懸命介抱した。スピカはすごいなあと思っていると、チェック入ります、スピカ君、お疲れ様です、という声が聞こえた。一段落だ。
「ジュド、スピカ君どれも美しいね」
「僕的にはやっぱりこの肩をちらっと出しているのを表紙に推したい小鳥遊すごいなますます写真上手くなってる」
「それ程でも」
「素直に褒められろよ」
「まあそれはいいとして……これもいいよね、ちょっとはにかんでてかっこよさと可愛らしさが共存してる」
髪を下ろしている写真をながめながら小鳥遊先輩がにこにこデータを眺めている。
「お花、飾りました。ばっちり、華やかに仕立て上げました」
「おお!すごい!一年生、お疲れ様!!それではスピカ君、このゆり椅子に座っていただけますか?ちょっと目を伏せた感じで、はい!そうです!!素晴らしい!!!!まつ毛が長い!!!!ティントをひいているのですか?艶っぽい!!!!」
散々おだてながら小鳥遊先輩がカメラを操っている。薔薇や様々な色の花を背負ったスピカはとても美しい。ロロに負けず劣らず、物語に出てくる王子様のようだ。
「うん、いい感じ。スピカ君、ありがとうございます」
そこから二時間ほど、ああでもないこうでもないと言いながら撮影を行った。
「みなさんお疲れ様でしたエルダーフラワーのジュースでも飲みましょうスピカくんがこのジュースを好きな事もスピカ君を密かに見守る会のひとたちから教わったんです美味しいですよねこれマスカットみたいな風味で」
ジュド先輩がカップをくばって回る。スピカ君を密かに見守る会とは、と思ったけど怖かったので黙っていた。
「スピカ君そしてご学友の皆様今日は本当にお疲れ様でしたノエルとサミュエルも暴れなかったし粛々と撮影できてよかったです写真集は後日お届けしますね」
「なんだよ、暴れるって」
ノエル先輩が不服そうな顔をした。
「こちらこそ、ありがとうございました。素敵な写真集になりますように、都合の良い時だけに信じる神様に祈ります」
「さあ、じゃあ俺たちはここでお暇する。編集頑張れよ」
「うん素晴らしい写真集になると思う嗚呼スピカ君祈らせてくださいそして握手を」
「はい!頑張ってください。写真集の完成、楽しみにしています」
にこりと煌びやかに微笑んだスピカを見て、そこでまた六人ほど、よろめき隊!の隊員が無言で倒れた。

「さて、みなさん。109号室でお茶でも飲みませんか?ファルリテが自信作だと言って焼きプリンを、たくさん転送してくれたんです。スピカにはご褒美プリンアラモードだね。果物、飾り切りできるようになったから任せてよ」
「それはたのしみだなあ、ありがとう」
「それなら僕も手伝う」
「助かります、サミュエル先輩」
「すごいよね、隣で見ててもいい?」
立夏がやってきて、にこにことわらう。構わないよ、おいで、というと、ローブの裾から綺羅星を零した。
開けた窓から薫風が吹き込んでくる。だんだんと、ひかりの季節が、やってくる。

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