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Happy New Year!②【チョコレートリリー寮の少年たち】

年が明けて二日目、僕たちは、僕が拵えたマフラーや
イヤーマフ、手袋を身につけて、新春市の会場へやってきた。
「最終目的地は星屑駄菓子本舗と〈AZUR〉の露店にしよう。寄り道しながらゆっくり行こうぜ」
「うん!すごい人だね、お正月にふさわしい盛りあがり。どきどきするなあ」
「あ、チョコレートの屋台だ。えっ、あんなに沢山入って500Sなの?買ってこよう」
「ウイスキーボンボンはだめだからな」
「バレた」
「不良生徒だなあ」
「聞いてよ、みんな」
注目を浴びてリヒトは背筋を伸ばした。
「これから絶対にオールドミスに文句を言わせないやり方教えてあげる。さて、このチョコレートボンボンの包装紙だけど、いっくよー!」
両手の間に包装紙を、くしゅくしゅとそりあわせだした。すると銀紙の、チョコレートのメタリックな包装紙と、透明な何も書かれていないビニールが剥離された。
「凄いじゃん……」
「ね、任せてください!!」
「胸を張らない!!……ってちょっと鳳さん風に言ってみた」
「ぼく、あんず飴食べたい。エーリク、一緒に行きませんか」
「いこうか!」
ロロの手をぎゅっとにぎった。小さな小鳥を乗せたような……と試行錯誤の末、完成したものだ。危惧していたけれど、サイズ、ぴったりだった
「あーっ!たいへん!エーリク!揚げまんじゅうの屋台がある!」
「スーパーボールすくいもあるな、いかないか」
「まってよ、僕は一人しかいないから、順番!」
「あんず飴、僕もついて行く。揚げまんじゅうは皆で食べようねって話してたもんね、嬉しい」
「なんの話?」
「不思議なスイーツがあるんですよ、後でみんなで食べに行きましょう」
「まってー!みんな!」
ぱたぱたと両手いっぱいに袋を持ってリヒトが追いかけてきた。ノエル先輩がその手をぎゅっと掴み、引き寄せる。
「釣果はどんな具合?みせて」
「うわあ、これはすごい。何袋あるんだい」
サミュエル先輩が感嘆の声をもらした。
「店主さんがチョコレート、どんどん積んでくの、凄かったよ」
「それも東の国のイベントだよ」
「ここら界隈は、東の国にルーツがあるものが多いね。わからないことは蘭に教わろうな。よろしくね」
「お役に立てるのであればなんなりと……」
「あ、あとこれ、差し出がましいことかなって少し悩んだけど、みんなのお家へも転送してあげなよ。安いけどすごく美味しいよ!!って店主のおじさんがいってたので。外装とかはその辺で見繕いましょう」
リヒトがそんなことを言ってひと袋ずつみんなにくばる。
「えんぎものですから!」
「嬉しい!!!!いいの」
「やった!!!!これはお父様と鳳がワルツを蓄音機から流し出して踊ることになるな」
「鳳さん、ダンスもこなすんだ」
「そうなんだよ、僕、あまりにもダンスのセンスがないせいで、鳳の足を全力で何十回も蹴ったり踏んじゃって、ここまでにしておきましょうって頭を抱えてちゃってさ。それ以来僕ダンスパーティーの時はいつも体調が悪いことにしている。みんな流石に暗黙の了解というか。」
「あんず飴、可愛い。もなかに乗せていただきましょう」
「美味しそう!水晶みたい!!」
「俺もひとつ、お願いします」
「ふふ、ハッピーニューイヤー!」
程よく固く冷えたあんず飴は本当に美味しくて、あっという間に平らげた。あんず飴は、飲み物。いつか学食でもノエル先輩やリヒト、ロロたちの食べっぷりを見てそう思ったことがあったなあと、ふと思い出した。
「揚げまんじゅうは間違いないから、次はそこにいって、その後腹ごなしにスーパーボールすくいをしましょう」
「そうしよう、揚げまんじゅうってなに?そもそもまんじゅうを食べたことがないよ」
「それも東の国のお菓子なんです。いわゆる、和菓子と言われているものです。さくさくの衣とあっついあんこのコラボレーションがすごすぎるので、ね、エーリク」
「本当に美味しいです。びっくりしますよ」
「よし、皆、はぐれるなよ」
「エーリク、僕と手を繋いでいこう。スピカとリヒトも手を繋いで。天使たちは連なって、エーリクの左手を掴んでね。あとは僕がノエルを追尾するから、大丈夫」
「流石です、サミュエル先輩」
「それほどでも!だんだん中心街に近づいてきたから、人も多くなってきた。気をつけようね」
「はーい!」
「ほんとうだ。おまんじゅう、ころもをつけてあげられている。紅白なんだ、めでたい」
「これか。せっかくだから紅白ふたつずつ貰おうか。新年だし、ご馳走するよ。すみません、ここにいる子達に、ふたつずつ、はい、お願いします」
「ノエル先輩、ありがとうございます!未知のものということで、怖いかもしれないんですけど、先日エーリクと半分こにして食べたんです。その時、みんなには秘密にしておいてびっくりさせようって約束してたんです……あっ!!エーリク!あちらにスプリングロールの屋台が」
「おいしいの?それも東の国のもの?」
「あれは……すごいよ……絶対食べないと損!!」
「とりあえずみんな揚げまんじゅうを持ってくれ、ちょっとそこの小さなテーブル借りようか」
「ノエル先輩!ありがとうございます!うれしい……いただきます」
リヒトが声を上げて、揚げまんじゅうを食べている。
「僕達も頂こうか」
「はーい!いただきます!」
「わああ、これはたまらない……お茶が欲しくなるね、あの、例の烏龍茶とか。あまい!!」
ノエル先輩がこんなにはしゃいでいる姿は、久々に見るかもしれない。にやにやしつつ、ふたつあっさりとたべてしまった。
「これ、鳳以外の邸宅のみんなは食べたことないだろうなあ。きっと喜ぶと思うんです。お土産に、買いに行ってきます」
僕は露天に近づいて大きな箱に沢山入っているものを買い求めた。こういうおめでたい時に、お金というのは使うのだと思いながら、バングルをかざす。
「おまたせしました!邸宅の大テーブルの真ん中に置いておくことにしよう。鳳がすぐに気づいて、あっつあつのままたべるとおもうし」
踵を、たたん、たたたたんと鳴らし、ボックスに入れてもらった紅白揚げまんじゅうを家へ送る。
「すごいな、エーリク!!やるじゃないか!!」
スピカが僕の髪をふわふわと撫でながらなんだか感動しちゃったよと笑う。
「デッキブラシで飛ぶの卒業したもんね、でも、どうして今でもデッキブラシをつかっているの?
「なんだか、愛着がわいてしまって」
「なるほど、本当にエーリク、最近とっても頑張っていてえらい」
「潜在能力が」
「高すぎるのです、エーリク」
「このままのペースでいったら大魔法使いになると思う」
三人の天使にそう告げられ僕は大いに照れてしまった。
「みなさま、彼処にあるスプリングロールの屋台に立ち寄ってみませんか」
「よし、いこう!」
「どんな物なんだろう……でも、ふわふわすごくいい匂いがする」
しずしずと屋台をめざした。細長い黄金色に揚がったスプリングロールと、うすくなかの具材がのぞける、生のものが店頭に並べてある。はぐれてしまうかもしれないと不安に感じてサミュエル先輩を見上げると、大丈夫さ、と言って手をぎゅっと手を繋いでくださった。優しい自慢の先輩、そして仲間だなとこころが弾んだ。
「わー!!どちらも本当に美味しそう!!」
「えっとね、これは我が天宮家の食べ方なんだけど……マヨネーズとケチャップを下さい。生春巻きはスイートチリソースを……お願い致します」
「春巻きはマヨネーズとケチャップでたべるのか……お醤油とか辛子のイメージだったな」
「おいしいですよ、とっても……あ、ありがございます!先輩方は、お醤油と辛子で食べてもいいとおもいますよ」
「お皿、すごく可愛い!赤と白のお花が沢山、ケチャップとマヨネーズで描かれている!これ混ぜながらいただくの?」
「そうだよ、ふふ……生春巻きにはこちらのスイートチリソースをどうぞ」
「最高だな」
僕たちは悲鳴をあげて、東の国からやってきた素敵なたべものを一生懸命食べた。祝福されているのだな、とおもった。
「なにこれ、本当に美味しすぎるんだけど」
「皮をそっと剥がして包むのがやや面倒ですが、ノエル先輩とサミュエル先輩にかかればちょちょいのちょいですよ。すごく簡単です」
「俺、味コピーするね、二分ばかり無言になるけど、怒ってるとかじゃないからあまり気にしないで」
「スーパーボールすくいがしたいけど、あの辺は人も多いよ、後で少し時間あけてからいこう」
サミュエル先輩が引率をして下さる。
「よし、じゃあいよいよ星屑駄菓子本舗と〈AZUR〉へいこう!」
「わーい」
僕らはどんどん降ってくる銀テープを振り払いながら、黒蜜店長とクレセント店長の姿を確認した。
「シュガー、もうちょっとパラフィン紙とってほしい」
「うん、鉱石べっこうあめが瞬く間に無くなる。どんどん紅い糸で束ねなきゃならないね。うちのお菓子だもん、率先してぼくがやる。ありがとう」
「こんにちは!あけましておめでとうございます!!」
「ああっ、チョコレートリリー寮の少年たちが来たよ、クレセント。あけましておめでとう、今年も仲良くしてやってね」
「あけましておめでとうございます」
「よろしくお願い致します!」
「やあ、あけましておめでとうございます」
しばしぺこぺこと頭を下げあった。
「ねえねえ、君たち。30分程アルバイトするつもりない?鉱石べっこうあめを束ねる仕事」
「やっていこうか、」
「うん、お手伝いできるの嬉しい!」
「資材はどこに」
「バスケットのそばだよ」
「あ、きょう、ミケシュはいますか?」
「うん、今ちょっと買い出し中。さて、みんなでやればすぐに終わる……あ、噂をすれば影。ミケシュ、おかえり」
「ロロ、みんな、あけましておめでとう!色々買ってきました。交代で食べましょう」
「ミケシュ、新年、おめでとうございます」
「肩へおいで」
「はい!」
ロロがふわりと空中に舞い上がる。そして、ミケシュ先輩の薄い肩に乗った。
「たまには乗せてやろう。甘やかすのは新年だから特別だよ。それにしても……皆、誂えたかのようにぴったりなマフラーを巻いてるね」
「蘭の天使っぷりがすごいなあ」
「エーリクが、編んでくださったんですよ」
「マフラー以外にも、手袋も。イヤーマフもです」
「言わなくていいのに!!」
「これは売り物になるよ」
「そんなそんな、大袈裟です」
「そういえばぼくが編んだ白のベレー帽、本当によく似合ってるね」
「ありがとうございます、とても気に入ってます、このベレー帽。エーリクたちは知っていますが、常にかぶってるんです」
「また何か編もう。こっそり隠すよ」
「みつけますよ!!絶対に」
「ふふ……ぼく星屑駄菓子本舗以外にも、アパレルブランドでも立ち上げようかな、今年は。クレセント、可愛いパターンおこしてよ」
「うん、でも本業も忘れないでね」
「はあい」
「あ、それから僕らもバスケット欲しいです」
「まだまだたくさんあるから大丈夫。バスケット、ミケシュが作ったんだよ。本当に器用だよね、なんでもできる。途中からぼくたちも編み方を教わって、三人で頑張って作った」
ロロがミケシュ先輩の肩から降り、鉱石べっこうあめを赤い糸で結ぶ作業に合流した。
「かわいいです、このラッピングも、新春にふさわしい」
「いい感じだよね」
「リュリュ、早い!」
「こつを掴めばすぐできるよ、サミュエル先輩が追いついてきた」
どんどんトレイに山積みになっていく。ノエル先輩が立ち上がり、黒蜜店長に堆くつみあげられたべっこうあめを渡してスツールに腰掛けた。
「アルバイト、おしまいだってさ」
「バスケット、バイト代。自由にお菓子詰めていいよ。お疲れ様!ありがとう」
「宜しいのですか?!」
「うん、年始だから大サービス。あんなにたくさん、むすんでくれたからね、どうぞ。バスケットもひとつひとつ色味や形が違うから、よく眺めてごらん」
「ありがとうございます!」
「ぼく、これにする。ちょっと歪なのが可愛い!」
「おれはこれ。 大きいやつ」
みんなそれぞれお礼を言ってバスケットを手に取り、表側に回った。
「ああっ、大変。見たことがないティーハニーがある」
「これは遠い異国のものなの。東の国より遥か彼方の国。ストロベリー味だよ」
「では、いただきます!」
「クロテッドクリーム、と、ゆめみるプチタルト、あとは、鉱石べっこうあめ……」
「ぱちぱちシュトゥルーデル、みんなで食べられるようにいっぱいいれちゃおう。あと、流星チュロス」
「目移りしちゃいますね。ぼく、えっと……この可愛い市松模様のクッキーと、あと……ロリポップありますか?」
「あるよ、七色のかわいいやつが。今出すね」
「かわいい!ください!」
「はい、どうぞ」
「きらきらスコーンも、とっても、美味しそうです」
「それは頑張ってシュガーが作ったんだよ」
「ばんばん焼いた。多分美味しいと思う。まだまだ裏手にあるから足さないと」
「じゃあ、こちらも」
星屑駄菓子本舗と〈AZUR〉の露天は本当に大人気だ。客足が途切れず、大変な騒ぎがずっとつづいている。
「黒蜜店長!クレセント店長!遠くから失礼します!僕たち、そろそろお暇しますね!!頑張ってください!」
「楽しんでね!気をつけて!!」
「ありがとうございました!」
「ミケシュ、頑張ってください」
「はーい!」
「しかし、すごい人だった!そりゃあそうだよな、安すぎる」
「でも、たくさんお茶菓子を手に入れたね!」
「うれしいです。そしてこのバスケットは、鶏からたまごをとるときに使おう。ちょうどいいものが手に入って幸運でした」
僕は、スーパーボールすくいに行こうとみんなを誘った。ノエル先輩が意気揚々と立ち上がる。
「よし、ちょっと行ってみよう。誰がいちばん多くすくえるか、勝負しようぜ」
「ノエル先輩に決まってるじゃないですか」
「いや、サミュエルもかなり上手いよ」
「僕も負けません!」
「蘭、自信あるんだな、それなら賭けないか」
「賭けをする程は上手くないかも。そして賭けるものにもよります」
「ロリポップかホットショコラ」
「じゃあ、ロリポップで。それなら勝負します」
結局サミュエル先輩と蘭が三つすくいあげ、大きいものをより多くすくった蘭が勝者となった。ノエル先輩は本人曰く、調子が悪かったそうだ。
「あ、初雪……」
ロロが呟いて、空を見上げた。そして、手袋についた雪の結晶をみつめている。
「きれい」
「今年も良い年になるといいね」
「良い年にするさ……さあ、みんな、冷えこんできたし、チョコレートリリー寮へ帰ろうか」
手をつなぎ合い、僕たちはゆっくりとチョコレートリリー寮への道を歩き出した。今年も何事もなく、皆が幸せであることを祈り、見上げた空から、つめたい雪片がまいおりてくる。

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