見出し画像

スピカの写真集②【チョコレートリリー寮の少年たち】

立夏が、机上にあった小さなベルを鳴らしてママ・スノウを呼んだ。メモを渡している。
「立夏くん、ありがとうございます……あと、ご学友一同のお写真の件は……」
「せっかくの写真集だし、みんな、協力しよう」
「はーい!」
「やった!たのしそう!」
「ぼくはすみっこにいていいですか」
「ロロは僕が責任をもってセンターに」
「わあ、どうしよう。リボンの編み込み、気合い入れなきゃ!可愛く撮ってくださいね」
「ぼくもワックスつけ直さなきゃ……」
リヒトと立夏がのりのりだ。悠璃先輩はぐるりと僕らを見渡した。
「天使長のエーリクくんのまわりにロロくんたちを配置して、身長順にひな壇状がいいかな……あとはノエルとサミュエルだけど、一応写っとく?」
「一応ってなんだよ」
「酷い扱いだなあ」
ものすごいレンズがくっついているカメラで、三枚ほどシャッターを切り、満足気ににやにやしている。
「よし、ありがとうございました。いい写真集になりそうで嬉しいな」
「悠璃先輩、撮影の日時なのですが……」
そこまで言ったところで、疾風怒濤の勢いでジュド先輩とよろめき隊!の精鋭部隊と思われる人達がばたばたと轟音を伴って現れた。ジュド先輩が、三回ホイッスルをならすと、僕らの前で見事に足並みを揃えて、起立!礼!と折り目正しくお辞儀をした。僕らも頭を下げる。
「こんにちは本日はお日柄もよくすばらしいいちにちですねスピカ君そしてご学友の皆様ごきげんよう悠璃何をやっているんだ貴重なファイルを勝手に持ち出したりしてそれはよろめき隊!のものだろうさっさとこちらへ寄越すんだ」
一息で言う。悠璃先輩がファイルの入ったエコバッグをだきしめて、泣きそうな表情で首を横に振った。
「この写真たち、スピカ君が使っても良いと仰ってるんだよ。スピカ君、一言言ってやってください」
スピカはクレープをほおばりながら、頷いた。
「クレープを夢中で食べているスピカ君すごくかわいい皆さん含めて一枚お写真を頂戴しても……?」
「みんな、いいよね?」
僕がそう言うと、リヒトが手を挙げた。
「はーい!」
天使たちもうんうん頷く。
「まあ、こんな感じですので、どうぞ」
「ありがとうございます!はい、チーズ!サンドイッチ!」
フラッシュは遠慮してくださった。
「スピカ君このファイルの写真使用許可いただけるって本当ですか僕なんだか感激してしまってそのあのえっとお礼のほうなのですがスピカ君そしてご学友の皆様欲しいものがあったりしますかただいまスピカ君によろめき隊!の運営活動資金は非常に潤沢ですなんでも遠慮なく申しつけてください」
「えっ、いいですよお礼なんて。強いて言うなら仲良くしてやってください」
その言葉を聞いてよろめき隊!の精鋭隊員が二、三人膝から崩れ落ちた。
「ああスピカ君大好きですでもあまりにも申し訳ないのでそうだここに集っている皆さんに一冊ずつ写真集をお渡ししますあまりスピカ君に報酬とかお礼とか言い過ぎてはいけませんね申し訳ありませんでしたそれでよろしいですか」
「充分すぎるくらいです。よろしくお願いします。そして、撮影日時の事なのですけれど」
「いつがよろしいでしょうか僕らはいくらでも融通がききますのでスピカ君とご学友のみなさまに合わせます」
「夕ご飯を食べたあとで良ければ、今日でも良いですよ」
スピカがにこにことわらいながら視線を送ってくる。僕は小さく微笑んで、テーブルの下でそっと手を繋いだ。
それを察知した立夏が、かなり優しくない力で手を握りしめてきた。後でごめんなさいしなきゃ……
「頑張ろうね。僕もお手伝いするし、みんないるから、かっこいいところ見せてよ」
「うん。頑張る」
はらりとリボンを解いてみせる。よろめき隊の最前列にいた二人がぱたりとたおれ、感嘆のため息がデイルームに充ちた。なるべく高い位置にまとめようとしているのを、悠璃先輩が手鏡を持ちサポートしているその手がふるふると震えている。
「ではそういうことに致しましょう嗚呼こうして萌えがまさに燃え上がり心の臓を焼け焦がしわれわれはぐつぐつふつふつ愛を煮つめながらあなたの事を見つめ慕っているのですよスピカ君」
「あらあら、大勢で楽しそうなこと。お飲み物、お持ちしましたよ」
ママ・スノウがテーブルの端にドリンクをまとめておいてくださった。お礼を言ってめいめい手に取る。
「皆さん、ぜひお夕飯、ご一緒にいかがですか?」
スピカが愛想良く提案する。ジュド先輩が胸に手を当てて深々とお辞儀した。
「なんということでしょうスピカ君からお誘いをいただけるなんて嗚呼」
「僕、撮影終了までもたないかもしれない……」
「悠璃先輩、そんなことを仰らないでください。きょうの献立はなあに?ロロ、リュリュ、蘭」

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?