見出し画像

春の学院祭【チョコレートリリー寮の少年たち】

今日はいよいよ、春の学院祭当日だ。僕たちのクラスからは、蘭の提案でお好み焼き、というものを鉄板で焼いて提供することになった。昨日の夜中まで頑張って作っていた「スピカ君のとってきたうみたてたまごのお好み焼き」という大きな旗が春の暖かい風に揺れている。
「たまご、おれがとってきたって、なんでわざわざ書くんだよ」
「そのほうがうれそうです、から」
「黒蜜店長にも、アドバイスしていただいた」
「うん!何せファンクラブがあるくらいだもん」
「まあ、実際おれがとってきたたまごでつくるから、嘘はついていないけどさ」
「ぼく、どんどんやきます、蘭にサポートをお願いします」
「まかせて。実家でよく作ってたからあてにしてくれていいよ」
「おお!ちびっこたち、たのしそうだな!」
「ノエル先輩!あれ、おひとりですか?」
ノエル先輩が巨大な虹色のコットンキャンディを手に、露天へとやってきた。誰も伴っていない。珍しいことだ。
「俺にもひとつお好み焼き焼いてよ、コットンキャンディー皆でむしりながらたべようぜ。あとからサミュエルが来ると思う。あいつ、今クレープ作りまくってるよ、セルジュはどこかなあ。悠璃の姿も見ないな」
ロロと蘭が鉄板に生地を流し、じゅうじゅうやきはじめた。
「なにあのこたち!かわいい!」
すれ違う人達がロロと蘭を見て悲鳴をあげる。リュリュがすかさずフライヤーを押し付けた。
「わあ、モノクルのきみもかわいい。一年生だね」
「どうぞ、クーポンつきです。一生懸命焼きますので、お立ち寄りください」
「後で行くね」
「よろしくお願いします」
「なるほど、そうやってたまごのうえに生地とかきゃべつをおいて、おりたたむのか。すごくいいかおりがする。ところでこの旗の、スピカがとってきたうみたてたまごをつかっているっていうのは本当なのかい」
「はい!嘘じゃないですよ」
「足りない分は黒蜜店長がお菓子に使うたまごやさんから、横流ししてくださいました。あとでさらに持ってきてくださるそうです」
「ちょっとずるいな。まあ、たのしければいいか」
「スピカ君皆様本日はお日柄もよく僕はすばらしいお好み焼きをてにいれるためにやってまいりましたこんにちは」
ぺこぺこと腰を折り畳みながらジュド先輩が早足でやってくる。都市伝説に現れそうだなあと思いつつ僕らもぺこぺこお辞儀した。
「こんにちは!」
「スピカ君ご学友のみなさまこんにちはお好み焼き十五枚ください例によって厳しい試験を乗り超えた精鋭よろめき隊!の隊員と写真部のメンバー達の分ですエプロン姿尊い」
「それならおれも焼こうかな、ちょっと鉄板、少し右につめてくれ。サービスしよう」
「あああ……」
「ノエルー!!」
「お、小鳥遊も来た」
「こんにちは!みなさん。先日は撮影、ありがとうございました。お好み焼き、受け取りに、僕も協力します。ジュドったら、お辞儀しながらすごいスピードではしっていっちゃうんだもの、ちょっと怖かったよ」
「ああこれお代です」
「ありがとうございます、そちらの貯金箱へお願いします」
スピカがヘラを駆使しながら器用にお好み焼きをやいている。練習が功を奏し、なかなかのスピードだ。スピカは、本当になんでもできて器用だなあとおもいながら、ぼくはパックにお好み焼きをつめた。
「蓋する前にスピカにマヨネーズでなにか描いてもらおうよ」
「いいよ、やろうか。リヒト、焼くのかわって」
「ああああああ、お写真頂戴しても……?」
「いいですよ、さて、可愛いお好み焼きを完成させます」
ボトルに入っているマヨネーズで落描きを始めた。ハートや花を愛らしく描いていく。
「ぎゃー!!!!」
「静かに!!ジュド」
すごいフラッシュが焚かれる。スピカは負けじと色んなものを描いている。
「ふう、こんなものですか」
「尊い!!!!!」
ジュド先輩が叫び、何枚も何枚も写真を撮っている。
「エプロン姿も愛らしい皆さんちょっと寄ってくださいご学友一同の写真を撮りたいです」
「わーい!」
リヒトがスピカの腕をとり、にっこり笑う。僕もロロとリュリュと蘭をつかまえて、抱きしめた。
「俺も入ろう」
「ノエルはいいよ可愛くないし」
「酷いなあ!まぁ気が済んだらコットンキャンディーむしってたべなよ、みんなでシェアしてちょうどいい量だ」
「いただくね」
「うん、ちびっこたちもかわるがわるおいで」
「はあい」
「やあ、みんな!クレープ焼きからときはなたれたからやってきたよ!」
サミュエル先輩がぱたぱた走りよってくる。
「おつかれさま!!どうだい、守備の方は。とりあえずコットンキャンディーを」
「ん、まずまずと言ったところ。きれいだね!ありがとう……おいしい」
「悠璃とセルジュの行方を知らないか」
「僕は知らない。てっきり、君が把握しているのかと思っていた」
「はい、ノエル先輩、お好み焼きです」
「ありがとう。美味そうだな!さすがスピカ、やるじゃん」
屋台に、行列ができ始めた。スピカがとってきたたまごという宣伝文句の効果が高そうだ。リュリュが頑張って列の最後尾はこちらと言って回っている。そこで、列からはぐれていた少年がノエル先輩のうでをひいた。
「悠璃先輩なら、よろめき隊!の部誌を売っていますよ。特装版が売れまくっててすごいです。ぼくはそこでスピカ君がお好み焼きを作っていると知ったんです。それで、ここへやってきたという訳で」
「えっ、そうなの?宣伝もしてくれているのか」
「はい!おいしそうだなあ、スピカ君、今日も髪の毛縦巻きにしている」
「隠れファンか、きみも」
「まあ、そんなかんじです。部誌は毎号買っていますよ。スピカ君、握手してもらってもよろしいですか?」
「あ、はい!おれでよかったら」
「みんなー!!お疲れ様!!楽しんでる?」
そこへ黒蜜店長がバックヤードへやってきた。クーラーボックスからたまごをとりだし、僕が持っていたざるにいれてくださる。
「黒蜜店長!お疲れさまです!たまご、ありがとうございます」
「すごいヘラ捌き。かっこいいよ!!ぼくはほかにまわらなきゃいけないところがあるからここで失礼するけど、いいなあ、楽しそうだなあ」
「それならぜひお昼にこちらを」
スピカが気を回してふたパック、黒蜜店長に手渡す。
「わあ、ありがとう!!後でクレセントといただくよ。とっても美味しそう」
「それほどでも、でもこころはこめました」
悲鳴が上がる。スピカは軽く手を振りそれに応えた。
「スピカ、とんでもない事になってるね」
「自分でもなぜこんなにすかれているのか、よくわかっていません」
「そういう自然体なところだと思うよ。みんな、今日も制服だったお洋服、そろってきてくれてありがとう」
「黒蜜店長とクレセント店長の愛情がたっぷり籠った素敵なお洋服ですから!」
微笑むと、想定外の力強さで、黒蜜店長が僕の腕をひいた。
「わぁ」
「今週末、きみの誕生日のパーティーに誘っていただいている。そこでもまた会おう、なにかしたくしておく。おたのしみに」
「うれしいな、黒蜜店長。よろしくお願いします」
「黒蜜店長は本当にすごいよなあ」
そう言いながらノエル先輩が、小さくちぎったコットンキャンディーを黒蜜店長に食べさせている。
「おちゃ、ほしい」
「どうぞ、ヴィス水です」
「ありがとうリヒト」
「みんな、持ち場に、もどってください!」
「おやおや、そんなわけでまたね」
「お疲れ様です!」
すごい行列だ。旗に、黒蜜店長が仕入れたたまご、と書こうと思ったけど、スピカだけでも効果は抜群だ。
「腹ごしらえするからちょっと椅子かして」
「どうぞ、ノエル先輩」
「いただきます!わ!めちゃくちゃおいしいな、焦げ目が香ばしいし、生地がふっくらしている。キャベツの甘みとたまごがすごくあってるし、マヨネーズがまた、いい感じ。ソースも甘辛くておいしい。いや、たいしたもんだ、これを焼いてくれたのは蘭だね、すごいぞ」
「えへへ……嬉しい。ノエル先輩、大好きです」
「俺も蘭が大好き。ありがとうな」
「焼くのかわってくれるかい?エーリク。コーチをする」
リヒトが軽やかに声をかけてきた。
「う、うん、僕でもできる?」
「簡単さ、慌てて火傷をしないよう、それだけはきをつけて」
「わかった」
僕は迷惑なんじゃないかというほどあぶなっかしい手つきで、リヒトに教わりつつ一枚目のお好み焼きを焼いた。
「上手上手」
「でもきみや天使たちにまかせたほうが、絵面的に綺麗なんじゃないかなあ」
「きみだって天使のひとりさ」
「そうかなあ」
「とにかく頑張ってやいてみてごらん、少し休憩したらぼく、焼くの手伝う。そうしたら君はフライヤーをリュリュとまいて」
「それならまかせて」
「うん、とにかくお客さん逃がしたくない。焼いて焼きまくって」
「わ、わかった、がんばるね」
スピカ君によろめき隊!と写真部の皆さんへと愛情を込めて僕はじゅうじゅうお好み焼きを焼いた。可愛いらくがきをサービスしているスピカの分まで頑張ったつもりだったけど、活気と熱気にやられ、ゆらゆらふらふらと露天の奥のスツールに腰掛けた。
「エーリク、大丈夫ですか」
「うん、なんとかへいき。ごめんね、少し休ませて」
体力が無い自分が情けない。ゆっくりさせてもらうのが悪い気がする。そのくらいこの露店は大盛況だ。
「スピカ君しっかりお好み焼き頂きました僕らはこの辺で失礼致しますものすごく待たせてしまい後続のお客様にはご迷惑をおかけいたしましたスピカ君愛おしい愛おしい愛おしいそれではまた」
「ありがとうございました、皆さん、頑張りすぎず楽しんで」
「ありがとうございました!」
声だけはまだ出る。僕は一生懸命お客様にありがとうございますとおれいのことばをかけた。
「スピカがかなり頑張ってるな!よろめき隊!のみんなや隊員でなくてもファンです程度の方々にすごくサービスしている、ちょっとしたご褒美を用意しよう」
「何にしましょう」
「まあかんがえておくさ」
「僕、リュリュとフライヤーを撒いてきます」
「リュリュも休まず頑張りすぎているから、適度に適当にと伝えて」
「はい!いってきます!」
フライヤーを手に、意気揚々と表へでた。
「こちらは奇妙奇天烈摩訶不思議、スピカのうみたてたまごの、美味しいお好み焼き屋さんです!みなさま、お誘い合わせの上、どうぞご来店ください!」
リュリュが口上を述べつつ高らかにブルースハープを吹いている。お捻りが飛んできて、僕はそっとそれを回収し、リュリュの肩を抱いた。
「チョコレートリリー寮生特製ですよー!」
「わあ、可愛い一年生!」
さらに行列が出来上がる。そんなことしか言えない自分が情けないけど、需要があるらしい。
「三つ、もらえる?」
「あ、はい!承ります」
そんな感じでメモをとりだした。その方が並ぶ煩わしさも少しは軽減するだろうと、リュリュと目配せした。
「うわー、大盛況だ!!ああっ、スピカ君、凛々しい!!!!」
悠璃先輩がふらふらとやってきて、ゆらゆらゆらゆらと体をゆらめかせる。スピカがさっと背中を抱き、そこでも悲鳴が沸き起こった。
「あ、あわわわわ……」
「大丈夫ですか」
「ん、あ、わぁ、え、ふぃ、ふあああああ」
舞台役者さながらだ。拍手のせいで悠璃先輩はますますだめになってしまって、ふらふらとパイプ椅子にこしかける。
「誰か、水分を」
「何か手にいれてくる」
僕は真向かいでスパークリングのヴィス水を配布しているテントへと駆け寄った。ピーコックブルーのリボンタイを結んだ二年生が立ち上がって迎えてくれる。柔和なほほえみをたたえた、優しそうな印象の先輩だなあとおもった。
「こんにちは、一年生のお好み焼きの屋台、すごい人だね、あとで僕もいくよ。とりあえずおみずをどうぞ」
「すみません、ポットを二つ、あと紙コップをいただけないでしょうか」
「あ、かまわないよ、使い終えたらあとで返しに来て。これ、オールドミスから借りてるものだから。僕はレーヴ。チョコレートリリー寮に住んでる。君の名前をきかせて」
「エーリクと申します、エーリク・ミルヒシュトラーセ」
「もしかして、ミルヒシュトラーセって、大きな御屋敷の……天真爛漫な親御さんが居たりしないかい?」
「えっ、あ、なんで、そのことを」
「僕の父のともだちで、そんなお名前の方がいたなあってぼんやり知っている。もしかしたら君とも、パーティーで何度かあっていたかも」
「僕、本当にダンスが苦手で、ミルヒシュトラーセ家のダンスパーティーはいつも病欠ってことになっているのですが、そのことをご存知なら間違いないです、改めまして、エーリクです。よろしくお願い致します」
「あはは、こちらこそ!今度ワルツでも教えてあげる。鳳さんが匙を投げたと聞いているよ」
「鳳のこともご存知ですか」
僕はびっくりしながらポットを受け取った。ずしりと重たい。
「勿論!あとでゆっくり話そう。父たちのやり取りで、誕生日パーティーに参加させていただくことになっているみたい。たのしみにしてる。まずは、水分補給をしなきゃいけないこがいるのだろうから、急いでもっていってあげて。あと飛び級のセルジュから伝言、お好み焼き一枚とっといて、後で行くとの事だよ」
そう言って指をぱちんと鳴らした。眩く星屑が煌めき、トレイの上を旋回する。
「すぐ元気になるように、まじないをかけておいた」
「助かります、ありがとうございます」
「のちほど。素敵なご学友の皆様や先輩方も紹介してもらいたい!」
「よろしくお願いします!では、一旦失礼致します」
「エーリク!ぼく、ポットひとつ持ちます!」
ロロがやってきて、軽い仕草でポットを持ち上げてくれた。
「うん、なんかね、お父様同士がお友達というすごい先輩に借りたの、びっくりしちゃった。チョコレートリリー寮にお住いとのことだよ。あと、セルジュ先輩が後で来るって」
「わあ、そうだったんですね、まあ、たぶんミルヒシュトラーセ家って言えばだいたい通じちゃいますよね。とにかく、みんなにお水をくばって歩きましょう」
早足にバックヤードへ向かう。パイプ椅子から転げ落ちそうになっている悠璃先輩を抱き起こした。
「悠璃先輩、これをお飲みになってください」
「うっ、スピカ君の美しさにあてられてしまった」
「このお水を飲めば、すぐげんきになります」
「ふたりとも、やさしいね。ありがとう」
「どんどん焼けるよ!渡してあげてくれ。エーリクの機転の気かせ方がとても素晴らしい、オーダーとってくれてありがとうな」
いつの間にかノエル先輩が鉄板を支配し、すごい手さばきでお好み焼きを焼いている。
「ノエル、すごいなあ」
サミュエル先輩がのんびり呟いて、ヴィス水を一口飲んだ。
「まあ任せておけって。チョコレートリリー寮、もう存在だけで愛おしいから、これだけの列ができるんだよ。俺はこういうことだけは得意だからさ、本当はちびっこたちの仕事だから手伝っちゃいけないのかもしれないけど……あ、休み終えた子からでいいから、きゃべつを刻んでくれないか」
「そういうのは僕が得意。やらせて」
サミュエル先輩が綺麗なマッシュルームカットの髪を揺らめかせ、奇跡みたいな美しさで微笑んだ。
「じゃあ僕らは生地をつくろうか」
「まだまだ全然足りないからどんどん作ってくれ!」
「うわー、たまごがぜんぜんたりないね」
「なくなり次第露店閉めよう。それからは、すきにめいめい遊んで歩こう。大儲けだぞ、この貯金箱もうぎっしりいっぱいだ」
「来年からはもう少したまごを沢山仕入れられるルートを考えておかなきゃ」
「今年はスピカががんばったし、黒蜜店長も協力してくださって、よくやったと思うよ。勉強になるよね、こういうことって実際やってみないとわからない」
「わあ!ノエル先輩だ!!握手してください!」
身体の小さい一年生が手を伸ばした。ノエル先輩がぎゅっとその手を取る。
「お、おお、なんだ、スピカの間違いじゃないか?」
「いえ!ノエル先輩!!いつも給食当番の時、すごいです、見蕩れてしまっていて、今までお声がけできずにいたんです」
「俺のファン!まさかの!」
「ノエル先輩のファンはかなりいると思うんです。三年生だから、なんとなく遠い存在というだけで。いつもデイルームで、メロン曹達をのんでいらっしゃいますよね、こちらの、えっと、一年生のリヒトくん、ノエル先輩のお膝に乗ってるのがとても可愛くて、いいなあって思ってて、その……」
「それなら、友達になろうよ。リヒトだよ、よろしくね!」
「わあ、その、本当にいいのかな」
「お名前を聞いてもよろしいですか」
「立夏です」
「立夏!すてきななまえ!」
「もしかして東の国にルーツがあったりとか……」
「あ、うん!蘭くん、だよね、きみは」
「僕のことまで知ってたんだ。そうだよ!なかよくしてやってね」
「うん、よろしくお願いします!」
「ほらほら、仕事しない子達はみんな裏方に回って話をして!」
「はーい!きゃべつ切ったよ、ノエル」
「たすかる!ついでにたまごを二十個ばかり割ってこちらのボウルに」
「はいはい」
すごい連携プレイだ。僕らはすっかりぐったりしてしまい、テントの裏へ逃げ込んだ。こういう時、先輩たちは本当に強いなと実感する。
「ポットを回収しに来たよ、わあ、一年生、みんな可愛い!!」
レーヴ先輩が露天の裏手から顔をのぞかせた。続いてセルジュ先輩がやってきた。
「やあやあ、みんな、お疲れ様」
「セルジュ先輩、なにをなさっていたのですか?全くお姿をお見かけしなくて心配していました。これ、セルジュ先輩のぶんです」
「ありがとう!僕はケバブを作っていたよ。それなりに大変だったけど、楽しかったなー」
「みんな、お疲れ様。これ焼き終えたらおしまいだから、撤収の支度を。セルジュ、魔法で一発だろ、お好み焼き食べ終えたら、露店、片付けるの手伝ってくれ……あれ、きみははじめましてだ」
「みなさん、初めまして。レーヴと申します。ラストワンのお好み焼き、ぼくが買ってもいいですか?……ねえねえ、エーリク。バースデーパーティー、一体誰が来るの?」
「ここに集まってるみんなです」
「はじめまして!」
「はじめまして!!」
「立夏も僕のバースデーパーティー、くる?席もうけるけど、よかったら」
「えっ、エーリクくん、近くお誕生日を迎えるの?」
「うん、それでね、邸宅から招待を」
「この邸宅っていうのがまたすごくてね……お好み焼き、いただきます!おいしい、幸せ……この縁がかりっとやきあげられてて、最高!」
「実家はそんなにたいしたことないよ、少し大きいだけ」
「いいのかな、ぼく、おともだちになったばかりだし」
「いいの、ぜひ来て。ノエル先輩たちもいらっしゃるよ、なんだか盛大に催すってうちの人たちが言ってるから、どんな規模になるか分からなくて僕も怖いんだけど……星屑駄菓子本舗と〈AZUR〉ってわかる?」
「うん!よくミルクケーキを買いに行く」
「おいしいよね!黒蜜店長のミルクケーキ!黒蜜店長とクレセント店長も参加してくださる」
「えーっ、すごい!おふたりとも有名人だよね!い、一体どんなパーティーになるのかな、ぼくも、よかったらなかまにいれてほしい」
「もちろんさ、じゃあそのように連絡しておく」
「ひと席ふた席増えても支障ないの?」
「うん、まったくない」
「へええ、凄いねえ。ありがとう、嬉しいな。ご実家の皆様によろしくお伝えください」
「よし!はけたはけた。セルジュ、集中!」
「集中ー!」
なんと露店がぽんと、手のひらに収まるサイズになってしまった。ノエル先輩がポケットにしまっている。
「さあみんな、ぶらぶらしにいこう」
「先輩方、本当にありがとうございました!いこう!エーリク、手をつなごうよ」
リヒトが腕を絡めてくる。そっと手を握ると、けぶるように笑った。
「立夏は俺が責任をもってエスコートする」
「わ!うれしいです、ノエル先輩。よろしくお願いします」
「いいなあリヒトくん、エーリクとおててつないでて羨ましいな」
「ぼくもエーリクとてをつなぎたいです」
「僕も!」
「あはは、順番、交代しながら歩こう!」
僕たちはのんびり、露店を覗いて回った。発光する石が入っているヨーヨーを、ロロが三つも釣りあげたり、スピカが射的でペンシルロケットを打ち落としたり、楽しく過ごした。
「次の学院祭が既に楽しみだよな」
「うん、あ、そうだそうだ、みんなに提案がある」
「なあに?蘭」
「あした、アストロフィライト寮の学食に行ってみない?もちろんチョコレートリリー寮の学食の味には全然かなわなくて、がっかりさせちゃうとおもうんだけど、ドリンクバーが楽しいんだ。色んなお茶やジュースが、ずらりと並ぶ姿はなかなかときめくものがあって」
「たのしそう!」
「まったりすごしたいね」
「最低最悪な、レンズ豆のスウプが出たら本当にごめん、あれは美味しくない、本当に嫌いだ」
「そんなに?」
「忌まわしいと言っても過言ではないよ。いつも大量にみんな残すのだから、もう作らなければいいのに」
「へえ、面白そうじゃないか。俺はなんでも美味しく食べるけど、その俺でも残すと思う?むしろわくわくするな、そんなに不味いスウプが出るかもしれないなんて」
「ノエル先輩、正気ですか」
蘭が立ち止まって、ノエル先輩を見上げている。
「なんて言うか、チャレンジしてみたいというか。すべらない話になりそうじゃないか」
「まあ、とにかく明日、行ってみましょう」
ぽつぽつとともっていた露店のあかりももうほとんど消えてしまって、僕たちはチョコレートリリー寮への道を歩き出した。
「なんだか、さみしいな」
「よしよし、おいで、ロロ。後で一緒に、お風呂に入ろうか。バスボムがあるよ。背中流してあげるからそんなに泣きそうな顔をしないで。また秋に学院祭があるから、すぐさ」
「うん……そうですよね!次は何を作って売りましょうか、またお好み焼きでもいいかも!あ、ぼくやきそば!やきそばつくってみたいです!」
「ちょっと気が早いけど、ロロらしくて可愛いな、そういうところ。ほら、お好み焼き、部屋で食べるといい。確保しておいた」
「さすがノエル先輩!!」
「お夕飯食べ損ねたなって思っていました!」
「僕からはこれ。ケバブ。たくさんたべて」
「セルジュ先輩!!こんなにいっぱい!!」
「ありがとうございます!!」
「この平たいパンみたいなの面白いですね、トマトがたっぷり。うれしい!よい香りがします」
「それは、ピタパンっていうんだって。お肉も野菜もたっぷり挟んだから。僕からのごほうびだよ」
「うれしい、ありがとうございます!」
「ところで、レーヴ先輩と立夏は何号室なのでしょうか。明日からみなさんで集ってご飯を食べましょう」
「僕は310号室」
「あ、ぼくは126号室だよ」
「いいね、ご飯の提案、すてきだ。セルジュ先輩がすごいんですよ、飛び級されるだけの事はあって、たくさんたくさん、お皿をテーブルに持ってきてくださる」
「うん、給食当番のみんなも少しは助かるかなって、魔法で喚んでる」
109号室の扉の前で、みんなぎゅっと抱きしめ合い、お互いを讃えあった。
「それじゃ、またあしたの朝会おう」
「はい!先輩方、ありがとうございました!」
「おやすみなさい」
「お疲れ様、おやすみ」
手を振ったりお辞儀をしたりして、先輩たちと別れた。
「立夏、ちょっと109号室によって行って。みんなでご飯食べよう。きみがよろこびそうなほうじ茶があるよ」
「うん!ふるさとのあじがしそうでうれしい。ありがとう、エーリク」
そこからあとは、お好み焼きやケバブをたべながら反省点や楽しかったこと、秋の学院祭は何をしようかということを語り合った。リヒトは、お芝居をやらない?と言っている。ロロは焼きそばを推していて、きっとロロなら問題なく作れるねというはなしになった。
蘭はあんず飴を売りたいと提案し、どれも迷っちゃうよねと笑いあった。
随分、仲間も増えたなあと、お茶を注いでまわった。どんどんたのしくなるチョコレートリリー寮での生活に思いを馳せて、僕はしあわせものだなと、心の底から思ったのだった。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?