エレキギターのピックアップ交換の際に検討すべきもの(ピックアップの選び方の指針)

1. はじめに
ギター本体の部品に関する議題で紛糾するものは数あれど、木材を別とするとその話題の大きさはピックアップに勝るものはないであろう。
しかし、大抵の場合、ピックアップに関する話題はその音を想像するうえで理解は容易でない。
その大きな理由は、木材などが構成するアコースティックな部分に関しては程度の差はあれ、材が硬ければ硬い音が、空洞があれば空洞の音が、重い音・軽い音etc...といったようにその多くは非常に直感的であるのに対し、ピックアップに関しては、後の章でその理由を見ることになるのだが、そうではないからである。

その一方で、ピックアップが扱う電気回路に関連する導線・はんだ・スイッチ接点は、物理的なモデルを構築するうえでは、ギター本体の木材・金属・プラスチック・接着剤などが複雑に接合された(しかもその多くは均一でない物性をもつ)系に比べて、はるかに理想的な系(=交流回路モデル)として扱うことが可能である。
したがって、エレキギターに載せられるピックアップのその多くは明確に設計されたものであり、またそのしくみを理解することで驚くほど柔軟(あるいは大胆)な調整を可能とする部分でもある。

この文章の目的は、主にエレキギターのプレイヤーを対象に、エレキギターのピックアップを交換する際に役に立つ知識と、交換のための会話に必要な共通言語を理解するための基本的な土台を提供することである。この目的のため、ギターを弾く上で不必要な極端にアカデミックに厳密な議論(磁場と磁束密度の違い)やあまりに特定の話題(配線・コンデンサの音はどのような理由で系統的に異なって聞こえるのか?)などは省かれている。

続く2章では、ピックアップのしくみについて、その最も根幹をなす法則(ファラデーの電磁誘導の法則)について説明する。これは、ピックアップの固定方法(エスカッションかダイレクトマウントかなど)がなぜ顕著な差を生み出すのか、を理解するのに役に立つ。3章では代表的なピックアップに関し、ストラトキャスター・テレキャスター・レスポール/ES-335に関連したピックアップについて説明し、ピックアップがエレキギターのなかでどのような役割を果たすのかについて話題を広げる。その帰結として最後の4章は、ピックアップの交換を検討する際に、具体的にどのようなことを考えるべきかについての内容に捧げられる。

2. ピックアップのしくみ
ピックアップとは「音(機械的な運動)を電気信号に変えるもの」でありギターをエレキギターとするまさに心臓部分である。この、機械的な運動エネルギーを電気的なエネルギーに変える、という意味での身近な例は自転車の(電池式でない)ライト、あるいは手回し式のスマホ充電器だろう。これらは普通、磁石と巻いた導線(=コイル)で構成され、磁石とコイルが相対的に運動したときにコイル端部間に起電力が生じ、回路が構成されていれば電流が流れる(発電する)。これは物理の世界の言葉では"ファラデーの電磁誘導の法則"であり、より明示的には言えば「コイルを貫く磁場(磁束密度)が時間的に変化すると電場が誘起される」という表式が用いられる(電磁気を支配するマクスウェル方程式のうちのひとつ)。上の発電の例では、固定された磁石に対しコイル(あるいは固定されたコイルに対し磁石)が動くことによりコイルが感じる磁場が(時間的に)変化し発電する、というしくみである。

(ピエゾ式ピックアップではない)一般的なエレキギターのピックアップも上の例と原理は全く同じである。すなわち、磁石とコイルが主要な部分で、コイルが感じる磁場が時間的に変化することで電気信号が生み出されるということである。ただし、自転車のライトあるいは手回し発電機の例とは違って、エレキギターの音をつくる電気信号の大部分はコイルと磁石が相対運動することによる発電ではなく、むしろ、(鉄が主成分の)強磁性体である弦の振動が直接的にコイルが感じる磁場を変化させることによる発電である、という事実に注意する必要がある。これをより簡単に言い換えると、途中のアカデミックな話は省くことにして(興味のある読者は一般的な電磁気学の教科書を参照するよう勧められる)、磁石がつくりだす磁場の中で磁性体(つまりギター弦)が運動すると運動とは関係ない空間の磁場も磁性体の運動に起因して変化し、その結果ギターの弦振動は直接的に磁石とコイルによって電気信号に変換されるということである。

以上の話から、2つの重要な視点が得られる。一つは、ピックアップの磁石を変える(磁場が変わる)あるいはコイルの巻き方を変える(コイルの空間的な位置が変わる)とき、エレキギターにとって弦振動は全く異なって見える(!)ということである(注:コイルの巻き方は浮遊容量を変化させるため回路的にも大きな差を生みうる)。またもう一つは、コイルが感じる磁場が変化することがエレキギターの音の拠り所であるから、弦とピックアップの相対振動あるいはピックアップの中の磁石とコイルの相対振動も音として出力されうるということである。このような理由で、ピックアップをエスカッションに吊り下げるのか木部にねじで固定するのか、で音が変化するのである。


さて、この章を終える前に、音を電気信号に変えるものの最も身近な例としての「マイク(マイクロフォン)」についての話題に触れよう。ここでいうマイクとは空気の振動(=音)を電気信号に変えるもので、運動エネルギーを電気エネルギーに変換する観点ではエレキギターのピックアップと全く同じである(まさに磁石とコイルを用いるマイクもある)。ただし、ふつうマイクは空気の振動を電気信号に変えるという意味で用いられるのに対し、ギターのピックアップは、上記で見たように、そのほとんどが空気を介さず弦振動に直接的に起因した電気信号を扱っているという点で「マイク」と異なるということである。しかしこの用語の使い分けは、文脈によって容易に理解できるはずである(ただし注意を払わなければ重大な誤解のもとになる危険性をはらむ!)。


3. 代表的なピックアップの種類
さて、それでは実際にどうやってピックアップを設計すべきだろうか。磁石の形、磁場の強さ、設置する位置、コイルの巻き方、磁石との相対的な位置など検討すべきことはたくさんある。
しかし、どのようなピックアップが良いのか、という疑問に対しては、ギターがなぜ木材(そして金属あるいはプラスチック)しかもローズウッドであったりメイプルであったりそれもどこの産地の木でないと駄目だということと同様に、歴史と経験(と理屈)に裏打ちされた”定番”が簡潔な答えとなりうるだろう。

以下、具体的にストラトキャスター、テレキャスターそしてレスポール/ES-335についてそれらのピックアップを見てみよう。

ストラトキャスターとテレキャスターはシングルコイルと呼ばれるピックアップであり、棒状の磁石(=ポールピース)をプラスチックの部品(ボビン)に刺しボビンにコイルを巻くことによってつくられる。
ストラトキャスターがプラスチックのピックガードにピックアップが固定されている構造になっているのに対し、テレキャスターのピックアップは金属プレートに固定されたリアピックアップと木部に直接固定され金属でカバーされたフロントピックアップとなっている。そして、重要な違いとして、テレキャスターのリアピックアップの裏側には強磁性体である鉄の板(銅で表面処理されている)が貼り付けられており、鉄の板がない場合と磁場が異なっている。
これらの違いにより、テレキャスターのリアピックアップはストラトのリアピックアップに比べて太く・パンチのある音質(これはこのためにコイルの巻数が多い傾向にあるということもあるのだが)になり、また逆にテレキャスターのフロントピックアップはストラトに比べて弱く・ウッディな響きとなり、カントリーやジャズに向いた音質と、特徴的なミックスポジションの音色をつくる。対してストラトキャスターは、金属的な響きの中にプラスチック板の空洞的・ばねの広がりを感じる(ときに不安定な)音色となるのでブルースプレイヤーに好まれるのである(そして極めてファズとよく合う!)。

レスポールとES-335に関しては、PAF(Patent Applied For:特許申請中)スタイルのハムバッカーが有名であろう。これはハムノイズのキャンセルのためフェンダースタイルのシングルコイルを横に2つ並べたものとして模式されるが、各々のポールピースの磁力は弱い。その結果、例えばストラトのピックアップと比較し、ふくよかでピュアな弦振動(磁力が弱いため)のトーンとなり、暖かな音色のマホガニーネックや(セミ)アコースティク構造によくマッチするのである。

4. ピックアップ交換の際に考えるべきこと
ピックアップ交換の際に検討すべき重要な点は、「出発点」を明らかにすることである。
というのも、前章でみたようにあるエレキギターに載っているピックアップは多くの場合”理由があって”そのギターに搭載され、しかもピックアップはマイクであってマイクでないので、むやみやたらにピックアップを交換しても(想像した)望んだ結果が得られるとは限らないのである。
エレキギターを試奏し購入する際に、ネックあるいはボディだけ売ってくれということは普通はしないように、ピックアップのみを取り上げて議論することはプレイヤーにとっては非常に難解である。もちろん、ピックアップそれぞれに明確な個性はあるので、あるギターを弾いた(あるいは音を聞いた)ときにどのようなピックアップを載せれば好みになるのか判断することは不可能ではない。しかし、これはどちらかというとエレキギター製作家としての思考の方法であって、必ずしも全てのプレイヤーに必要な能力ではないだろう。

しかし、いったん好みのエレキギターが見つかり出発点が決まると、景色は一転し、それこそアンプのEQ(イコライザー)を変化させるように望む音へチューニングすることも可能である。
例えば、カタログ品のピックアップであればトーンチャートや説明文は非常に参考になりうるし、ピックアップビルダー(あるいは相応の知識を持った人物)に相談できるような環境があれば自身にとって最良のピックアップを探す近道となるだろう。その際に出発点として、対象のエレキギターと、どのようなアンプとエフェクターでどのような音色のどのようなスタイルの音楽を演奏するのかというのを事細かに伝えるということが極めて重要である。これらの情報から、優れたビルダーはあなたの要望に対し、どのような変更をピックアップ(あるいは回路やギター本体のセッティング)に施すのか明確に答えてくれるだろう。
逆に言えば、特定のアンプ、特定のエフェクター、音色、スタイルが答えられないのであればピックアップ交換は難航する可能性が高い。

ところでここまで意図的に回路の話については避けてきた。というのも、回路についてはアンプのEQをどのようにいじってもそのギターそのものキャラクターが変わらないのと同様に、回路の違い(配線材・ポット類・コンデンサなど)によってピックアップの”性格”は大きくは変わらないからである。しかし、かといって無作為に設定したEQで演奏することはふつうないし、例えばチューブスクリーマーに代表されるようなブースターの特徴的なEQ的働きが果たす役割は非常に大きいものである。以下は、ピックアップおよびその回路のチューニングに関してよくあるアドバイスやヒントである。


Q1. 出音(特にローエンドを)をタイトに/ルーズにしたい。
A1. ピックアップのマウント方法をタイト/ルーズにする。エスカッションマウントであればダイレクトマウントに変更するなど。マウント元のピックガード、プレートの厚さ・硬さを変更する。

Q2. 音色は変えずにもう少しトレブルが欲しい/削りたい。
A2. ポットの抵抗値を上げる/下げる。

Q3. トップエンドの質感を変えたい。
A3. トーン用コンデンサの種類/容量値を変える。トーン回路ごとコンデンサを取り除く。配線材を変更する。ピックアップがカバードであればカバーを外すもしくは電気的にアースから浮かせる。

Q4. ローエンドを削りたい。
A4. ハイパスボリューム回路(トレブルブリード回路)、フェンダーのグリースバケットトーンを試す。ポットの残留抵抗の関係で10でも効果がある(ことが多い)。

Q5. フロントピックアップの音色をブライトに、リアピックアップの音色をウォームにしたい。
A5. ピックアップのマウント位置をずらす。ハムバッカーであればマウントの向きを逆にしてみる(非対称にデザインされているピックアップで有効)。

Q6. フェンダー的シングルコイルとギブソン的ハムバッカーの中間の音色が欲しい。
A6. TV Jonesなどのフィルタートロンハムバッカー(シングルコイル的)、ギブソンP90方式のシングルコイル(ハムバッカー的)を検討する。

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