(5)初期のキャッシュ稼ぎ案件から撤退し自社プロダクトの立ち上げに集中する(アーリー期)
スタートアップ「アーリー期」の1つ目の記事です。
※アーリー期:一般的には「事業立ち上げから、プロダクトマーケットフィットまでの軌道に載るまでの段階」を意味します。
今回の記事は、課題(5)「初期のキャッシュ稼ぎ案件から撤退し自社プロダクトの立ち上げに集中する」です。
①自社事業になかなか時間が使えない
2004年4月、株式会社エデュ・ファクトリー(アルーの創業時の社名)は、初の企業研修案件としてインターネット広告会社様の新入社員研修の仕事をさせていただきました。提供したサービスは、自社プロダクト「ロジカルシンキング100本ノック」と広告会社様向けのカスタマイズ研修でした。
この案件は、私の学生時代からの友人Tさんが発注してくださいました。
ご相談を頂いたタイミングで既に実施を前提としたお話でしたので、実質的に一切営業活動を行わずにいただいたお仕事でした。
当社としては大変ありがたいお話で、期待に応えるために全力で研修の作り込みを行い、納品を実施しました。
企業向け研修サービスは当社創業時から本業として取り組みたい分野でした。最初の実績が出来たことで更に多くの機会を作っていきたいと考えていました。
しかし、当時の私達は生き残るためにお金を稼ぐ必要がありました。
自社プロダクトを販売する企業向け研修以外にも、教育分野とは関係のないコンサルティング案件や、自社プロダクトではない下請け開発案件などをたくさん抱えておりました。
業務時間のほとんどをお金を稼ぐ案件に費やす必要がありました。自社プロダクトの開発や事業展開の議論は、週に一度夜間に取れるかどうかという忙しさ。このままでは自社プロダクトを成長させていくことはなかなか難しい状況でした。
当社だけではない多くのスタートアップ企業において、このような状況に直面されると思います。
キャッシュを稼ぐ仕事と、自社事業立ち上げのバランスをどのように取るか?非常に難しい問いです。
②コンサルティングの仕事をやめる意思決定をする
インターネット広告会社様への研修納品完了後のある日、私達創業メンバーは当時の湯島オフィスに集まりました。
自社事業として企業向け研修サービスを立ち上げていくためにどうするべきかを議論するためです。
その議論の中で、代表の落合さんが「教育分野に関係のないコンサルティング案件の受託をやめよう」という提案をしました。
2003年11月~2004年3月末までの当社の月商は平均して300万円程度。そのほとんどがコンサルティング案件でした。ゼロから会社をスタートしてようやくメンバーの給与が支払えるくらいになってきていました。
コンサルティング案件を続けていては、自社事業は立ち上がらないことは予想できました。しかし、その時点での会社のほとんどの売上が無くなってしまう、ということは簡単に決断できるものではありませんでした。
議論を経て、落合さんの提案に全員が合意をしました。
立ち返るべきは、会社のミッションである「社会の発展に貢献する次世代のパイオニア人材の育成に寄与すること」です。
キャッシュを稼ぐためだけに仕事をするのではなく、自社ミッション実現に向けた仕事をしなければ起業をした意味がありません。
自社ミッション実現のために、自社事業に資源をフォーカスする、という意思決定を行いました。
③コンサルティングをやめたことで時間ができる
コンサルティングというものは労働集約型の仕事です。
調査・企画検討・資料作成・顧客コミュニケーション等に時間が掛かります。コンサルティングの仕事をやめたことで私達には時間が出来ました。空いた時間を使い、企業向け研修サービスの営業活動や、商品開発に取り組みました。
●営業活動
最初の納品実績をベースに、企業の人事担当者の方にアポイントメント獲得活動を試みました。簡単にはアポは取れませんでしたが、それでも幾つかの新規商談機会を得ることができました。数か月前の創業直後に比べ、実績が一つでもあるのと無いのとでは大違いです。
●商品開発活動
ロジカルシンキング100本ノックの改善と、他の100本ノックシリーズの研修の開発に取り組みました。この時期の研修商品開発により生まれたものが「問題解決思考100本ノック」という思考系の研修プログラムです。その後改定を重ねて2021年現在でも多くのお客様に提供する商品となっています。
④YESプログラム
他にも様々な試行錯誤を繰り返しました。代表的な例が、当時厚生労働省が取り組む「YESプログラム」(若年者就職基礎能力修得支援事業)の認定講座の開発です。
若年者就職基礎能力修得支援事業とは、2004年10月1日から厚生労働省が始めた事業。通称「YESプログラム」(YESはYouth Employability Supportの略)。2009年度をもって事業を終了した。
「事務・営業系に必要な就職基礎能力を、コミュニケーション能力、職業人意識、基礎学力(読み書き、計算・計数・数学的思考力、社会人常識)、ビジネスマナー、資格取得(情報技術関係、経理・財務関係、語学力関係)の5領域に分け、基礎レベル(高校卒程度)、応用レベル(大学卒程度)にそれぞれ水準化したものをもとに、認定講座・試験を設け、それらにすべて合格した者が厚生労働省に認定申請した後、若年者就職基礎能力修得証明書(公証)を発行する事業」
というものでした。(※Wikipediaより引用)
私達は、厚生労働省より認定を受けるために、上記の全5分野の中の
●コミュニケーション能力
●職業人意識
●基礎学力(読み書き、計算・計数・数学的思考力、社会人常識)、
●ビジネスマナー
に関する教材を開発しました。
これらの教材は、研修プログラム開発のノウハウが無かった時代のものであり、今から見ると売り物と呼べるものではありません。ですがYESプログラムで作った教材を材料に、後年アルーの研修プログラムに発展していきました。(代表的なものは、ビジネスマナーを発展させた「プロフェッショナルマナー100本ノック」です)
⑤「撤退」の重要性
短期的には売上を減らすことになりましたが、自社事業に集中したことで営業活動量、商品・サービスの品質改善・種類が増加していき、その後の事業発展に繋がっていきました。
株式会社エデュ・ファクトリーが幸いにも、なんとか生き残ることができたのは3人の創業メンバーがいたことでした。
実は一気に全てのコンサルティングの仕事をやめたわけでなく、高橋浩一さんと私の2名がまずやめました。代表の落合さんは最後までコンサルティングの仕事をして、キャッシュを稼いでいました。こうした時間差を生かした役割分担ができたことで、一か八かの勝負をせずに済みました。
「自社の事業ドメインではないが稼げる仕事から撤退する」ということは、今から振り返っても非常に難しい判断です。しかし、私達が仮にあのままコンサルティングの仕事をしていたら、企業向け研修サービスの事業は立ち上がらなかったでしょうし、当社は組織拡大をすることができなかったと考えています。
数年遅れで済む、という話ではなかったと考えています。
当時のマーケット状況の話になりますが、2003年の当社設立と時を近くして、新興系の研修サービス会社が多く誕生しました。2021年現在、東証一部に上場されているリンクアンドモチベーション様、インソース様、チェンジ様。体験型ビジネスゲーム研修を社会に広めたウィルシード様、新入社員向け研修で強いプログラムをお持ちのシェイク様など。
古くから市場が立ち上がっていた企業向け研修業界のアップデートに向けて、新興系の会社がサービスを競い合い、市場開拓、成長をしていたタイミングでした。同時期に当社もそうした会社と競争をすることができたことで、事業発展をしていくことができたのです。
私達はその後複数の事業にチャレンジし、多くの事業を撤退していきました。結果として残ったものが企業向け研修サービスでした。新たな事業へのチャレンジと共に、成功しなかった事業の撤退は、企業成長のために欠かせない意思決定です。
本記事のまとめ
◆キャッシュを稼ぐ仕事と、自社事業立ち上げのリソースのバランスをどのように取るか?は永遠の命題
◆ミッション実現のために、自社事業に資源をフォーカスする
◆空いた時間で、自社事業の営業活動や、商品開発に取り組む
◆新たな事業へのチャレンジと共に、成功しなかった事業の撤退は、成長のために不可欠
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