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(9)超絶能力を持つ営業責任者のノウハウを営業メンバー共有していく(アーリー期)

スタートアップ「アーリー期」の5つ目の記事です。
※アーリー期:一般的には「事業立ち上げから、プロダクトマーケットフィットまでの軌道に載るまでの段階」を意味します。

今回の記事は、課題(9)「超絶能力を持つ営業責任者のノウハウを、営業メンバー共有していく」です。

課題9超絶能力を持つ営業責任者のノウハウをメンバーに共有していく

①企業研修事業初の大型案件の受注

2005年4月、株式会社エデュ・ファクトリー(アルーの創業時の社名)は大型の新入社員研修の準備をしていました。

大手通信サービス会社様の新入社員約200人に対し、ロジカルシンキング100本ノック、定量的思考100本ノック、プレゼンテーション100本ノック、ドキュメンテーション100本ノックなど、思考系スキルを学ぶ100本ノック研修シリーズをご提供する案件でした。

2004年4月に、キャッシュ稼ぎのためのコンサルティング案件の受託をやめることを意思決定し、自社事業の営業活動に集中して約1年後のことです。金額規模は数千万円。現在のアルーのビジネスにおいても大型と呼んでよい規模の案件です。

受注をしたのは、創業メンバーで取締役の高橋浩一さんでした。

営業経験ゼロからの起業で、当初は様々な迷走をしておりました。
しかし営業経験者から学んだり、新規訪問数を地道に積み上げてきたことで、たった1年弱という期間で高橋さんは営業能力をすさまじいレベルまで高められていました

当時の当社の研修プログラムは思考系スキルしかありませんでした。僅かな商材しかない中でも高橋さんは、新規の受注を加速的に積み上げられていきました。

上述の大手通信サービス会社様の案件は、お付き合いのあったパートナー講師の方よりご紹介をいただいた案件でした。思考系スキルを当社が、プロジェクトマネジメント系のスキルを別の同時期に創業されたIT業界に強い研修会社様が担当するという大型案件でした。

大きな規模の案件になれば、お客様の担当者の方々も複数参加され、意思決定に関与されます。厳しい要求をいただいた案件でしたが、高橋さんは多くの顧客担当者と関係を構築し、粘り強く提案と改善を積み重ね、受注に至りました。

自社事業として企業研修サービスを立ち上げると決め、ようやく一つのフラッグシップとなる大きな案件でした。

この案件は2005年4月から研修実施(納品)がスタートし、毎月1回・6か月渡り「集合研修」と「事前事後課題」に取り組んでいただくものでした。サービス水準が安定していない当時の私達は、納品活動においても大変苦労をしました。

②9割の売り上げを超絶能力の責任者一人で稼ぐ

同時期に、当社は事業の拡大に伴いオフィス移転を行いました。
銀座のコワーキングスペースから、西新橋にあるビルの40坪1フロアを借りました。
移転時7名の体制でした。このオフィスは2006年10月までの1年半利用することになります。当社のアーリー期の後半の舞台となる場所でした。

この時期から社員の採用活動の強化に取り組みました。高橋さんの大活躍により、企業向け研修サービス事業が安定的に成長し始めたためです。

課題としては、高橋さん一人に依存する営業活動を組織化していく必要がありましたので、営業職の方を中心にご入社いただきました。

この時期に御入社をされた営業のメンバーとしては・・・

Hさん(2004年12月頃入社:2006年末で退職。現在はパートナー講師)
斎藤俊輔さん(2005年5月頃入社:アルーの営業部長の一人)
Jさん(2005年7月頃入社:2008年末で退職。2008年頃はトップ営業)
中村俊介さん(2006年1月頃入社:アルーエグゼクティブコンサルタント)
Mさん(2006年4月頃入社:2016年頃退職。営業マネジャ―等歴任)
などの方々です。

(営業以外の方も多くいらっしゃいますが、ここでは営業関係の方のみをピックアップ。当初別の役割で入りその後営業に移られた方もここでは記載しておりません)

その後当社の中核を支える成果を発揮していただいた方々ばかりですが、御入社をされてから最初の1~2年は非常に苦労をされていました。

当時、創業メンバーの私は26~27歳。上述の営業メンバーもほぼ同世代の方々です。斎藤さんは人材派遣会社で、中村さんは大手損害保険会社で、それぞれ2‐3年の営業経験がありました。Jさんは当社で初めて営業の仕事に取り組まれました。

皆共通して、企業研修の営業は初めてであり、商材も仕組みも整っていないアーリー期のスタートアップですぐに成果は出せませんでした。

ともかくも営業メンバーが増え、高橋さんをリーダーとする営業部が出来上がり、組織的な活動を開始することになりました。(当時私は、パートナーセールスと、研修プログラム開発・納品を主として担当していました)

2005年の企業研修サービスは、冒頭に記載した大手通信サービス会社様の案件を筆頭に、多くの新規顧客との取引を開拓することができました。
その9割は、高橋浩一さんがおひとりで成果を上げられていました

③育成は難しい

新規採用をした営業メンバーが成果を出せるようになってもらうことが、当社が直面した新しい課題でした。営業責任者である高橋さん自身も、ほんの一年程前までは全くの営業活動の素人でしたので、「どうすれば売れるか?」を考えることができても、「どうすれば売れるように育てられるか?」については未経験の領域です。

よく言われることですが「名選手が必ずしも名監督になるとは限らない」というように、プレイヤーとして成果を上げる力と、マネジャーとしてメンバーを育て強いチームを作る力は異なります。高橋さんだけでなく、私も、代表の落合さんもこの当時、社会人5~6年目。新卒で入社したコンサルティング会社でも組織マネジメントの経験はなく、メンバーを育成することについて全くと言っていいほど経験がありませんでした。

私自身、この当時から15年以上を経た今になって、やっと「マネジメントのいろは」の「い」が分かってきたかもしれないと感じています。当時の私のマネジメントは今から思うと本当に酷いものでした。

中村さんから後年聞いた話ですが、当時の営業部には「絶対受注リスト」というものがあったそうです。その名の通り、このリストに載った顧客企業は何があっても絶対に受注をするという意思を持って営業活動をする必要がある、というものだったそうです。絶対受注リスト掲載企業が受注できないと、徹底的に原因と次のアクションの検討が求められたとのことです。
そのため新規の顧客のアポをとっても、「絶対受注リスト」にはなるべく受注確度が高まるまで掲載しないようにしていたとか・・・。

それ以外にもロールプレイの取組を日々行ったり、提案資料の改定をしたり、新規のアポイントメントを取得したり、営業活動の結果を報告したり・・・と、仕組みが全く整っていない中での営業活動です。メンバーは夜遅くまで残業をしており、体力・精神的にも疲労の極致で仕事をされていました。

ある営業メンバーの方は、よくPCに向かいながらウトウトとされていました。ある時、PCの画面が割れており、ウトウトとする中で歯で割ったのでは・・・という逸話までありました。

そうした状況の中で「早く営業メンバーを戦力化しなければ」という焦りは強くありました。後年振り返ってみれば、当時ご入社された営業メンバーの方々は、1‐2年という期間を経て大きく成果を出されるようになります。

結果論ではありますが、一つは戦力化までに時間が必要でした。各人経験を積むことで、自分なりのスタイルでの営業活動ができるようになりました。大切なのは「戦力化までの時間をどうやって短縮するか?」を考え、打ち手を打つことです。

もう一つは、高橋浩一さんの研究に基づく「勝つためのノウハウ」を言語化、形式知化して仕組みとして展開していくことが必要でした。

④「勝ちの算段シート」:形式知化された「無敗営業」の原点

勝ちの算段シート」とは、高橋さんが考案された営業ツールです。

株式会社エデュ・ファクトリーは企業研修サービス会社としては後発の企業です。100本ノックシリーズという自社研修プログラムも、まだまだ品質が高いものではありません。顧客実績も僅かばかりでした。

そうした状況のため、コンペティションの際には、基本的に「劣勢な状態」からスタートします。当然、劣勢な状態をそのままにしておけば、最終的に「負け」が確定してしまいます。

高橋さんが考えたのは、複数に渡る顧客の検討項目ごとに「自社」と「競合」の「差分」を明らかにし、その差分を解消する追加提案をする、という手法でした。
高橋さんはこの考え方を実践し、圧倒的な営業成果を生んでいましたが、それをメンバーに展開するために「シート化」したものが「勝ちの算段シート」でした。

ここでのポイントはシート化でした。
考え方を伝えるだけでは、人によって解釈の差が生まれます。解釈の差は行動の質の差につながり結果の精度が落ちてきます。シート化をすることで、検討するべき項目が一覧化され、文字ベースで自社と競合の差分を明らかにすることができたのです。

「勝ちの算段シート」は、その後ミドル期になり営業部門を一気に組織拡大してからも、新しい営業担当者育成に大きく役立ちました。

こうした実戦の中で磨き上げたノウハウを形式知化することが、組織力強化の源泉となっていきました。

⑤「超絶能力を持った営業」一人に依存しない

高橋さんはその後当社副社長として、ミドル期前半までの当社の大型の顧客開拓を多数され、2009年末でご退任されました。
(ミドル期の別の記事にてご紹介いたします)

高橋浩一さんのTwitterです。

現在は営業コンサルティング会社を経営され、2019年に出版された書籍「無敗営業」は6万部を超える大ヒットをされています。

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(個人的には「無敗営業」の前に出された「バカ売れ営業トーク1000」が好きです)

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私には到底成し得ないすごい営業力をお持ちの方です。元仲間としても友人としても、心から尊敬しております。

一方で、2005年当時から考えていたのは、「高橋さん一人の力に依存する体制から如何に脱却するか」ということでした。

一般論として多くのスタートアップ企業では、アーリー期などの初期においては超絶能力の一人の営業マンに依存しがちです。しかしサービスの進化も激しければ、人の入れ替わりも激しいのがスタートアップです。その人がいつの日かいなくなることを前提に物事を考える必要があります。

そのためには営業の組織化を進める必要があります。
営業の組織化のためには、営業担当の採用・育成・配置・現場でのマネジメント・顧客割り振りの工夫・営業資料・商談機会づくり・インセンティブ設計・ヨミ管理・情報システム整備など、多岐に渡る仕組みづくりが必要となります。それ以外にも商材の拡充や品質向上、納品・ロジスティクスの業務整備なども重要です。

どれも短期で精度が高いものが実現できるわけではありません。
それでも一人のスーパーマンに依存せず組織としての営業を志向することを強く決意して、粘り強く取り組んでいくことが重要なのです。


本記事のまとめ

◆多くのスタートアップ企業では、アーリー期などの初期においては超絶能力の一人の営業マンに依存しがち
◆戦力化までに時間は必要。その時間を短縮するための仕組みづくりが大切
◆「勝つためのノウハウ」を言語化、形式知化して仕組みとして展開していくことも重要
◆スーパーマンがいなくなることを前提として営業の組織化を進める


次の記事は・・・・

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本記事を含む「アーリー期」の全体像を解説した記事はこちらになります。
アーリー期のスタート時点・主たる活動・到達地点について解説しています。よろしければぜひご覧ください。

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本noteでは別途アルーの「研修プログラム開発のストーリーとノウハウ」を公開しています。ぜひご覧ください。

<アルーのすごい研修開発バイブルを読まれる際はこちら↓>

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